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「アベンジャーズ」完結作が最後を飾る平成という時代。映画はどう変わっていったのか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
大ヒットスタートの『アベンジャーズ/エンドゲーム』(C) 2019 MARVEL

平成最後の週末である4月26日に『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開された。ハリウッド大作なので、別に日本の元号切り替えとは何の関係もないのだが、この『アベンジャーズ』の完結編は、平成という時代に変わっていった映画の形態を象徴しているようでもある。

複数の作品で「世界観」を楽しむことが王道に

『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)という壮大な世界観を描く「映画群」の中の一作で、集大成的な位置づけになる。このMCUの最初の作品は、2008年の『アイアンマン』で、約10年をかけて複数のヒーロー映画がひとつの世界観を創造するという、これまでにない映画の展開を成功させた。一作観たら、次の作品も観ないと気が済まないという「連鎖作用」を誘う、ある種、加速度的に儲けやすいビジネスモデルでもある。このユニバースは、スーパーマンやバットマンを擁するDCコミックの映画でも進行しており、現在の世界の映画興行をリード。平成の終盤における映画界の大きな流行となった。

もちろん昭和の時代から「シリーズ映画」は伝統的に存在していた。邦画なら「男はつらいよ」や「ゴジラ」、洋画なら「007」などだ。しかし、1作では描けない壮大な世界観を「想定」した作品が流行するのは、たとえば「ハリー・ポッター」全8作と「ファンタスティック・ビースト」や、「ロード・オブ・ザ・リング」と「ホビット」各3作、あるいは「スター・ウォーズ」サーガのエピソード1以降のように、ここ20年くらいである。スピンオフ作品も次々と登場する形態も近年の傾向。この流れがMCUのようなユニバースの大成功を導いたとも考えられる。

観客へのアピールが、目の前の1作だけでなく「広がり」を意識させる。これは王道のシリーズ映画でも言えることで、「名探偵コナン」や「ドラえもん」などが平成の後期、回を追うごとに興行収入が右肩上がりになる「異例さ」も、ひとつの世界の「広がり」を求める観客の嗜好の表れかもしれない。一方で、1994年(平成5年)、邦画の配給収入でアニメ作品が実写を上回り、平成の前期から国民的ブームを起こしたスタジオジブリの作品は、あくまでも単体として特別な魅力を発揮する、伝統的なヒットの法則は『君の名は。』などにも受け継がれ、やはり平成の邦画はアニメの隆盛が大きなトピックだと言えそうだ。

個性のある映画館からシネコンへの急速な変遷

前述の複数作品の「世界観」では、MCUの最初の頂点となる「アベンジャーズ」1作目が、「ハリー・ポッター」の最終作の翌年、2012年(平成24年)で、バトンタッチという役割を感じさせるが、そのバトンタッチという意味では、平成の間の大きな変貌は「映画館」だろう。言うまでもなく、単体の映画館からシネコン(シネマコンプレックス)へのスイッチである。平成30年に東京・有楽町の日劇が閉館し、チェーンの映画館の最後の砦が姿を消した。ミニシアターは別として、話題作を観るのはシネコン以外に考えられない時代へと変わったのだ。

そのシネコンが初めて日本でオープンしたのが、1993年(平成5年)であり、まさに平成の間にシネコンが浸透していった感がある。反比例するように、個性をもった映画館が相次いで閉館。当初はミニシアター(シネマスクエアとうきゅうなど)で始まった各回入替制はシネコンの普及とともに一般的となり、現在は席を指定してチケットを買うことが常識になった。次回を待って長蛇の列を作り、混雑していたら立ち見という、かつての映画館の風景は、平成の間にほぼ完全に消滅した。

バブル崩壊後の日本は、やがて洋画離れの傾向も

世界の映画界における日本の存在も、平成の間に変化した。バブルの勢いが残っていた1989年(平成元年)、ソニーが、米コロンビア映画を買収。翌年には松下電器産業が米ユニバーサルを傘下にもつMCAを買収するなど、日本の経済力を象徴する大ニュースが続いた。この平成元年に公開された『ダイ・ハード』でも、日本企業のアメリカ買収を象徴するかのように、「ナカトミ・コーポレーション」のビルが舞台となっている。

映画の興行収入でも、平成の時代、日本は北米に次ぐ世界2位に君臨し続けた。それゆえにハリウッド映画の来日プロモーションも日常の風景となり、洋画メジャーの配給会社は宣伝費をかけ、たとえば2003年(平成15年)の『パイレーツ・オブ・カリビアン』の1作目では、日本から多くのマスコミをロサンゼルスに連れて行き、現地で日本のための記者会見を開いたこともあったほどだ。

しかし平成の終盤となる2012年(平成24年)に、中国が日本を抜いて北米に次ぐ世界2位の興行収入を記録。以降は、中国の数字が伸び続け、揺るぎなかった北米の1位を抜くことも確実な状況になっている。この中国の勢いに伴って、MCUなどハリウッド大作でも中国系のキャストが目立つようになった。また、映画の観客動員数では、2011年(平成23年)に韓国が日本を上回り、その差はわずかだが現在に至っている。ハリウッド大作のアジアでのプレミアイベントも急増するなか、平成の終盤では、その場所が中国語圏や韓国が多くなり、平成最後の『アベンジャーズ/エンドゲーム』もロバート・ダウニー・Jr.ら主要キャストがソウルで記者会見を行った。

日本の勢いで幕を開けた平成の映画事情は、その勢いがゆるやかに落ち着いた時代になったということだろう。1970年代という昭和の後期に、日本国内の映画市場で洋画が邦画を上回り、その図式は平成に入っても変わらなかったが、2006年(平成18年)あたりから邦画のシェアが洋画を逆転。以降は、ほぼ邦画が上回り、平成後期の日本の「洋画離れ」が、ハリウッド目線で中国・韓国と対比させられる一因にもなっている。

ビデオからDVDへ、そして配信へ

また、劇場鑑賞以外で映画を観る「ソフト」の変遷も、この平成の30年で大きく様変わりした。昭和の最後に一般的となったVHSビデオは、1996年(平成8年)に登場した、高画質・高音質のDVDに取って代わられ、さらに後継となるブルーレイディスクが一般化。そして平成の最後には、ストリーミング(配信)で映画を観ることが急速に広まった。いまだにソフトをパッケージとして保管したい人も多くいて、平成最後の大ヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』は、DVDおよびブルーレイの出荷も驚異的数字だそうだが、これからの令和の時代には、配信やダウンロードで観る習慣がさらに常識になるだろう。新たな時代に合わせるかのように、Netflixなど既存の会社に対抗して、2019年(平成31年/令和元年)に、アップルやディズニーが新たな動画配信サービスをスタートさせる。

平成最後の『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、劇場で観た後、過去のMCU作品とともに見返したくなる箇所がいくつもある作品になっている。その場合、ストリーミングのサービスは最適であり、新たな時代の映画の見方を大きく左右する作品であることにも、時代の移ろいを感じずにはいられない。

昭和から平成へ、そしてその平成が終わり、新たな時代に映画はどんな進化をみせるのかーー。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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