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ミュージカルの勝利、コミック映画化の成否は鮮明に。夏〜秋の冷え込み…2017年の映画興行

斉藤博昭映画ジャーナリスト

2017年、日本での映画興行の結果はどうなったか? 圧勝したのは、『美女と野獣』だった。

美女と野獣  124億円

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅  73億円

怪盗グルーのミニオン大脱走  73億円

と、トップ3を洋画が占めたのである。以下も

4位:名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)

5位:パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊

6位:モアナと伝説の海

7位:SING/シング

8位:ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

9位:映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険

10位:ラ・ラ・ランド

と。ベスト10のうち8本が洋画。そして5本がアニメ作品である。

ベスト3が洋画というのは、2011年以来6年ぶり。8本ランクインというのは、じつに2003年以来のことである(『ハリー・ポッターと秘密の部屋』、『パイレーツ・オブ・カリビアン』1作目、『マトリックス』の2作などが公開)。

ちなみに今年の11位(『バイオハザード:ザ・ファイナル』)、12位(『ワイルド・スピード ICE BREAK』)も洋画。2006年から続いていた“邦高洋低”のシェアが11年ぶりに逆転するかもしれない。ただし、ベスト50を見ると、邦画が29本を占めるので、最終的には五分五分くらいか。

ミュージカルが今年のトレンドに

『ラ・ラ・ランド』
『ラ・ラ・ランド』

この洋画の好調の要因としてひとつ挙げられるキーワードは「ミュージカル」だ。

『美女と野獣』は言うまでもなく正統派ミュージカルのスタイルだし、予想外のヒットとなった『ラ・ラ・ランド』も、歌とダンスをフィーチャーしている点で(異論はあるが)ジャンルとしてはミュージカル。興収上位のアニメ作品『モアナと伝説の海』や『SING/シング』もミュージカル色が強い。公開規模は小さめだったが、『ベイビー・ドライバー』はアクションをミュージカルのように音楽優先で演出した作品だった。過去にも『レ・ミゼラブル』(年間4位)、『オペラ座の怪人』(年間7位)と予想以上のヒット作が生まれたように、日本におけるミュージカル映画の集客力は侮れない。

一方で残念だったのは、邦画の実写作品である。年間ランクで最高は、13位の『銀魂』で38億円。実写邦画がベスト10に入らなかったのは、2002年以来15年ぶりとなる(2002年の最高は14位の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』 ※アニメの『とっとこハム太郎』を併映)。一大ブームを起こす実写作品が、なぜ生まれなかったのか。『22年目の告白−私が殺人犯ですー』、『海賊とよばれた男』など「そこそこ」のヒットは多かったが、期待された人気コミックの実写が低調だったのも要因のひとつか。

実写の邦画に爆発的ヒットが生まれず

『銀魂』は大ヒットと言っていいが、同様に夏休み映画の目玉になるはずだった『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』が年間の50位にも入っていない。発行部数1億部と原作人気が絶大であり、スペインでのロケまで敢行して製作費が高かっただけに、残念な結果となった。ハリウッドで製作された実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』も、思ったほど数字を伸ばしていない。

こうした大人気コミックの実写化の危険は、2015年の『進撃の巨人』あたりから顕著になってきた。2部作で作られた同作は、前編の32.5億円から後編の16.8億円と興収が半減。前編を観てガッカリした人が多かったことを証明してしまった。近年、Yahoo!映画のユーザーレビューなどの影響力はさらに強くなり、とくに人気のコミックの場合、原作ファンの「不満」が広まるスピードも加速している。『20世紀少年』や『るろうに剣心』のように、ある程度、原作ファンを満足させれば大ヒットへの可能性は開ける。マスコミも含め、公開前の試写がほとんど行われなかった『ジョジョ』は極力、クチコミの広がりを抑えたのだが、それでもヒットにはつながらなかった。年末の『鋼の錬金術師』は賛否両論で「まあまあ」の推移。とはいえ、こちらも製作費を考えれば物足りない数字で終わりそうだ。とにかく問われるのは、作品の完成度で、その意味では順当な結果かもしれない。題材が難しいとはいえ、『テラフォーマーズ』『ジョジョ』とコミック実写化で失敗した三池崇史監督は、ちょっと心配だ。『ジョジョ』の「第二章」はどうなるのか……。来年に控える『BLEACH』(監督は『GANTZ』などの佐藤信介)が、今後の人気コミック実写化の行方を左右するかもしれない。

純粋な面白さが広まる、健全な結果

『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』
『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』

この『ジョジョ』や、「2017年の『君の名は。』になるかも」と言われた『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』など、夏休み後半の期待作の伸びが芳しくなく、秋にかけての映画興行は冷え込んでしまった。上半期が2016年の15%増だっただけに、ヒット作が生まれず、落差が際立ったのだ。その秋にサプライズを起こしたのが『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』で、当初は配給会社もそれほど期待しておらず、宣伝費も少なかったのに、純粋に作品の面白さ、怖さへの期待感で20億円超えのスマッシュヒットにつながった。2016年の『オデッセイ』や『デッドプール』のように、観客の興味に引っ掛かるポイントがあり、実際に観た人の評価も高ければ、ヒットにつながる。改めて、真っ当な事実を証明した作品として、『IT/イット〜』は2017年の興行で記憶に残る作品となった。

『美女と野獣』

(c) 2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

『ラ・ラ・ランド』

EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

(c) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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