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アジア最強のアクションスターは、外見も発言もイケメンすぎた…。マックス・チャン インタビュー

斉藤博昭映画ジャーナリスト

ジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェン……。中国語圏のアクションスターが年齢的にも、体力的にも「現役バリバリ」時代から遠ざかりつつある状況のなか、彼らの跡を受け継いでいるスターがいる。マックス・チャンだ。

『マトリックス』『キル・ビル』などハリウッド作品でもアクション監督・指導を務めた、香港カンフーアクションの巨匠、ユエン・ウーピンのチーム「袁家班」に所属し、『グリーン・デスティニー』ではミシェル・ヨー、チャン・ツィイーのスタントダブルを務めたマックス。しかし自身がアクション俳優として注目されるまでには時間がかかり、2013年、ウォン・カーウァイ監督の『グランド・マスター』でようやくその才能が広く認められる。マックス、39歳のときだ。その後、急激に主演級スターとなり、日本でも3月9日に公開される『イップ・マン外伝 マスターZ』では、主人公のチョン・ティンチを演じ、全編、マックスの才能が炸裂する戦いが用意されている。はっきり言おう。この映画のマックスは、現在のどのアクションスターよりも鮮やかでキレ味満点の技を見せつけている。監督は恩師のユエン・ウーピン。

アクションスターとは思えない雰囲気

インタビュールームに入ってきたマックスは、「この人がアクションスター?」と信じられないような、スリムなシルエット。身長も170cmちょっとでやや小柄。チャン・ツィイーのスタントをやったのも納得である。ふだんどんなトレーニングで維持しているのか聞いてみると……。

すべての動きが完璧な迫力と美しさ。アクションの見本を示すマックス・チャン。
すべての動きが完璧な迫力と美しさ。アクションの見本を示すマックス・チャン。

「9歳から武術を続けてきた僕は、トレーニングを怠るとすぐに能力が衰えることを、身をもって理解している。以前は一日に十数時間も動いていたことがあったけど、今は時間を決めずに続けている程度だ。筋肉を伸ばすこと、そして体幹を鍛えるトレーニングだけは欠かさないね。肉体もそうだけど、『意識』を高めておくことが大事なんだ」

アクションに関しては、すでに「悟り」の境地に入ったようなコメントを返すマックス。その語り口も穏やかだ。しかしそんな彼にもひとつだけ弱点があるそうだ。そこを突っ込むと、鋭い眼光が消え、照れくさそうな笑みを浮かべる。

「じつは高所恐怖症なんだ。今回は高さ20mくらいのセットで、看板から看板へ跳び移るアクションがあり、本当に怖かった。でも覚悟を決めてジャンプしたよ(笑)。こうしたジャンプはワイヤーの助けも借りるけど、落下と着地は自力なので、タイミングが本当に難しい。今回のセットは錆びた看板も使われ、かすっただけでケガにつながる。撮影後、シャワーを浴びながら擦り傷を発見する毎日だったな」

マックスが演じるチョン・ティンチは、詠春拳の名手。2015年の『イップ・マン 継承』でも同じ役を演じている(その役が好評だったので主人公としての今回の映画につながった)。自慢の詠春拳で宿敵に敗れたことで、息子と二人でひっそりと生活していたティンチが、そこから自分の人生そのものである詠春拳を取り戻す物語である。

不遇の時代も励ましてくれた、ある人の存在

そんなティンチのキャラクターに自身と重なる部分があるか尋ねると、マックスはしみじみとした表情で語り始めた。

アクション映画だけでなく、ラブストーリーも似合いそうなルックス。
アクション映画だけでなく、ラブストーリーも似合いそうなルックス。

「性格で言えば、寡黙な部分が似ているかな。ティンチも僕も、ワイワイ騒ぐタイプではない。でも仕事を与えられると、燃える男になって爆発する。そこも共通点だ。もうひとつは、ティンチと息子の関係だね。つねに息子は父親がヒーローであることを信じている。僕の場合、その存在が妻なんだよ。僕のキャリアが順調でないときも彼女は『あなたは絶対にトップスターになるべき人よ』と、真剣にサポートし続けてくれた。そのおかげで今の僕がいる。ティンチの息子と僕の妻は、同じ立ち位置じゃないかな」

話す人によっては、ただのノロケに聞こえるが、結婚当初、相手のエイダ・チョイは人気女優で「格差婚」などとも言われた。大スターになるまで中国のドラマなどに地道に出演を続けたマックス・チャンのこの言葉は、心から妻に感謝する男の、真摯な思いだと受け止められる。聞いているこちらの心もホッコリしてしまうのだ。

日本映画で好きなのは、シルバーの髪の主人公?

監督のユエン・ウーピンはマックスについて「本当に美しく、現代的なカンフーを見せられる才能」と評価する。たしかに劇中での、元プロレスラーのデイヴ・バウティスタ(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のドラックス)を相手にしたシーンについてマックスは

「プロレスの技で本気で投げられるわけだけど、つねにスクリーンで観て、どこまで美しい動きなのかを意識している。そして相手に比べて肉体が小さい僕が勝つための、合理的な戦法を考える」

と、見た目の「美しさ」を強調する。ミシェル・ヨー、トニー・ジャー、デイヴ・バウティスタら国際的アクションスターが集結し、全編に(お世辞ではなく)アドレナリンを上げるバトルが続く『イップ・マン外伝 マスターZ』は、アクション映画ファン以外にも、その動きの美しさとマックスの外見の完璧な融合がアピールすることだろう。

最後に、日本向けに最近の日本映画でお気に入りを聞いてみた。

「日本に限らず映画はいろいろ観るけど、日本映画ではそうだな……。あの髪がシルバーの主人公のやつ! 『銀魂』! 日本ってコミックを実写化するのがうまいよね」

思いつきの答えのようだが、パブリシストによると『銀魂』の話はよくしており、本当に好きなようである。アクションの才能も、そしてルックスも、その言動もカッコよすぎるマックス・チャンが、少しでも日本で人気が上がることを望むばかりだ。

画像

『イップ・マン外伝 マスターZ』

3月9日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

配給/ツイン

(c) 2018 Mandarin Motion Pictures Limited All Rights Reserved

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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