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緊急事態宣言「再延長」が濃厚のなか、映画館への休業要請も続くのか。そうであれば東京都は説明責任を

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスの新規陽性者数、および重体者数の減少が期待どおりではなく、5/31までの東京都や大阪府などへの緊急事態宣言は再び延長されるのでは……とささやかれ始めた。

今回の緊急事態宣言で、1回目の宣言延長時に疑問を投げかけられたのが、東京都や大阪府の映画館に対する休業要請である。スポーツや劇場(舞台)などは「有観客イベント」として客数を制限して営業できることにしたのに対し、1000平方メートル以上の大型商業施設に含まれる映画館、つまりシネコンの多くは休業要請という線引きがなされた。これは東京都や大阪府の判断である。緊急事態宣言の1回目の延長時に国は、1000平方メートル以上の大型商業施設に対し、20時までの時短営業へと緩和を下した。つまり映画館の営業はOKにされたにもかかわらず、自治体の判断で休業要請が続いているのだが、それに対する東京都の説明が、まったくもって曖昧なため、各所から非難の声も上がっている。

たとえば同じく緊急事態宣言が継続中の京都府は、50%以下の客数で映画館の営業を認める方向へシフトした。同じく新たに宣言下となった愛知県や福岡県なども時短および収容率に配慮しつつ、営業している。この差異について東京都は、「一方で映画館のように無観客で開催ができないイベント系施設、特にイベントを行う施設に着目した場合は、無観客開催ができないものについては、現行休業ということになっております」と何やら意味不明な回答をしたうえで、国による時間短縮での営業許可にかかわらず「都としてはまだその段階でなないという判断」で休業要請を続けている(5/7の東京都知事会見録での質疑応答より)。

エビデンスもないまま「なんとなく」な人流の抑制

要するに、スポーツや舞台はとりあえず少ない観客を入れていいけれど、繁華街のシネコンはもうちょっと我慢しなさい。そうすれば多少、人流の抑制につながるから……ということだと推測できる。

このように、科学的説明もなく「推測」で理解しろ、というのは傲慢ではないか。単に「要請しやすいから」と区分けしているとしか思えない。クラスター発生の報告もなく、マスク着用での静かな鑑賞、法律に従った換気設備、徹底した感染対策を行っている映画館への休業要請に疑問が呈されるのは、当然であろう。そもそも「映画を観に行こう」と考える人、とくに若い世代が「近くのシネコンが開いてない」→「じゃあステイホーム」となるだろうか? 現在の状況なら、他の目的を見つけて外出するのではないか?

緊急事態宣言の延長後、つまりゴールデンウイーク以降、シネコン以外の、いわゆるミニシアターなど小規模の映画館は、東京や大阪でも営業を再開した。

一方で、映画興行は深刻になるばかりで、本来なら観に来てくれたであろう観客を逃すことで、休業要請を受けた当該の映画館はもちろん、映画を作った人たちにも多大なショックを与えている。こうした自治体独自の判断に対し、映画館関係者や映画監督を中心にした抗議の「サイレントデモ」が東京都庁や大阪府庁の前で行われ、東京都医師会の尾崎治夫会長でさえ、自身のFacebookで映画館の休業が緩和されなかったことに疑問を投げかけたほどだ。さらに現在、『るろうに剣心 最終章 The Final』が公開(宣言前の4/21公開)されている大友啓史監督が国会内での憲法調査会で東京都から納得がいく説明がなされることを求めた。

東京や大阪でシネコンが休業していても、他の県では営業しているではないか? しかし全国規模のロードショー作品は、30〜40%が大都市圏での売上となるため、合理的な説明がなされないことに大友監督も忸怩たる思いであることを告白。これは他のクリエイターたちの思いを代弁している。

休業中のTOHOシネマズ新宿の入り口。上映中作品のパネルは空欄の状態。(撮影/筆者)
休業中のTOHOシネマズ新宿の入り口。上映中作品のパネルは空欄の状態。(撮影/筆者)

現在公開中の『〜The Final』に続き、10年間のシリーズ完結となる『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は6/4に公開が決まっており、もし緊急事態宣言が5/31に解除されず、引き続き東京都などによる映画館への休業要請が継続されるとしたら、大きな打撃となるに違いない。『〜The Beginning』は、とりえあず公開延期を決めていない。

今回の緊急事態宣言が出された後、話題作が公開延期されるか、予定どおりの公開に踏み切るかで判断が大きく分かれた。5/14公開予定だった『ゴジラvsコング』は延期。『アメリカン・ユートピア』のように5/7公開が一旦延期され、5/28に決まった作品もある。吉永小百合主演の『いのちの停車場』は、東京・大阪のシネコンで上映できないのを覚悟のうえで、全国各地の興行のためにあえて予定どおりの5/21公開に踏み切った。『ジェントルメン』や、オスカー受賞作『ファーザー』も、休業要請の期間に公開。各社、各作品、休業要請に対し、どうするのがベストなのか迷っているようでもある。

東京オリンピックのために、映画館の休業要請も延期なのか

今後、大規模ロードショーの話題作としては、『るろ剣〜The Beginning』の翌週の6/11に菅田将暉主演の『キャラクター』が公開。さらに6/18には、今回の緊急事態宣言によって公開を再延期した作品が重なっている。ハリウッド映画の『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は5/28→6/18、長野五輪を再現する『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』は5/7→6/18と、それぞれ宣言解除を見越しての公開日変更がなされた。同じ6/18には『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(これも2月からの延期)、人気ゲームのハリウッド実写化『モータルコンバット』なども公開される予定。

このまま東京都などの映画館休業要請が続けば、これら6/18公開の作品で再び延期を決めるものも出てくるのだろうか? 東京オリンピックを控え、少しでも新規陽性者の数を抑えるため、緊急事態宣言の延長は6/20までとか、7月頭までなどという噂も聞こえてくる。

せめて今月末までの緊急事態宣言が延長されるのなら、映画館の休業要請は緩和してほしいものだが、どんな判断になるのか。もし同じ要請を継続するのであれば、東京都は「理由は推測できるでしょう?」という上から目線の曖昧な説明ではなく、しっかりとした根拠とともに説明責任を果たしてほしい。少なくとも小池都知事や都の責任者は、われわれ一般市民よりも、状況を精査し、適切な判断を下すことができる「有能な人」のはずなのだから。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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