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『ファンタスティック・ビースト』続編は仕上がりも万全!? 毎年「一人勝ち」が続くお正月映画の展望

斉藤博昭映画ジャーナリスト

映画興行では一年を通して「目玉」となる時期がいくつかある。「春休み」「GW(ゴールデンウィーク)」「夏休み」そして「お正月」だ。この時期は観客動員が見込める邦画、洋画、そしてアニメの話題作が集中し、相乗効果も狙って特大のヒットを狙う。ハイレベルなランキング上位争いが繰り広げられるのだが、この中で近年、「争い」よりも「一人勝ち」の傾向が強くなっているのが、お正月映画だ。

ここ数年の年末公開の、いわゆる「お正月映画」のトップの成績を振り返ると……()内は2位作品の成績。

2017〜18年

スター・ウォーズ 最後のジェダイ』 75億円 年間4位(11/15現在)

(『DESTINY 鎌倉ものがたり』32億円)

2016〜17年

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』 73.4億円 年間2位

(『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』46.3億円)

2015〜16年

スター・ウォーズ フォースの覚醒』 116.3億円 年間2位

(『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』55.3億円)

2014〜15年

ベイマックス』 91.8億円 年間2位

(『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』78億円)

2013〜14年

永遠の0』 87.6億円 年間2位

(『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』42.6億円)

2014〜15年こそトップ2本が拮抗していたものの、基本的にはトップ作品が2位以下を大きく引き離す傾向が続いている。夏休み映画の場合は、今年も『劇場版コード・ブルー〜』と『ジュラシック・ワールド〜』を筆頭に大ヒットがひしめき合う傾向が強いのだが、お正月映画はメイン作品の「一人勝ち」を他の作品が「どうぞ、どうぞ」と許している感じ。そして今年もまた、この流れは引き継がれそうだ。『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』を大きく脅かす作品が見当たらないからだ。

「ファンタビ」の2年ぶりの続編は、あのメガヒットシリーズ「ハリー・ポッター」との関係を、宣伝段階でも前作以上に強く打ち出している。実際に劇中には、「ハリポタ」とのリンクが多い。若き日のダンブルドアに、主人公ニュートが通っていた時代のホグワーツ魔法魔術学校がたっぷりとフィーチャーされ、「賢者の石」を作った錬金術師のニコラス・フラメルなど、「ハリポタ」のファンにアピールする要素もあちこちに出てくる。しかもマニアックなネタは物語を邪魔することはないので、「ファンタビ」から観始めた人も置いてきぼりにされない。詰め込みの印象を抑える、なかなかに計算された脚本である。

ジュード・ロウが演じる若き日のダンブルドアと、ジョニー・デップのグリンデンバルドとの関係は、まさかの……。
ジュード・ロウが演じる若き日のダンブルドアと、ジョニー・デップのグリンデンバルドとの関係は、まさかの……。

前作にもちらっと登場し、囚われの身となったグリンデンバルドが、今回のタイトルの「黒い魔法使い」で、冒頭の脱走シーンから大スペクタクルで魅せる。パリに向かったグリンデンバルドを、ニュートとその仲間が探すのだが、今回のキーパーソンは別にいたりと、一筋縄ではいかない人間関係も進行し、このあたりは大人の観客を意識した作りではないだろうか。ダンブルドアとグリンデンバルドの関係など、観る人によって悶々とさせる要素にも抜かりはない。

「ハリポタ」を子供向けのファンタジーだと遠ざけていた層にとっても、「ファンタビ」は入りやすく、ニュートのキャラクターが母性本能をくすぐる頼りなさと、魔法動物を保護して世話をするという、コレクター的オタク欲求をくすぐる面で、男女問わず共感しやすいという特徴は、この2作目でより鮮明になっている。まずは前作の興収73.4億円が目標だ。

「ミニオン」スタジオの新キャラ VS ディズニーの鉄板人気

では「ファンタビ」と争うべき他のお正月映画は……というと、日本映画でトップランナーになりそうなのは、『告白』の中島哲也監督の『来る』(12/7公開)。何かが「来て」人々を恐怖に陥れるホラーで、岡田准一を中心に豪華キャストが集結。予想の斜め上を行く描写と展開がどこまで口コミで広がるか。ジャンル的に特大ヒットが見込めるかどうか。そのあたりが勝負の分かれ目。

イルミネーションの新しい主役は邪悪だけど憎めないグリンチ 。クリスマスらしいカラフルな映像が魅力。
イルミネーションの新しい主役は邪悪だけど憎めないグリンチ 。クリスマスらしいカラフルな映像が魅力。

アニメでは「ミニオン」のイルミネーションによる『グリンチ』(12/14公開)と、ディズニーの『シュガー・ラッシュ:オンライン』(12/21公開)の一騎打ちになりそう。前者はミニオンの短編が同時上映される「売り」はあるが、かつてジム・キャリーで実写化されたもののアニメとしては新キャラなので、同スタジオの『ペット』の42.4億円や『SING/シング』の51億円あたりが目標か。そして後者は6年ぶりの続編で、前作が興収30億円なので、その数字をクリアして、どこまで伸ばせるか。ディズニープリンセスの総出演など、ディズニーキャラの鉄板人気が後押ししそう。

そして洋画の実写では、レディー・ガガ主演の『アリー/スター誕生』(12/21公開)が、タイトルどおり、往年のお正月映画らしいスター映画。人間ドラマやラブストーリーの大作が少ないお正月映画の中で、大人の観客の興味を引くし、『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』『ボヘミアン・ラプソディ』と、このところ音楽系が予想外のヒットを記録する日本の映画興行の流れに乗って、こちらも数字を伸ばすかもしれない。

「ファンタビ」の一人勝ちは、あくまでも予想。ライバル作品が高い数字で競い合い、さらに『カメラを止めるな!』のようなサプライズ作品の出現に期待したい。

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』

11月23日(金・祝)3D/4D/IMAX (R) 同時公開

配給:ワーナー・ブラザース映画

(c) Warner Bros.Ent. All Rights Reserved.

Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights (c) J.K.R.

『グリンチ』

12月14日(金)全国ロードショー

配給:東宝東和

(c) UNIVERSAL PICTURES

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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