1993年に公開された『ジュラシック・パーク』(9/3金曜ロードショー放映)は、当時としては異例のリアルCGも一部で使って恐竜を映像化し、映画史に残る革命的一作となった。巨大な恐竜の生々しさはもちろんだが、誰もが鮮明に記憶に残っているのは、子供たち(レックスとティムの姉弟)が、パークのキッチンで凶暴な小型恐竜、ラプトルに襲われるシーンだろう。スティーヴン・スピルバーグの演出が冴えわたる、異様なスリルと緊迫感。このシーンも映画史に残ると言っていい。

ラプトルに襲われる弟のティムが、時を経て、2018年、『ボヘミアン・ラプソディ』でクイーンのジョン・ディーコンを演じるとは……。俳優の運命とは、そんなものかもしれないが、子役として成功後、順調にキャリアを重ねるのは並大抵のものではない。スピルバーグが、子役に「演じること」の根本的楽しさを教える監督であることは間違いない。

一つ前の作品のオーディションで見出されていた

ティム役のジョゼフ・マゼロ(以前はマッゼロという表記もあった)は、5歳で俳優デビュー。じつはスピルバーグ作品では『フック』(91)のオーディションを受けていた。ロビン・ウィリアムズのピーター・バニング(ピーター・パン)の息子ジャック役だ。残念ながら年齢が低すぎて役はつかめなかったが、スピルバーグはその時点でマゼロの才能を実感。次の『ジュラシック・パーク』に呼んだのだ。原作では兄と妹なのだが、マゼロに合わせると妹は幼すぎるので、姉と弟に変更された。

キッチンでの猛攻で、ティムが冷凍庫に逃れるシーンは、マゼロの9歳の誕生日に撮影。車輪付きで手動で動いていたラプトルの爪におでこを直撃され、一瞬気を失ったかのように床に倒れたマゼロだが、「カット」の瞬間に、スピルバーグのアイデアで全員がハッピー・バースデーを歌ったという。

『ラジオ・フライヤー』のプレミアより。右がジョゼフ・マゼロ(当時8歳)。左が共演のイライジャ・ウッド(当時11歳)。中央はプレミアのゲスト、コリー・フェルドマン。
『ラジオ・フライヤー』のプレミアより。右がジョゼフ・マゼロ(当時8歳)。左が共演のイライジャ・ウッド(当時11歳)。中央はプレミアのゲスト、コリー・フェルドマン。写真:REX/アフロ

すでに『ラジオ・フライヤー』(92)などで子役として知られていたジョゼフ・マゼロは『ジュラシック』で大人気となり、『永遠の愛に生きて』(93)、『激流』(94)のメインキャストで活躍。今でも多くの映画ファンが「忘れえぬ感動作」と挙げる、1995年の『マイ・フレンド・フォーエバー』ではHIVに感染した少年を名演。友情ストーリーで泣かせた。その後のマゼロの俳優人生は、まさに「地道」。しかしその地道な継続が、『ボヘミアン・ラプソディ』での再ブレイクにつながったのである。

お姉ちゃん役は今は画家

では、ティムの姉、レックスは何をしているのか? 演じたアリアナ・リチャーズは、マゼロとともに続編の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(97)に出演。その後も俳優活動を続けたが、代表作は『ジュラシック・パーク』の2作のみで、現在は画家としての活動がメイン。たまに俳優の仕事をこなしているようだ。アリアナの作品はこちらで確認できる。

2018年、『ジュラシック・パーク/炎の王国』のプレミアに招ばれたアリアナ・リチャーズ。
2018年、『ジュラシック・パーク/炎の王国』のプレミアに招ばれたアリアナ・リチャーズ。写真:Shutterstock/アフロ

ジョゼフ・マゼロと同じように、子役時代にスピルバーグによって将来を切り開かれた俳優は何人もいる。

スピルバーグを父と慕うドリュー・バリモア

代表格は『E.T.』(82)のドリュー・バリモアで、俳優一家に生まれ、すでに映画デビューしていた彼女だが、公開時は7歳だった同作で、E.T.と絆を育むガーティーを愛くるしく演じ、全世界にその名を知らしめた。バリモアは、とにかくスピルバーグとの仕事が楽しかったらしく、撮影中の仮装パーティーで「おばあさん」の扮装で現れたスピルバーグに心から驚き、大好きになった。撮影が終わることを本気で悲しんだと回想している。その後、バリモアは『E.T.』の宣伝キャンペーンでスピルバーグや他のキャストと来日も果たした。

子供時代から飲酒や喫煙、マリファナ、コカインをおぼえたバリモアは、子役が陥りやすいスランプの時期も経験しながら、俳優だけでなく監督、プロデューサーとしても活躍するようになった。初監督作『ローラーガールズ・ダイアリー』(09)のプレミアにはスピルバーグもゲストで現れ、長年の絆を再確認させた。バリモアは、スピルバーグを「父のような存在」と認めている。

2002年、『E.T.』20周年のイベントで再会した、(左から)スティーヴン・スピルバーグ、ドリュー・バリモア、ヘンリー・トーマス。
2002年、『E.T.』20周年のイベントで再会した、(左から)スティーヴン・スピルバーグ、ドリュー・バリモア、ヘンリー・トーマス。写真:ロイター/アフロ

『E.T.』の主人公エリオット少年を演じたヘンリー・トーマス(公開時10歳)は、その後、話題作への出演が減ったものの、こちらもジョセフ・マゼロのように地道に俳優業を継続。メインキャストではないが、マーティン・スコセッシの『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)、M・ナイト・シャマランの『ドクター・スリープ』(19)などで、あのエリオット少年の面影を思い出させてくれる。

カメレオン俳優の原点にもなった

そしてスピルバーグが、子役から才能を開花させたといえば、クリスチャン・ベール。4000人以上のオーディションで選ばれ、映画デビュー作となった『太陽の帝国』(87)で、上海のイギリス租界で日本軍のゼロ戦に憧れる主人公の少年を演じた。公開時は13歳。ベールはカメラが回る前に必ず、5分間ランニングとジャンプを繰り返して本番に挑んだという。過度の緊張感によって思うような演技ができないベールに、スピルバーグは父親のように徹底して優しく指導を与えた。

ベールはバットマン役などでトップスターとなり、『ザ・ファイター』(10)でオスカー受賞。過剰なまでの増量・減量もいとわず、役そのものに「変身」する俳優魂。その源の一部は、スピルバーグにあるのだ。

『太陽の帝国』のプレミアにて、スピルバーグ(左)とクリスチャン・ベール
『太陽の帝国』のプレミアにて、スピルバーグ(左)とクリスチャン・ベール写真:REX/アフロ

その他にも『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)のキー・ホイ・クァン(公開時12歳。以下同様)、『A.I.』(01)のハーレイ・ジョエル・オスメント(13歳)、『宇宙戦争』(05)のダコタ・ファニング(11歳)のように、すでに有名だった天才子役を使うケースも多いが、それぞれの作品の「顔」になって、映画ファンの記憶に刻まれた。クァンはその後、スタントコーディネーターも経験しつつ、俳優を継続。オスメントは、お騒がせなニュースも多いが、こちらも俳優業。ファニングも順調に俳優のキャリアを重ねている。『フック』でジャックを演じたチャーリー・コースモー(13歳)は弁護士、法学教授となるなど、前出のアリアナ・リチャーズと同様、他分野で才能を発揮している人もいる。

自身の監督作以外でも、プロデューサーとして『グーニーズ』(85)など多くの作品で子役のキャスティングに関わってきたスティーヴン・スピルバーグ。その後の役者人生はさまざまにしても、多くの人に愛される子役を見極める才能が、やはり彼はズバ抜けている。これは子役ではないが、プロデュース作品の『トランスフォーマー』でシャイア・ラブーフを抜擢した際、そのポイントを聞くと、こんな答えが返ってきたことがある。

「(日本語で)イッパンジン

誰もが等身大で感情移入できる。そんな役者を起用したいのだろう。

『ジュラシック・パーク』で凶暴なラプトルに絶叫するジョゼフ・マゼロに、多くの人が“自分事”と感じてしまうのは、スピルバーグの目利きによるもので、クイーンの中で、最も「一般人」のイメージがあるジョン・ディーコンをマゼロが好演するのを観て、彼はおそらく父親のように目を細めていたに違いない。

金曜ロードショーHPより
金曜ロードショーHPより

参考資料:

Internet Movie Darabase "Jurassic Park" " Empire of the Sun"

キネマ旬報2021年8月下旬号 鬼塚大輔氏「誰でも一つは持っている」