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36年ぶりの続編ながら、圧倒的な絶賛で迎えられる『トップガン マーヴェリック』

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『トップガン マーヴェリック』のロンドンプレミアより(写真:ロイター/アフロ)

今から36年前の1986年。その年末の12/6にお正月映画の目玉として公開されたのが、トム・クルーズ主演の『トップガン』だった。

すでにアメリカでは5月に封切られ、年間ナンバーワンの成績を記録。その勢いは日本にも伝播し、『トップガン』は1987年度、日本においても年間トップの数字を叩き出した。その前年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が1位だったが、その数字も『トップガン』は上回ったのである。

当時、リアルタイムで観た人は、それ以前の常識を超えた飛行アクションや、パイロットたちの勇姿に心から痺れた。この映画に影響されて航空自衛隊を志願した人も増えたという話も耳にする。サントラやファッション、バイクも含め、『トップガン』が起こしたブームは、ちょっとした社会現象にもなった。その後、公開時には観ていなかった若い世代も夢中にさせる。そんな“魔力”をもつ作品でもあった。

ただ、映画としての評価が、めちゃくちゃ高いわけではなかった。たとえば映画雑誌、キネマ旬報の外国映画ベストテンでは『トップガン』は、なんと53位。これは批評家の投票なので仕方ないが、一方で読者のベストテンはどうかというと、こちらも発表された30位以内にも入らなかった

アメリカの映画サイト、ロッテントマトでの評価も『トップガン』は批評家58%、一般観客83%と、やはりそんなにいい数字とは言えない。では36年ぶりの続編、『トップガン マーヴェリック』はどうなのか。なんと公開前の現在(5/22)、ロッテントマトで批評家96%という大絶賛の状態! すでに日本でもマスコミ、関係者に向けた試写が行われているが、そこでも圧倒的な支持を獲得しているのだ。

単純に比較する作品ではないが、トム・クルーズのマーヴェリック役のように、同じ役を同じ俳優が演じた久しぶりの続編ということでは、たとえば『ブレードランナー』(1982年)が、ハリソン・フォードのデッカード役で35年ぶりに『ブレードランナー 2049』(2017年)が作られたという例がある。こちらはロッテントマトで『ブレードランナー』89%→『ブレードランナー 2049』88%と、ほぼ同数字。評価の高かった1作目に頑張って追いついた印象だ。

『トップガン』の場合、58%→96%の急上昇はちょっと異例だ。

「トムが正真正銘のスターであることを改めて思い出させる」

「前作への愛とオマージュ、ファンへのサービス精神。しかも前作で弱かった面を新たなアイデアで現代的にアップデートしていた」

など激賞が並ぶ(ロッテントマトより)。

たしかに『トップガン マーヴェリック』は、トム・クルーズが同じ役を演じているだけでなく、全体として前作のムードを明らかに踏襲。ちょっとばかり80年代の懐かしさも漂わせるが、なぜか古臭くなく、むしろ近年忘れかけていた「映画」の魅力を強引にも復活させ、それが見事に機能した作品になっている。「こういう映画をスクリーンで観たかったんだよ!」という声が多く聞かれるのも事実。本能を刺激するマジックがあるようだ。

もちろんトム・クルーズの衰えないスターパワーも成功の要因のひとつだが、とはいえ、トムの主演作は『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』がロッテントマトで16%、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』が38%(1作目の63%からも大きくダウン)など近年はハズレもある。しかし『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』97%という大当たりもあり、その振れ幅は大きい。『ミッション:インポッシブル』は1作目から66%→57%→71%→93%→97%と右肩上がりとなっており、『トップガン マーヴェリック』は2作目ながらトム作品の大成功パターンである。

『トップガン マーヴェリック』は今週末、5/27の日本公開となるが、トム・クルーズの来日も実現。新型コロナウイルスのパンデミックを経て、久々の特大スターのキャンペーンとして大きく報道されることだろう。そしてその熱が、洋画不況といわれるここ数年の興行界に、どこまでインパクトを与えることができるか。重責をまっとうしてくれることに期待したい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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