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ゴールデングローブ発表で、ますます予想不能で面白くなってきた今年のアカデミー賞

斉藤博昭映画ジャーナリスト
助演男優賞を受賞して大喜びのブラッド・ピット(写真:ロイター/アフロ)

1月6日(現地時間:5日)に、アカデミー賞の最大の前哨戦であるゴールデングローブ賞の授賞式が行われた。(以下、ゴールデングローブ賞はドラマ部門もあるが、この記事では映画部門の結果で執筆)

今年のアカデミー賞に向けたレースは、ここ数年と同じく混戦模様で、作品賞は「Netflixが『アイリッシュマン』で、ついに初のストリーミング(配信)の快挙か」、また「韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』で、外国語映画で初の快挙か」と、どちらかの「初モノ」の栄冠への話題も高まっていた。

しかしゴールデングローブの結果は、『アイリッシュマン』は無冠に終わり、『1917 命をかけた伝令』が、作品賞(ドラマ部門)と監督賞の2冠を達成。アカデミー賞に向けて一気にその存在感を示すことになった。ここに同じく作品賞(コメディ/ミュージカル部門)の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が、クエンティン・タランティーノの脚本賞、ブラッド・ピットの助演男優賞を加えた3冠で、やはり高い評価を獲得。おそらくここまで言及した4作品が、アカデミー賞作品賞を競い合うことになりそうだ。

『1917〜』(C) 2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
『1917〜』(C) 2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

ただし、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の結果は微妙にズレることが多い。

今年の『1917 命をかけた伝令』のような、ドラマ部門作品賞+監督賞は「最強」と思われるが、この2賞を受賞したうえでアカデミー賞作品賞につながったとなると、2012年の『アルゴ』、その前は2008年の『スラムドッグ$ミリオネア』と、単純にいえば5年に1回くらいのペース。2015年の『レヴェナント:蘇えりし者』は、この2冠を達成しながら、アカデミー賞作品賞は逃し、監督賞のみの受賞となった。

作品賞はともかく、ブラピの受賞はこれで「鉄板」?

昨年のアカデミー賞作品賞『グリーンブック』は、ゴールデングローブ賞ではコメディ/ミュージカル部門作品賞を受賞したものの、監督賞は受賞できず。その前年の『シェイプ・オブ・ウォーター』もギレルモ・デル・トロがゴールデングローブ賞で監督賞を受賞しながら、作品賞は逃している。要するに、ゴールデングローブ賞の結果は、あくまでも通過点での大きな指針という感じ。

むしろ今回、3冠の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の勢いがクリアに示され、そもそもなぜこの作品が「コメディ/ミュージカル部門」なのかはさておき(映画会社のエントリーによるので)、アカデミー賞作品賞に近い「ドラマ部門」っぽい作風でもあることから、このまま賞レースの中心で動いていくのは確実だ。少なくともタランティーノの脚本賞や、ブラッド・ピットの助演男優賞は、アカデミー賞でも「鉄板」になったので、ブラピのスピーチが今から楽しみである。

『パラサイト 半地下の家族』 (c) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『パラサイト 半地下の家族』 (c) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

もちろん冒頭で書いた「初の快挙」をめざす2作にも、アカデミー賞作品賞の可能性は大いにある。ゴールデングローブでは「ドラマ部門」「コメディ/ミュージカル部門」そして「外国語映画部門」で作品賞を選ぶので、3つ目の外国語映画賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』も、いわば「作品賞」扱い。これまでの今年度の前哨戦でも英語作品を差し置いて、全米映画批評家協会賞などいくつも作品賞を獲得しているので、最有力の一本であることは揺るがない。

そして『アイリッシュマン』は、当然のごとくアカデミー賞でも多くの部門でノミネートされるはずで、そうなるとNetflixの強力なオスカーキャンペーンが加速し、追い風が作られていく。ゴールデングローブ賞では演技賞6部門の候補者、計30人のうち、Netflix作品のキャストが7人いたが、受賞は『マリッジ・ストーリー』のローダ・ダーン(助演女優賞)のみだったので、アカデミー賞では雪辱を果たしたいところ。

個人的には、この4作品のどれが受賞するか、それぞれに決め手があるので最後まで予想は迷いそう。

・シンプルに映画の面白さとしては『パラサイト 半地下の家族』

・芸術としての映画で『1917 命をかけた伝令』

・あふれる映画愛がハリウッドで歓迎される意味で『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

・そして「配信」の時代を反映する『アイリッシュマン』

と、それぞれの方向性から受賞の意義があると思う今年度。ゴールデングローブ賞の結果がそんな「多様性」を高めたということで、アカデミー賞までのレースをさらに面白くしてくれたと感じる。

『パラサイト 半地下の家族』は1月10日(金)より公開(現在、先行ロードショー中)

『1917 命をかけた伝令』は2月14日(金)より公開

『アイリッシュマン』はNetflixで配信中

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は公開済み

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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