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ベッキー語る、女優という仕事への本心。『初恋』を超えるかどうかが、今後の人生の指針になると思う。

斉藤博昭映画ジャーナリスト
マカオのベネチアン ・ホテルにて。(撮影/筆者)

このところ、ベッキーが女優として明らかに進化をみせている。たまたまなのか? 運命なのか? 『麻雀放浪記2020』、ドラマ「これは経費で落ちません」、そして2020年の初めに公開される、三池崇史監督作『初恋』と、演じる役はどれも強烈なインパクトを放っている。そんなキャラクターを、ベッキーは意外なまでに「自分のもの」にしているのだ。

マカオ映画祭には、ぜひ参加したかった

その『初恋』の上映に合わせて、三池監督、窪田正孝、内野聖陽とともにマカオ国際映画祭に参加したベッキーに、どんな思いで『初恋』に向き合ったのか、そして女優としての現在および今後についてインタビューした。

「マカオには何がなんでも来たいと思いました。それだけ『初恋』への思い入れが強い、ってことです」

マカオ国際映画祭での上映時、レッドカーペットにて。内野聖陽、窪田正孝、三池崇史監督とともに。(撮影/筆者)
マカオ国際映画祭での上映時、レッドカーペットにて。内野聖陽、窪田正孝、三池崇史監督とともに。(撮影/筆者)

マカオのホテルで、ベッキーは満足げな表情を浮かべていた。彼女が『初恋』で演じたジュリは、ヤクザの下っ端組員、ヤスの恋人という役どころ。父親の借金を肩代わりする少女を預かるなど、日常は一見、過激だがヤスへの愛は真剣。そのヤスが何者かに殺害されたことで、ジュリは復讐の鬼と化す。そこから彼女がどんな行動に出るかは映画を観てのお楽しみだ。

「三池(崇史)さんが監督で、窪田(正孝)さんが主演と聞いただけで、内容も知らない状態で『やりたい!』と興奮しました。そして脚本を読んだら、ものすごい役。ここまで感情が激しい役を演じられるなら……と、さらにうれしくなったんです」

ベッキーは「きてる」と、監督も太鼓判

三池監督もベッキーについて「今、きてるからね」と笑いつつ、「ピュアさと激しさの両面を持っていて、表現者として誰よりも真剣にぶつかっていくと期待した」と、その起用理由を説明する。

当初は、不安もあったというベッキーだが、撮影を前にその不安は一気に解消したという。

「顔合わせの時に、村上(淳)さんに『俺がこの役をやりたかったよ!』と言われたんです(笑)。そんなに魅力的な役なんだと、さらにギアが上がった感じ。ジュリにとっての『初恋』も描かれているんですよ」

ジュリのブチキレ具合は想定を超えたレベルなのだが、わざとらしくないのは、その気持ちが痛いほど伝わってくるから。『初恋』より
ジュリのブチキレ具合は想定を超えたレベルなのだが、わざとらしくないのは、その気持ちが痛いほど伝わってくるから。『初恋』より

映画を観れば、おそらく多くの人が驚嘆するだろう。ベッキーの体を張ったアクションは予想以上にハイレベルなのだ。これらのアクションを、彼女はすべて自分でこなしたそうだ。

「むしろ全部やらせてもらって、感謝しているくらいです。でも、ある危険なシーンでは、リハーサルでうまくできたのに『本番』と言われた瞬間に体が固まってしまって……。あの感覚は自分でも不思議でしたね。何度目かの挑戦で、ようやくうまくいったんですよ」

しかし三池監督はベッキーの意外なアクションの才能を目の当たりにしたようで「『ここはパンチじゃなくて、肘打ちですよね』なんて提案され、『戦いに慣れてるな』と感心した」と、笑いながら振り返る。

「もともと日常生活で“ストレス貯金”をする方なので、それを吐き出してるのかもしれません。大人だから、嫌な気分になっても正直に外に出せないこともある。そういう記憶をアクションで消している気もします」

妹がLAでの『初恋』の盛り上がりを報告

こうしたアクション場面も含め、徹底的にジュリ役に入り込んでしまったというベッキー。三池監督によると「役から自分に戻るクールダウンに、20分くらいかかっていたんじゃないか」とのこと。

「カメラが回ったら、すぐに涙を流せるようなタイプじゃないので、助走の時間が必要なんです。悲しんだり、怒ったりするシーンがあると、その感情を3時間くらいキープしてしまい、肉体への負担も大きくなる。その疲労感を引きずってしまい、ジュリから抜け出したいけど、抜け出せないような……」

三池監督からの言葉を、ちょっと照れくさそうな笑顔で受け止めるベッキー。(撮影/筆者)
三池監督からの言葉を、ちょっと照れくさそうな笑顔で受け止めるベッキー。(撮影/筆者)

その「抜け出せない」感覚が、満足のいく作品に結実したことで「こんなに心から宣伝したい作品はない」と語るベッキー。「『初恋』はバイオレンスも多いですが、純愛ストーリーでもあり、そのバランスがすばらしいと思うんです。妹がロサンゼルスに住んでいて、家から3分の映画館で『初恋』を観たら、盛り上がっていたよと報告してくれたんです。海外の反応も気になってしまう、こんな経験も初めてですね」

私生活では間もなく母になるなど、人生が大きく変わっていきそうな時期に、仕事でも納得のいくものができた。今後、女優としての野心は大きくなりそうなのか。

「このところ、ありがたいことにお芝居の仕事が増えていて、『やっぱり好き』いう実感が沸き上がっています。私に役を託そうと思う人がいるだけでありがたいこと。だから何でも引き受けたい気持ちは大きいですね」

そんなベッキーの未来に対し、三池監督は「『選ばれる立場』になると、逆にもどかしさも増える。それを楽しんで突き詰められるかどうかでしょう。ただベッキーは、リスクが高い方を選ぶタイプなんじゃないかな」と期待する。

「たぶん演じる役に関して、自分の中で制限を設けることはない」というベッキーは、最後にこうも断言する。

「今後、この作品を超えるものと巡り会えるかどうか……。『初恋』はひとつの“基準”になったと思います」

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初恋

2020年2月28日、全国ロードショー

配給/東映

(C) 2020「初恋」製作委員会

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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