いまハリウッド若手実力派トップの“持ってる”男。「ギルバート・グレイプ」作者の息子、父の映画でも熱演
9月6日〜16日に開催されたトロント国際映画祭は北米最大の映画祭であり、年末の賞レースを狙う作品が多く出品される。俳優たちにとっても、その年の代表作になる可能性のある映画が上映されるわけだが、今年、3本もの出演作が上映された若手俳優がいる。まだ21歳のルーカス・ヘッジズだ。
トロント映画祭で一気に3本が上映
3本のうち2本で主役。残り1本も主人公の兄という重要な役どころ。レディー・ガガ、ナタリー・ポートマンなど多くのトップスターが出品された自作のためにトロント入りしたが、3本も出演作があるルーカス・ヘッジズは映画祭に現れなかった。出演するブロードウェイでの芝居が上演間近だったからだ。それほどまでの「売れっ子」というわけだが、トロントとNYはそんなに遠くないのに、芝居の準備を優先するあたり、役者根性も本物と言えるだろう。
3本の作品が、これまた評判が上々だったルーカス・ヘッジズ。どの役も、なかなかに強烈なインパクトを放っている。
『Boy Erased』でルーカスが演じるのは、バプテスト教会の牧師の息子で、学校での成績もスポーツも優秀だが、ゲイであることが公にされ、教会の「矯正」プログラムに入れられてしまう。そこで不条理な扱いに悩み苦しみながらも、同じような状況の少年たちと絆を育む。まさに近年のハリウッドが意識する、LGBTへの考えを問う骨太な作品。両親を演じるのが、ニコール・キッドマンとラッセル・クロウで、大物2人を相手にしたルーカスの熱演が見ものだ。
もう一本の主演作『Ben Is Back』では、ドラッグに溺れた青年ベン役で、リハビリから戻った彼を家族が迎える、わずか24時間の物語。母親役はジュリア・ロバーツと、こちらも大物。限定された時間での緊迫感がキープされ、ベンがいつクスリに手を出してしまうのか、サスペンスフルな空気が漂う人間ドラマに仕上がっている。
この2作で演じるキャラクターは、ともに苦悩や屈折感がたっぷりで、ここらがルーカスの得意な演技なのだろうが、もう一本、俳優のジョナ・ヒルの初監督作『Mid90s』では、まったくの別人のよう。主人公である13歳の少年の、キレやすい兄を豪快に演じ、平気で弟をイジめるし、セリフは危険な単語のオンパレード。演技の幅には驚かされまくる。
とにかく出演する作品のレベルが半端ではない。この辺りは「運」もあるのだろうが、俳優にとって運を呼ぶのも才能である。
出演作が傑作になるという法則
ルーカス・ヘッジズが日本でも注目されたのは、2年前の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。それまでウェス・アンダーソンやテリー・ギリアムという名監督の作品でキャリアを積んで、初めてつかんだ大役の『マンチェスター〜』でいきなり、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。昨年は本人のノミネートこそなかったものの、『スリー・ビルボード』、『レディ・バード』という2本の出演作が、ともにアカデミー賞作品賞にノミネート。偶然とはいえ、ルーカスが出演していれば傑作になるという法則を証明することになった。
ルーカスの俳優デビューは子供時代の2007年、父親が監督した『40オトコの恋愛事情』のエキストラ役。父のピーター・ヘッジズは、『エイプリルの七面鳥』の監督・脚本家、『アバウト・ア・ボーイ』の脚本家として知られ、何より有名なのは『ギルバート・グレイプ』の原作者で脚本家であること。同作は、あのレオナルド・ディカプリオの演技を開花させ、彼をオスカー候補にした。今年トロントで上映された『Ben Is Back』も、じつは父親ピーター・ヘッジズの監督作品である。父親によって息子の新たな才能が引き出されたわけで、その一瞬の鮮烈な表情は、時を超えて若き日のディカプリオと重なる部分があるかもしれない。
どちらかというと、鋭い眼光のクールなイメージが強いルーカス・ヘッジズは、アイドル的な人気を獲得するのではなく、確かな実力でスターへの階段を上っていくタイプだろう。
『Boy Erased』と『Ben Is Back』の2作は日本公開が決まっているので(2019年予定)、ルーカス・ヘッジズの人気はじわじわと、そして着実に高まっていくに違いない。