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ハリウッド映画の供給不足で、ついに「ベストテンに洋画ゼロ」という異常事態に

斉藤博昭映画ジャーナリスト
公開延期になっていた「ドラえもん」最新作が1位となったが……

7/8〜10の3連休の、週末観客動員ベストテンが興行通信社から発表され、公開延期となっていた『映画ドラえもん のび太の新恐竜』が予想どおりの初登場1位を達成。2位の『今日から俺は!!劇場版』、3位の『コンフィデンスマンJP プリンセス編』も好調で、4位には『ぐらんぶる』、5位には『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』、6位に日向坂46のドキュメンタリー『3年目のデビュー』がそれぞれ初登場。

そして7位『もののけ姫』、8位『千と千尋の神隠し』、9位『風の谷のナウシカ』とスタジオジブリのアニメが続き、10位はこれまた初登場、「IZ*ONE」のコンサートフィルム『EYES ON ME : THE MOVIE』……と、ここまで来て気づくのは、いわゆる「洋画」と呼ばれる映画が一本も入っていないこと! 10位の『EYES ON ME : THE MOVIE』が正確には韓国の製作ではあるものの、コンサートの映像作品なので、一般的に「洋画」「外国映画」と呼ぶにはふさわしくない(この『EYES ON ME』をもって、「ベストテンに外国映画が1本入った」とは言いづらい)。

この前の週には、かろうじてハリウッド作品の『透明人間』が8位に、リバイバルの『ダンケルク』が10位に入っていた。新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言の解除の後も、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、『ランボー ラスト・ブラッド』、『ドクター・ドリトル』など、公開延期になっていたハリウッド作品がランクインしていた。その「供給」もついに底をついてしまった時期とはいえ、ベストテンに外国映画がゼロということになれば、おそらく前代未聞の事態である。

近い過去にも「ベストテンに洋画が1本だけ」という例は、わずかに存在した。たとえば2016年の12月には、外国映画が『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』だけという週末があった。それ以前となると、2013年11月に『悪の法則』のみという週末が1回。同年の5月に3週連続で『アイアンマン3』のみというケースがあった。この「1本」というのも極めて珍しい例で、それ以前はベストテンに最低でも外国映画が2作はランクインしていたのである。

この外国映画ゼロは、今週末も続くかもしれない。ベストテン入りが期待できそうなのが、『インセプション』のリバイバルのみだからだ。その次の8/21からの週末には、やはり公開延期になっていた『2分の1の魔法』が登場。こちらはディズニー/ピクサー作品なので、ベストテンに入るのは確実だが、その後のラインナップも、本来なら9/4に公開されるはずだった、ディズニーの実写版『ムーラン』が再延期になってしまったりと、大ヒットを期待できる外国映画は極端に少ない状態が続く。9/11には日本から豊川悦司、浅野忠信も参加した、ローランド・エメリッヒ監督(『インデペンデンス・デイ』)の戦争アクション大作『ミッドウェイ』が、9/18にはクリストファー・ノーラン監督による、2020年最大の期待作『TENET テネット』が、そして9/25には『キングスマン ファースト・エージェント』やアニメ版の『アダムス・ファミリー』と、ある程度、話題作の公開が続く予定ではあるのだが……。

アメリカでの本格的な映画館のオープンがいつになるのか。その状況によっては、さらに年末に向けてハリウッドの話題作が公開の延期を決断したりする可能性もあり、今後、ますます「日本映画のみのベストテン」という週は増えていきそうな気配だ。

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』全国東宝系にてロードショー

(C) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2020

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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