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メガヒットは「鬼滅」だけではなかった、コロナ禍の2020年、映画興行は一極集中がさらに加速

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(c) 2019 Disney. All Rights Reserved.

2020年の映画興行を振り返ると、やはり『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴代記録更新が最大のトピックとなるが、じつは他のメガヒット作も存在している。

日本の場合、年間の興行収入ランキングは、前年末に公開されたお正月映画も含まれる(アメリカなどは1/1〜12/31の公開作を「年間」としている)。そのため、年間2位には133.7億円の『アナと雪の女王2』、3位には73.2億円の『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』と記録されることになるのだ。『アナ雪』の数字は、例年ならトップに立ってもいい高さ。メガヒットのひとつの目安である「興収100億円超え」は、毎年、1〜3本出るのが恒例。つまり2本出た2020年は、例年のレベルをクリアしたことになる。ただ、『アナ雪』や『スター・ウォーズ』が今年のヒット作だったことは、感覚的にかなり過去のようでもある。それだけ春〜夏は大ヒット作が一切出現せず、映画の興行が厳しい状況だったことも実感できる。

要するにベスト3の数字を見るだけだと、2020年はメガヒット作に恵まれた年だと言ってもいい。しかしもちろん、新型コロナウイルスによって映画館が閉鎖されていた時期もあり、総合の興行収入が例年より減少するのは避けられないだろう。

その現実は、現段階の2020年ベストテン、下位の作品の数字に表れている(数字は12/28時点)。

1)劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 324.7億円

2)アナと雪の女王2 133.7億円

3)スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 73.2億円

4)今日から俺は!!劇場版 53.7億円

5)パラサイト 半地下の家族 47.4億円

6)コンフィデンスマンJP プリンセス編 38.4億円

7)映画ドラえもん のび太の新恐竜 33.5億円

8)TENET テネット 27.2億円

9)事故物件 恐い間取り 23.5億円

10)新解釈・三國志 22.5億円

これが例年のベストテンになると、たとえば2019年は

1)天気の子 139億円

2)アラジン 121億円

3)トイ・ストーリー4 100億円

4)名探偵コナン 紺青の拳 93億円

5)ライオン・キング 66億円

6)ファンタスティック・ビースト黒い魔法使いの誕生 65億円

7)アベンジャーズ/エンドゲーム 61億円

8)キングダム 56億円

9)劇場版 ONE PIECE STAMPEDE 55億円

10)映画ドラえもん のび太の月面探査記 50億円

と、ベストテンはすべて50億円以上。たとば2020年、8位の『TENET テネット』の27.2億円という数字は、2019年に当てはめると22位にまで落ちてしまう。

同じように2018年は

1)ボヘミアン・ラプソディ 104.6億円

2)劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- 93億円

3)名探偵コナン ゼロの執行人 91.8億円

4)ジュラシック・ワールド 炎の王国 80.7億円

5)スター・ウォーズ/最後のジェダイ 75.1億円

6)映画ドラえもん のび太の宝島 53.7億円

7)グレイテスト・ショーマン 52.2億円

8)リメンバー・ミー 50億円

9)インクレディブル・ファミリー 49億円

10)ミッション:インポッシブル フォールアウト 47.2億円

全体的に2019年より低くなっているものの、ベストテン下位も安定の数字である。ここでも『TENET テネット』は21位相当となる。

以下、2017年は、1位『美女と野獣』124億円〜10位『ラ・ラ・ランド』44.2億円、2016年は、1位『君の名は。』250.3億円〜10位『ペット』42.4億円、2015年は、1位『ジュラシック・ワールド』95.3億円〜10位『インサイド・ヘッド』40.4億円。

30億円未満の作品がベストテンに入った年となると、2000年にまでさかのぼる(9位『ターザン』が28億円、10位『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』が25億円)。やはり2020年のメガヒット作以外の苦戦は、現実である。

そして、ベストテン10作品の合計興行収入を見てみると(カッコ内は年間の総合興行収入と公開本数)、

2020年:777.8億円

2019年:806億円 (2611億円/1278本)

2018年:697.3億円 (2225億円/1192本)

2017年:644億円 (2285億円/1187本)

2016年:852.6億円 (2355億円/1149本)

2015年:616.3億円 (2171億円/1136本)

と、上位作品だけを考えれば、2020年の成績はここ数年でも平均以上。しかしベストテン圏外の作品となると、例年に比べて数字のガタ落ち度が激しく、本来ならもっと高い数字を望めた作品、たとえば『キャッツ』(13.5億円)、『罪の声』(12億円)、『浅田家!』(11.8億円)、『2分の1の魔法』(8.7億円)、『Fukushima 50』(7.9億円)、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(4.9億円)のように、明らかにコロナ禍の影響が感じられる。2020年の最終総合興収は1月末に発表されるが、はたしてベストテンの数字に比例するかどうか……。

10/16の公開と同時期に、全席のチケットを販売したシネコンも多く、『鬼滅の刃』は前代未聞のスタートダッシュを切った。
10/16の公開と同時期に、全席のチケットを販売したシネコンも多く、『鬼滅の刃』は前代未聞のスタートダッシュを切った。写真:つのだよしお/アフロ

『鬼滅』が公開されてからは、シネコンの多くのスクリーンを同作が埋めたことで、他の作品の上映回数が減らざるをえなくなり、「観に行きたかったけど、観たい場所や時間が制限されて断念した」というアオリもくらってしまい、地道な数字の積み重ねが難しくなった側面も指摘された。さらにコロナ禍で、中高年の映画ファンが劇場から足を遠ざけ、それが習慣化されたことで、話題作以外、とくにミニシアターの苦境は続くことになった。

新型コロナウイルスは、ここ数年、顕著になっていた「大ヒットする作品に、さらに観客が集まる」という一極集中型の映画興行を、結果的にさらに加速させたようにも思える。

ただ、映画界全体をみれば、コロナ禍の直前の大ヒット作と、『鬼滅』の大記録により、年間の「興行」は最悪のシナリオは免れたと言っていい。2021年は『鬼滅』後の作品、おもに洋画の大作にどこまで観客が戻ってくるか、全体の底上げを映画界は期待している。

※年間の興行収入、上映本数などの数字は、日本映画製作者連盟発表のデータを参照。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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