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すったもんだの影響でクイーン登場など、日本人も楽しめるパートが例年以上のアカデミー賞。授賞式の行方は

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2018年のアダム・ランバートとクイーンのステージ。これが授賞式で再現される(写真:Shutterstock/アフロ)

今年のアカデミー賞は作品賞の「本命不在」という混戦が最後まで続くという状況もそうだが、授賞式前に次々と騒動が起き、収まらない。2月24日(日本時間は25日)に迫った本番当日も、スムーズな進行で式が運ぶのか、ある意味でハラハラしながら楽しめそうだし、日本人にとっても例年以上に見どころが多そうだ。

最大の騒動になったのは「司会者ナシ」という選択。今年のホストは『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』のケヴィン・ハートに決まっていたが、10年も前に反LGBTの発言をしていたことが明るみになり、アカデミー側との話し合いで彼は自ら辞退。その後、『アベンジャーズ』のヒーローチームが順番にホスト役を担うという話も浮上したが、結局、ギリギリ段階で司会役はナシとなった。かつて1989年の第61回も、新演出として司会者ナシで行われたが、司会者トークの代わりにオープニングで繰り広げられたミュージカルがグダグダで大不評。しかもディズニーに無断で白雪姫を登場させたりして問題になった。

ホスト不在は、むしろありがたい?

今年、その重要なオープニングを任される可能性が高いのは、クイーンのブライアン・メイロジャー・テイラー、そして長年、フレディ・マーキュリーの代わりに彼らとステージに立ってきたアダム・ランバートである。出番のタイミングは正式発表されていないが、オープニング説が濃厚。『ボヘミアン・ラプソディ』が作品賞など5部門ノミネートということもあり、一気に授賞式を盛り上げるのは確実だ。ここ数年、ヒュー・ジャックマンなどは特例として、日本の一般的映画ファンにはなじみの薄いホストが多く、アメリカ国内向けのトークも目についていたが(それはそれで面白いのだが)、日本人にとってはクイーンのパフォーマンスの方が圧倒的に歓迎されるだろう。『ボヘミアン・ラプソディ』の名場面やフレディの映像なども使われ、さらにもしラミ・マレックがステージに一緒に登場したりしたら、それはもう涙モノである。

その他のゴタゴタは、アカデミー側が授賞式の放送時間を短縮するために、4部門(撮影賞・編集賞・短編映画賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞)をCM中に授与しようとしたこと。視聴率低下を少しでも止めるためと、西海岸と東海岸の時差を考慮した判断だが、これにジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ロバート・デ・ニーロらトップ俳優や監督たちが猛反発。公開書簡に署名した。それはそうだろう。その部門の候補者たちはないがしろにされたのである。アカデミー側はすぐさま、決定を撤回。例年どおり、この日発表される賞は全部門放送される。しかし、不信感が拭えない状態を作った。

視聴率を意識するアカデミーの「迷い」は、新設部門のアイデアにも表れた。「人気映画賞」なる部門である。大ヒットした作品の栄誉を称えるというもの。例年、社会性が強かったり、小粒だったりする作品賞受賞作が多いので、一般映画ファンへのアピールだったのだが、これにも多くの批判が浴びせられ、同賞のアイデアは消えた。アカデミーの権威はどこへやら、である。

未成年者へのセクハラに下半身ポロリの過去

さらにスキャンダル系のネタも増えるばかり。ノミネート発表の直後に、『ボヘミアン・ラプソディ』のブライアン・シンガー監督がかつて、未成年の少年に性的暴行をはたらいたというニュースが駆け巡る。シンガー自身は「『ボヘミアン』にアカデミー賞を取らせたくない誰かの嫌がらせ」などと反発したものの、すべて真実なら由々しき問題。しかしシンガーは『ボヘミアン』の監督を途中でクビになっているので、その状況でフレディ・マーキュリーを名演した主演のラミ・マレックへの同情が集まるという、不思議な現象も起こった。

もうひとつのスキャンダル発覚は、作品賞の本命のひとつになっている『グリーンブック』のピーター・ファレリー監督。20年前、『メリーに首ったけ』のオーディションで、キャメロン・ディアスの前で下半身を丸出ししたという。ただこちらもファレリーは監督賞にノミネートされておらず、作品賞への投票への影響は小さめか、という報道が多い。とはいえ、有力だった脚本賞はファレリーも共同脚本でノミネートされているので、こちらは劣勢になったようだ。下ネタ全開の『メリーに首ったけ』の監督が、アカデミー賞作品賞に絡む作品を撮ったこと自体、感慨深いのだが……。

最後まで続くサプライズへの期待

このように、すったもんだ、スキャンダルの嵐となった今年のアカデミー賞だが、日本映画が2作ノミネートされ、こちらも異例。昨年も『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で日本人の辻一弘氏がメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞して大きな話題となったが、そこで辻一弘という名前を初めて知った人も多かったはず。今年は、是枝裕和細田守という一般の日本人にもなじみのある監督が授賞式に出席するので、当日に向けて日本でも報道が過熱している感はある。

万引き家族』(外国語映画賞)、『未来のミライ』(長編アニメーション賞)は両部門とも本命の強力な作品があり、受賞自体は難しい位置にいるが、10年前の『おくりびと』の外国語映画賞も予想外だったので、希望は捨てないで良さそうである。また、『ボヘミアン・ラプソディ』も作品賞受賞は厳しいものの、万が一、栄冠をつかんだら日本のニュースも熱く盛り上がるだろう。そうしたサプライズへの期待も、日本で例年以上に大きいのが、今年のアカデミー賞なのである。

最後に主要部門の筆者の予想を。

作品賞:『ROMA/ローマ』か『グリーンブック』  大穴で『ブラック・クランズマン』

監督賞:アルフォンソ・キュアロン『ROMA/ローマ』 ほぼ確実

主演男優賞:ラミ・マレック『ボヘミアン・ラプソディ』  僅差でクリスチャン・ベール『バイス』

主演女優賞:グレン・クローズ『天才作家の妻 40年目の真実』 ほぼ確実

助演男優賞:マハーシャラ・アリ『グリーンブック』 ほぼ確実

助演女優賞:レジーナ・キング『ビール・ストリートの恋人たち』 ほぼ確実

外国語映画賞:『ROMA/ローマ』  わずかな希望で『万引き家族』か『COLD WAR あの歌、2つの心』

長編アニメーション賞:『スパイダーマン:スパイダーバース』 ほぼ確実

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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