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英国の“編み物王子”金メダリスト、夫はアカデミー賞受賞者。本人も映画出演経験が!?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
7/26のシンクロ高飛び込み表彰式でのトーマス・デーリー(左)(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪の男子シンクロ高飛び込みで金メダルを獲得した英国のトーマス・デーリーは、早速、メダル入れのケースを編み物で自作してインスタにアップし、同国選手を応援する観客席でも編み物をしている姿がキャッチされるなど、“編み物王子”として熱視線が送られている。

映画ファンにとって、もうひとつ注目してほしいのは、彼の夫である。ダスティン・ランス・ブラック。アメリカ人の脚本家。しかもアカデミー賞を受賞しているのだ。デーリーは、すでにロンドンとリオで銅メダルを取っているので、英国で彼らは「五輪メダリストとオスカー受賞者のカップル」としても知られている。

ブラックがアカデミー賞を受賞したのは、2008年の『ミルク』。1970年代のサンフランシスコで、同性愛者を公言し、市政執行委員となるも殺害されたハーヴェイ・ミルクの人生を描き、ミルクを演じたショーン・ペンもアカデミー賞主演男優賞に輝いた。

授賞式でオスカーを受け取ったブラックは、モルモン教の家庭に育った彼が、ハーヴェイ・ミルクの人生を知ったことで、「いつの日か自分の人生を生き、場合によっては恋におち、結婚できるかもしれないと希望をもらえた」と、切々と語った。これは近年のアカデミー賞スピーチの中でも最も感動的なモーメントのひとつとして語り継がれている。

そのスピーチでの願いをかなえたのが、2017年、英国でのトーマス・デーリーとの結婚だった。

ダスティン・ランス・ブラックは『ミルク』の後にも、クリント・イーストウッド監督でレオナルド・ディカプリオが主演した『J・エドガー』の脚本を手がけ、HBOのドラマシリーズ「ビッグ・ラブ」などの脚本に参加。現在は、アンドリュー・ガーフィールド主演のTVミニシリーズに脚本、プロデューサーとして関わり、脚本家としてのキャリアを積んでいる。2018年には、その功績でWGA(全米脚本家組合)アワードを受賞した(授賞式にはトーマス・デーリーも出席)。

そしてトーマスも映画に出演した経験がある。それは『シャークネード5 ワールド・タイフーン』。日本でもマニアックなファンがいる、サメを吸い上げるトルネードを描いた、笑いもたっぷりのパニック映画シリーズ。トーマスは本人役でロンドンのテムズ川に飛び込むシーンに挑んでいる。

五輪メダリストと映画界、ハリウッドとの関係は、たとえば1998年、長野の男子フィギュアスケート金メダリストのイリヤ・クーリックが、ハリウッドの青春映画『センターステージ』のメインキャストで俳優デビューするなど、たまに見受けられる。元トップアスリートのスターといえばジェイソン・ステイサムがいるが、飛び込みの英国代表になったものの、残念ながら五輪には出場していない。

日本でもメダリストではないが、水泳で1988年のソウル、1992年のアトランタと2大会連続出場を果たし、俳優に転身した藤本隆宏の例がある。

また、アカデミー賞受賞者の「家族」が金メダリストということなら、伝説のスターの名が思い浮かぶ。グレース・ケリーだ。

「クール・ビューティー」として世界に愛されたグレース・ケリー。アルフレッド・ヒッチコック監督の『泥棒成金』より。
「クール・ビューティー」として世界に愛されたグレース・ケリー。アルフレッド・ヒッチコック監督の『泥棒成金』より。写真:REX/アフロ

『真昼の決闘』や『裏窓』で、ハリウッドのトップスターとなり、1955年の『喝采』でアカデミー賞主演女優賞を受賞。モナコ大公のレーニエ3世と結婚し、グレース妃となるも、52歳で自動車事故で亡くなった、文字どおりの伝説のスター。そのグレース・ケリーの父親、ジョン・ブレンダン・ケリーはボートのアメリカ代表選手で、1920年のアントワープ五輪で2個、1924年のパリ五輪で1個の金メダルを獲得している。そして兄のジョン・ブレンダン・ケリー・ジュニアも、1956年のメルボルン五輪のボートで銅メダル。スターの家族はメダリストであった。

時を経て、金メダリストとアカデミー賞受賞者の「家族」に注目が集まった東京五輪。

コロナ禍でなければ、ダスティン・ランス・ブラックも愛する家族の勇姿を生観戦するために、東京に来ていたかもしれない。

トーマス・デーリーは、8月6日に行われる男子高飛び込みにも出場予定で、今大会、2つ目のメダルを狙う。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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