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オープニング上映に来日ゲストがいない……。派手さよりも「質」で勝負の、今年の東京国際映画祭

斉藤博昭映画ジャーナリスト
昨年の第30回は、アル・ゴアとトミー・リー・ジョーンズの2ショットが実現(写真:Shutterstock/アフロ)

10月25日に開幕する第31回東京国際映画祭。オープニング作品、およびクロージング作品はその年の「顔」ともなり、近年はオープニングが海外の作品なら、クロージングは日本映画、またはその逆というバランスが慣例になっていた。多くの人が注目する話題作が選ばれることもあれば、映画祭独自の個性やメッセージが込められた意外な作品が選ばれることもある。昨年クロージングの『不都合な真実2 放置された地球』などは、話題を集める超大作と一線を画し、環境問題に対する東京国際のメッセージも込められていたと思う。

今年のオープニング作品は『アリー/スター誕生』で、クロージングはアニメ版GODZILLAシリーズの最終章『GODZILLA 星を喰う者』だ。

そのニュースが出たとき、映画関係者の期待が一気に高まった。『アリー〜』の主演を務めるレディー・ガガが映画祭のオープニングで来日するのではないか……と。しかしすぐに来日の予定がないことも明らかになった。『アリー/スター誕生』は、監督がブラッドリー・クーパーで彼自身もガガの相手役で出演している。ではブラッドリーが映画祭に来るかと思えば、そういうわけでもない。

これまで30回を重ねてきた東京国際映画祭で、オープニング、またはクロージングの海外作品で来日ゲストがいなかったという例は、おそらく第5回までさかのぼる(クロージングがリドリー・スコット監督の『1492コロンブス』だった)。

昨年の第30回は先に述べたクロージングの『不都合な真実2 放置された地球』で、アル・ゴア元アメリカ副大統領という「大物」が来場。その前の第29回はオープニングの『マダム・フローレンス!夢見るふたり』でメリル・ストリープが来ている(当初は共演のヒュー・グラントも来日予定だった)。アニメ作品の場合でも第27回のオープニング『ベイマックス』で監督や製作のジョン・ラセターなど、華やかなスターではないかもしれないが、海外ゲストが出席。こちらもビッグスターではないが、第25回のオープニング『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの手紙』でも主演女優が一応、来日している。

過去にはトム・クルーズ(第15回)、アーノルド・シュワルツェネッガー(第13回)、ブルース・ウィリスブラッド・ピット(第11回)、レオナルド・ディカプリオハリソン・フォード(第10回)など、オープニングまたはクロージングでビッグスターが来日した時期もあったが、ここ12〜13年は毎回ビッグスターが来日するという状況でもない。それでも主演俳優や監督が映画祭を盛り上げる役を果たしてきたので、今回はやや残念である。

9月のトロント国際映画祭でのレディー・ガガとブラッドリー・クーパー。こんな光景を東京でも見たかったが…。(c) George Pimentel WireImageGetty for TIFF
9月のトロント国際映画祭でのレディー・ガガとブラッドリー・クーパー。こんな光景を東京でも見たかったが…。(c) George Pimentel WireImageGetty for TIFF

もちろんオープニングやクロージング作品は、とくに海外作品の場合、来日ゲストの可否も含めた選考がなされているはずである。明らかにオープニングっぽくはないが、大物が来日できるから、という作品もあった。今年の『アリー/スター誕生』もレディー・ガガやブラッドリー・クーパーの来日要請は当然、行われていたはずである。

とはいえ、スターが来日するかに関係なく、作品の「質」でオープニング作品が選ばれたことは喜ばしい。この『アリー/スター誕生』は、ヴェネチア国際映画祭でお披露目されて以来、レディー・ガガの演技を中心に絶賛を集め、アメリカでも大ヒット中。アカデミー賞に絡む可能性も高いので、そうした作品が東京のオープニングを飾るわけである。

オープニングやクロージングではないが、今年の東京国際映画祭は例年に劣らず「質」で勝負の作品が並び、たとえば特別招待作品に目を向けると、Netflix製作で、これから配信を待つアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』は、スクリーンで観られるのが今回の東京国際映画祭のみの予定。貴重なチャンスとあって、すでに上映4回分は完売だ。この『ROMA/ローマ』も、同じく特別招待作品の『女王陛下のお気に入り』(こちらもチケット完売)も、『アリー/スター誕生』と同様に今後の賞レースに大きく絡んできそうなので、特別招待作品はハイレベルである。他の部門もすでにチケット完売の回が多く見受けられ、今年も映画ファンの期待には十分に応える内容になるのは間違いない。

そう言いながら、まさかのレディー・ガガが東京に降臨、というサプライズ大逆転劇が密かに準備されていたりして……。ガガ様のツイッターを見る限り、その気配はないが、万が一、実現したら東京国際映画祭はビッグニュースとして世界に報じられることだろう。

『ROMA/ローマ』はアルフォンソ・キュアロン監督が新たな撮影監督と組み、奇跡的に美しいカメラワークを堪能させる逸品。スクリーンで観るべきという評判を知る人も多く、チケットは即完売した。(c)TIFF
『ROMA/ローマ』はアルフォンソ・キュアロン監督が新たな撮影監督と組み、奇跡的に美しいカメラワークを堪能させる逸品。スクリーンで観るべきという評判を知る人も多く、チケットは即完売した。(c)TIFF
映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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