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クイーン、ABBA…、今年後半は70年代ミュージックが映画を熱くする

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ド派手パフォーマンスの原点を作ったフレディ・マーキュリー。この有名な衣装も再現(写真:Shutterstock/アフロ)

ここ数年、ハリウッド映画では1980年代がちょっとしたブームになっていた。『スパイダーマン:ホーミカミング』や『レディ・プレイヤー1』などで、80年代の映画や音楽、カルチャーの引用が目立ち、当時のスピリットを受け継ぐ映画も相次いだ。

今年の後半は、さらにちょっとだけ遡り、1970年代の音楽を鮮やかに甦らせる映画が続く。その筆頭は『ボヘミアン・ラプソディ』だ(11月公開)。稀代のボーカリスト、フレディ・マーキュリーを中心に、クイーンの軌跡を描く初めての映画が完成する。

ライブ「完コピ」のシーンに、ファンなら感涙必至!

クイーンも、フレディ・マーキュリーも、現代の若い世代にはピンとこない名前かもしれないが、今回の映画のタイトルにもなった「ボヘミアン・ラプソディ」に、現在もスポーツの試合などで流れる「伝説のチャンピオン」や「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、さらに「レディオ・ガ・ガ」や「バイシクル・レース」、そして日本のCMでもたびたび使われる「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」や「ドント・ストップ・ミー・ナウ」など、誰もが今でも日常的に耳にする名曲が多数。母国イギリスでは、クイーンの「グレイテスト・ヒッツ」が、ビートルズなどを超えて、史上最も売れたアルバムになっている(600万枚以上)。日本でのクイーン人気も尋常ではなかった。1970年当時、たとえば子供番組の「ひらけ!ポンキッキ」でも彼らの曲(「シーサイド・ランデヴー」)が使われるなど、無意識に聴いていた人も多い。

フレディ・マーキュリーは、1991年にHIV感染合併症でこの世を去ったが、今回の映画はクイーンのメンバーであるブライアン・メイとロジャー・テイラーがプロデューサーとして参加。撮影現場にも立ち会い、フレディ・マーキュリーに扮したラミ・マレック(TVシリーズ「MR.ROBOT/ミスター・ロボット」などで知られる)にも細かいアドバイスも与えている。バンドの結成から、タイトルの「ボヘミアン・ラプソディ」の完成秘話、自身がバイセクシュアルだと告白したうえでの愛する女性とふフレディの関係などが描かれるが、何と言っても白眉なのは、1985年のライブ・エイドの「完コピ」映像。クイーンの歴史でも伝説となったこのライブで、「ボヘミアン・ラプソディ」「伝説のチャンピオン」、そしてウェンブリー・スタジアムの大観衆がひとつになる「レディオ・ガ・ガ」が再現される。その信じがたい臨場感で、クイーンを少しでも知る人には号泣モノのシーンが完成されているのだ。

肝心の歌部分は、フレディ・マーキュリー本人の音源に、彼のそっくりさん、ラミ・マレックの歌声をうまくミックスさせ、こちらもファンが聴いても納得。劇中では30曲以上が使われ、フレディが愛した日本も短いながら登場する。「ボヘミアン・ラプソディ」は、1992年の映画『ウェインズ・ワールド』で再ブレイクしたが、その主演マイク・マイヤーズも今回の映画に出演している。

音楽だけでなく、舞台も70年代に

1970年代はクイーン以外にも、ベイ・シティ・ローラーズやキッス、エアロスミスなど、それまでの洋楽ファンを超えて、メジャーな人気を獲得したロックバンドが次々と現れた時代だったが、ロックとは一味違うポップ・ミュージックで、70年代中盤から「ダンシング・クイーン」などで、世界的な人気を確立したのが、スウェーデン出身のABBAだ。

このABBAの曲を使ったミュージカル「マンマ・ミーア!」は、1999年にロンドンで上演され、2008年にはメリル・ストリープ主演で映画になったが、その10年ぶりの続編となる『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』が、日本で8月24日に公開。再び70年代を中心にしたABBAの音楽がブームになりそうだ。

70年代のドナを演じるのは『シンデレラ』のリリー・ジェームズ。当時のファッションも見どころだ。(C) Universal Pictures
70年代のドナを演じるのは『シンデレラ』のリリー・ジェームズ。当時のファッションも見どころだ。(C) Universal Pictures

この続編では、前作でメリル・ストリープが演じたドナの若き日が、ドナの娘ソフィの現在のストーリーとシンクロするように描かれていく。過去のパートは1979年。ABBAが人気を集めた70年代の最後である。1作目とは違って映画オリジナルの物語に、タイトルの「マンマ・ミーア!」や、「ダンシング・クイーン」「恋のウォータールー」など、ABBAの70年代ヒット曲が重なるのだが、前作でカットされた曲「きらめきの序曲(The Name of the Game)」「ノウイング・ミー・ノウイング・ユー」(2曲とも舞台版では使われた)がこの続編で使われていたりもする。『ボヘミアン・ラプソディ』と同じように、この『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』もABBAのメンバーであるベニー・アンダーソンとビョルン・ウルヴァースが製作に参加。前作にもあった特別出演が、今回もあるとかないとか……。ファンには楽しみだ。

この『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』の翌週(8/31)に公開される日本映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』も、ヒロインとその親友が、名曲とともに過去を回顧する、という似たスタイル。何やら偶然めいている。『SUNNY〜』が甦らせるのは、1990年代のヒット曲で、あの小室哲哉が音楽を担当していることもあって、安室奈美恵やTRFを前面にフィーチャー。そのほか、PUFFY、久保田利伸、JUDY AND MARYらの曲が詰まっている。注目して欲しいのは、タイトルにも入っている小沢健二の「強い気持ち・強い愛」で、一般レベルでは特大ヒット曲というわけではないが、これがあの筒美京平の作曲であること。「強い気持ち・強い愛」自体は1995年の曲だが、そのメロディは、どこか1970〜80年代の歌謡曲ムードも備えている。クイーンやABBAと結びつけるのは強引だが、すでに70年代に日本が誇る大作曲家だった筒美京平の「真髄」に満ちた名曲なので、ノスタルジー感も伴って70年代音楽ファンにもアピールするのではないか。

『SUNNY 強い気持ち・強い愛』は、大根仁監督。『モテキ』でも経験したミュージカル場面の演出にも注目を。(C) 2018「SUNNY」製作委員会
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』は、大根仁監督。『モテキ』でも経験したミュージカル場面の演出にも注目を。(C) 2018「SUNNY」製作委員会

レディー・ガガ、クラプトン、マリア・カラスも70年代にリンク

クイーンといえば、「レディオ・ガ・ガ」から芸名が生まれたレディー・ガガも、この年末に初主演を果たしたミュージカル映画が公開される。『アリー/スター誕生』だ。すでに3回も映画化されている物語だが、主人公がミュージシャンという点(最初の2作は女優)では、前回、1976年にバーブラ・ストライサンド主演による『スター誕生』のリメイクと言っていいかもしれない。レディー・ガガによる楽曲は新しいものの、そのスピリットは、ストライサンドの主題歌が大ヒットした1970年代音楽映画を受け継いでいると言ってもいい。

その他にも今年の後半には、ドキュメンタリー『エリック・クラプトン〜12小節の人生〜』も公開される。1960年代から活躍し、「ギターの神」とまで称され、現在も絶大な人気を誇るクラプトンが、ソロとして活動し始めたのが1970年代で、ボブ・マーリーの曲をカバーした「アイ・ショット・ザ・シェリフ」などを大ヒットさせた。アルコールとドラッグに溺れ、酔ったままステージに立っていたという70年代の姿も出てくるので、こちらもファンは必見。

そして音楽という点で、オペラにまで広げると、この年末には『マリア・バイ・カラス(原題)』が公開される。没後40年以上経ち、今でもその稀有な歌声が世界中で愛され続けている、20世紀最高の歌姫、マリア・カラスの人生に迫ったドキュメンタリーだ。亡くなったのが1977年(享年53歳)。オペラ歌手としての最盛期は1950年代だったカラスだが、ほぼ引退状態となるも、来日公演などは行っていたのが1970年代で、死の謎も含めた当時の切実な「真実」が垣間見えそうだ。

エリック・クラプトン、マリア・カラスとも、1970年代の音楽で括るのは無理があるが、70年代に大きな転機があった。いずれにしても40代から上の世代に、「音楽」が強くアピールする映画が、今年の後半に目につくのである。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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