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現場は1時間だけ。タイタニック愛も込めた。J・キャメロン語る、『アリータ:バトル・エンジェル』

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ロンドンプレミアに出席したジェームズ・キャメロン。原作者の木城ゆきと氏とともに。(写真:Shutterstock/アフロ)

アバター』『タイタニック』という世界興行収入の歴代1位と2位の作品を監督。日本においてもこの2作は、興行収入の歴代トップ10に入っている。ジェームズ・キャメロンといえば、その名前で観客を呼べるフィルムメーカーだ。キャリアの長さに比べ、監督作品が少ない「少数精鋭」の人であり、現在、2020年末に公開予定の『アバター』続編を、時間をかけて(たぶん)じっくり作っている。

それゆえに本来、自身で監督したかった、日本のコミック「銃夢」の映画化は、ロバート・ロドリゲス監督に託し、キャメロンは製作と脚本にクレジットされることになった。その『アリータ:バトル・エンジェル』が2月22日に日本公開ということで、プレミアが行われたロンドンからZoomを使った「中継」で日本のジャーナリストに向けた会見が行われた。

ジェームズ・キャメロンの表情は、信じられないほど穏やかだった。25年も前に、ギレルモ・デル・トロから紹介された「銃夢」に惚れ込んだキャメロンは、『アバター』と並行して脚本を執筆。しかし実質の製作をロドリゲスに任せたことで、この穏やかな表情からは「自分の監督作ではないゆえのプレッシャーの少なさ」、そして「ロドリゲスの仕上げた世界に満足」という2つの心情が見てとれる。キャメロンは会見中に、「銃夢」の原作者、木城ゆきと氏も隣に呼び、柔らかな笑顔は終始、途切れなかった。

改めて「なぜ25年も時間がかかったのか?」そして「なぜ自分で監督しなかったのか?」という疑問に、キャメロンはこう答える。

「『アリータ』と『アバター』のプロジェクトを同時進行し、技術的なシステムをテストした結果、『アバター』を先に進めることになった。その『アバター』の大ヒットで続編を作ることになり、『アリータ』はまた後回しになったんだよ。そんなとき、ロバート(・ロドリゲス)から『アリータ』の動向を聞かれたので、『じゃあ監督、やってみる?』と未完成の長い脚本を読んでもらったのさ。『すべてのシーンが“見えた”』というロバートの情熱にほだされて、任せる決意をしたよ」

もし自分で監督したら「完成が20年後になっただろう」と笑うキャメロン。『アバター』は2009年だから、『アリータ』を監督する時間もあったのでは……というツッコミはともかく、いったん撮影が始まったら、余計な口出しは極力避けるというのが、キャメロンの流儀のようだ。

「もちろん最終的な脚本、プロダクション・デザイン、キャラクターの顔や体、キャスティングはロバートと一緒に関わったけど、撮影現場に私が行ったのは、たった一日。しかも1時間しか滞在しなかった。これは意図的で、キャストやスタッフに『ロバートの映画だ』という意思を明確にしたかったのさ。すべてのクリエイティブな権限を彼に渡すことができた。心から信頼した監督に対して、プロデューサーとしては当然の行動だよ」

記憶を失ったサイボーグの少女、アリータ。その記憶を取り戻す手助けをするのが、人間の青年、ヒューゴだ。
記憶を失ったサイボーグの少女、アリータ。その記憶を取り戻す手助けをするのが、人間の青年、ヒューゴだ。

「私が監督したら、もっとダークでエッジの効いた作風になっただろう。でもロバートが多くの観客層、とくに若い世代にアピールするスタイルに仕上げたと思う」

この言葉が示す「広い世代へ向けて」という面で、人間としての感情や過去の記憶と葛藤する、肉体はサイボーグのヒロイン、アリータのラブストーリーも描かれる。このあたりに脚本を練り続けたキャメロンのこだわりもあるようで……。

「私はラブストーリーが大好きなんだ(笑)。『タイタニック』でも階級と船の事故によって一緒になれない二人を描いたように、『アリータ』にもサイボーグの少女と、そうでない人間という、『ロミオとジュリエット』スタイルの悲恋も込められている。木城先生のマンガの中でアリータが自分の心臓を取り出すという描写を、あえて脚本で省かなかったのは、私がロマンチストだから(笑)。『タイタニック』の(人間である)ローズには不可能な行為だしね……」

木城ゆきとの「銃夢」に限らず、「押井守さん、大友克洋さんが大好き」と日本カルチャーへの愛を口にするキャメロン。「私の真ん中の娘はアニメーターを目指しているし、12歳の娘はマンガを描き続けている。キャメロン家にとって、日本の文化はファミリー・カルチャーなんだ」と素直にアピールした。

木城ゆきと氏もキャメロンの目の前で、作品の仕上がりに心から満足していると断言。プレミアを終え、間もなく公開される日本で『アリータ:バトル・エンジェル』がどんな評判になるのか。ジェームズ・キャメロンの顔は、その答えを早く知りたいという欲求に満ちているようだった。

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『アリータ:バトル・エンジェル』

2月22日(金) 全国公開

配給:20世紀フォックス映画

(c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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