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ガチな気合いでプロレスに挑み、この後も話題作オンパレード。2020年「来る」スターは彼女に確定。

斉藤博昭映画ジャーナリスト
この写真からも強い意志が伝わってくる、フローレンス・ピュー(写真:REX/アフロ)

11月29日に日本でも公開が始まった『ファイティング・ファミリー』は、実在の女性ファイターの物語。モデルとなったのは、アメリカのプロレス団体「WWE」で一夜にしてスターとなったペイジ。イギリスの小都市でレスリングジムを営む一家に生まれた彼女が、兄とともにプロレスラーになる夢を育み、WWEのトライアウトに参加する。WWEのザ・ロックこと、ドウェイン・ジョンソンが製作し、本人役で出演していることも話題の、プロレスファン必見の作品だ。

リングに上がる前の堂々たる登場シーン。髪型やメイクも、モデルとなったペイジに近づけている。
リングに上がる前の堂々たる登場シーン。髪型やメイクも、モデルとなったペイジに近づけている。

ペイジとなる、18歳のサラヤを演じているのが、フローレンス・ピュー。日本では、今年7月にWOWOWで放映されたBBCのミニシリーズ「リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ」の主演くらいで、まだそれほど認知度がない女優だが、間違いなく、2020年、注目度が急上昇するスターになりそうなのだ。「ピュー」という名前も、どこかかわいい響き。スペルはPughなので、プーと読んでしまいそうだがピュー。これはネイティヴの発音どおり。1996年、英国オックスフォード生まれの23歳である。

わずか1ヶ月で体得したプロ並みの技を披露

『ファイティング・ファミリー』のフローレンスは、熱すぎる演技はもちろんだけど、とにかくプロレスのシーンがガチなのである。当初はスタントダブルも考えられたが、フローレンス自身、「絶対に自分でやりたい」と志願。しかしトレーニング期間は短く、フロリダのNXT(WWEの下部組織)で一週間、そしてロンドンに戻って3週間くらいだったという。過酷なスクワットを繰り返し、ひたすら公園を走り、食べられるだけのプロテインバーを食べたフローレンスは、もともとスリム系ではないにしろ、レスラー体型に近づいた。

プロレスのシーンは、観ているだけで血湧き肉躍る迫力!
プロレスのシーンは、観ているだけで血湧き肉躍る迫力!

ラリアットや数々の投げ技、そしてロープワークまで、フローレンスのプロレス技は惚れぼれするほど見事である。嘘っぽくないから、感動する。しかもトライアウトのシーンは、実際にペイジがリングに立った「O2アリーナ」で撮影された。2万人の観客は本物。ドウェインの協力もあって、WWEの「前座」として時間をもらったのである。

スポ根モノ、成長ストーリー、家族ドラマとして、『ファイティング・ファミリー』がストレートに楽しめるのは、フローレンス・ピューのガチなアプローチの功績が大きいが、この女優魂が発揮される作品が、これから一気に続く。

2020年前半だけで話題作が3本も!

まず、ホラー映画ファンを歓喜させた『ヘレディタリー/継承』のアリ・アスター監督の新作『ミッドサマー』。家族を事故で失くし、スウェーデンの美しい村の祭へ向かった主人公が、怪しく、おどろおどろしい体験をする、またしても衝撃的な一作。謎めいた村人を前に、フローレンスの主人公は「巻き込まれる」純真な雰囲気で、プロレスラー役から一変。とても同じ女優とは思えない、守備範囲の広さを証明してくれる。

続く『リトル・ウィメン』(2020年公開)は、オルコットの名作「若草物語」の再映画化。監督が『レディ・バード』のグレタ・ガーウィクなので賞レースに絡む予想も出ている注目作だ。マーチ家の四姉妹の成長や恋のドラマで、長女がエマ・ワトソン、次女がシアーシャ・ローナンと豪華メンバー。その四女のエイミーを演じるのが、フローレンス。末っ子らしく自由奔放で社交的な役どころは、彼女にぴったり。メリル・ストリープ、ティモシー・シャラメといった共演陣とのやりとりも気になるところだ。

そして、そして、2020年、フローレンスの大ブレイクの決め手となりそうなのが、マーヴェル、MCUの『ブラック・ウィドウ』(5/1公開)だろう。主演はタイトルからわかるとおりスカーレット・ヨハンソンだが、フローレンスは2番手の役どころ。ブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフの過去や秘密が描かれるドラマで、フローレンスはナターシャの妹分であるエレーナとして登場する。現在、物語や役の詳細は明らかにされていないが、2020年、MCUのフェーズ4の幕開けとなる作品なので、世界中の話題を集めることは必至だ。

『リトル・ウィメン』も2020年前半には日本で公開されるはずなので、フローレンス・ピューの急激な躍進は明らか。プロレスラー、超人アクションなど、たしかに体育会系の役が目立ち、外見もどちらかといえば逞しいタイプ。しかし、そんなフローレンスの個性が、今の時代に歓迎されている気もする。そしてこのラインナップからわかるように、役の振り幅と、作品のチョイス(今はまだ自分で選ぶ段階ではないだろうが)からは、彼女の野心とチャレンジ精神が伝わってくる。

このままいけば、間違いなく数年後には大女優のステップを登っているはずで、そんなフローレンス・ピューが、サナギから蝶になる瞬間を、2020年、われわれは目撃することになる。

『ファイティング・ファミリー』 

配給:パルコ ユニバーサル映画

(c) 2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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