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社会現象化する「鬼滅の刃」、目標は100億円から一気に200億円に!? その可能性と条件は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
10/22のTOHOシネマズ新宿は20回上映。さすがに平日なので満席は出ていない

10/16に公開が始まった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、週末の3日間で興行収入46.2億円、動員342万人という、とてつもない記録を打ち立てた。過去の記録の2倍以上という空前のブームに乗って、あらゆるメディアでさまざまなニュースで取り上げられ、社会現象となっている。

TOHOシネマズ新宿が、12スクリーンのうち11スクリーンを『鬼滅』に当てたのを筆頭に、1日20〜30回の上映を行うシネコンも目立ち、そのうえで多くの回が満席になるなど、スタートダッシュの猛攻は異例だった。劇場版に向けて盛り上がったファンの心理、新型コロナウイルスで他に話題作が少ない状況など、さまざまな要因が重なった結果ではあるが、それでも予想を超えた驚くべき集客。観た人がSNSなどに書き込む反応もひじょうに高評価なので、さらなる好循環を生んでいる。

とはいえ、さすがに平日になると劇場も穏やかな状況になってきた。週明けの月・火に比べ、後半になると、TOHOシネマズ新宿なども混雑する回があるとはいえ、「満席で観られない」ということはない。

公開週末の驚異的な数字からすると、その年を代表するメガヒット作の基準である「興収100億円」はほぼ確定的。それを超えてどこまで数字を伸ばせるかに今後、注目が集まる。アニメ作品の歴代の数字を振り返れば、308億円の『千と千尋の神隠し』(実写を含めた日本歴代1位)、255億円の『アナと雪の女王』、250億円の『君の名は。』と並ぶが、『鬼滅』はそれらに迫る、あるいは抜く可能性も秘めているからだ。

ただ、歴代の興収上位作品の傾向を振り返ると、公開週はもちろんのこと、そこから息の長い集客力に支えられてきたことがわかる。

『アナ雪』の場合、公開初日から3日間で9億8640万円を記録。一見、ものすごい数字だが、前年のディズニー/ピクサー作品の『モンスターズ・ユニバーシティ』の90%であり、当初は同作の89.6億円という興収がひとつの目標になった。しかし2週目、土日の数字が前週の114%に跳ね上がり、さらに3週目も前週比101%、4週目もほとんど数字が落ちず、結果的に『アナ雪』は15週も週末ランキングのトップに君臨することになった(途中で一週だけ『名探偵コナン』にトップを譲ったので連続ではない)。

(画像制作:Yahoo!ニュース)
(画像制作:Yahoo!ニュース)

『君の名は。』に目を移すと、公開の週末2日間で9億3000万円を記録。2週目は11億6000万円で124.8%と上昇した。3週目が11億3500万円、4週目が10億7600万円とほぼ横ばい12週でトップを記録した(こちらも途中の一週で『デスノート light up the NEW world』に譲る)。

ちなみに『千と千尋』は公開初日で、興収193億円の『もののけ姫』の150%を記録したことで、目標が200億円に想定された。結局、15週にわたってトップとなり(これも途中で一度『トゥームレイダー』に譲る)、日本国内の記録を打ち出したのである。

『鬼滅』の場合、2週目の週末も公開週(土日で33億5400万円)と同程度の数字になれば、間のウイークデーも入れて、100億円に一気に近づくことになる。そうなれば、その後、数字は徐々に下降したとしても、200億円が射程に入ってくるだろう。はたして、それは可能だろうか?

原作からアニメへと心をつかまれた多くのファンが、公開の週末に大挙、劇場に押し寄せたことが考えられるので、2週目は数字が落ちるかもしれない。しかしファンの中には「1週目は混むので、2週目以降」と考えている人も多いはずだし、何より、こうして日々ニュースで取り上げられることで、『鬼滅』に無関心だった人が2週目以降、週末を中心に劇場へ向かうことになる。『鬼滅』の予備知識がゼロでも興奮と感動が味わえること、つまり初心者にも比較的やさしい作りであることが、SNSなどで語られている。もちろん初見では把握しづらい部分もあるが、意外なほど状況や世界観を説明するセリフがちりばめられているからだ(それゆえに、やや説明的でドラマの勢いが削がれている部分もあると感じるが……)。

また、今後の劇場公開作品をながめると、次に週末ランキングでトップになりそうなのが、11/20公開の『STAND BY ME ドラえもん2』と想定される。そう考えれば『鬼滅』の5週連続のトップは固い。その後の話題作となると、12/4公開の佐藤浩市、西島秀俊ら豪華キャスト共演の犯罪サスペンス『サイレント・トーキョー』、12/18公開で、やはり週刊少年ジャンプ原作の『約束のネバーランド』とアガサ・クリスティー名作の映画化『ナイル殺人事件』、12/25公開で『劇場版ポケットモンスター ココ』と『ワンダーウーマン 1984』と、全体に強力なインパクトには欠ける印象。『007』新作などハリウッド大作の公開延期の影響が明らかなうえ、『ナイル』『ワンダーウーマン』も予定どおり公開されるかどうか不安定な状況が続いている。

要するに『鬼滅』の当面のライバルは、強いていえば、前作が興収83.8億円を上げ、公開延期となっていた『STAND BY ME ドラえもん2』くらいなのである。

今週末(10/24〜25)で、『鬼滅』がどんな数字を上げるのか。スタートダッシュがあまりに良すぎることで、過去の大ヒット作と比較できない部分もあるが、ブームに乗りたい人々の心理も今後の成績を大きく左右しそう。社会現象による集客、熱いファンのリピーターによって、前週土日の33.5億円と同程度を記録したら、興収200億円にも期待がかかるし、2週目、3週目にかけて数字の落ちが緩やかなようなら、『アナ雪』『君の名は。』並みの数字を狙って、さらに次の大きな目標が見えてくるはずだ。

※撮影/筆者(トップ画像)

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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