撮影現場で見た、アナログで動くエイリアンの頭、引き裂かれた人体モデル…『エイリアン:コヴェナント』
日本でも公開が始まった『エイリアン:コヴェナント』。
リドリー・スコット監督が、自身の代表作である1979年の『エイリアン』につながる物語として新たに撮った作品である。物語のリンクはもちろんだが、この新作は映像のテイストにも似た肌触りがある。異様な生々しさだ。じつに38年という歳月を経て、映像テクノロジーがこれだけ進化したのに、この懐かしい感覚はなぜだろう……。その秘密は、撮影現場にあった。
今から一年少し前のオーストラリア、シドニー。ここで『エイリアン:コヴェナント』の撮影は行われていた。ニュージーランドの大自然でのロケを行い、その後、シドニーのスタジオで大がかりなシーンの撮影が次々と続いていた。筆者がセットを訪れたのは、その真っ盛りの一日だった。
宇宙船の格納庫だけでも巨大なセットだった
シドニーの中心地から車で20分ほど。巨大ショッピングモールの近くに、20世紀フォックスのシドニースタジオは隣接していた。この日、行われていたのは、タイトルにあるコヴェナント号(惑星移住計画で地球を飛び立った宇宙船)の格納庫でのアクションシーンだった。このスタジオではその前年、『オデッセイ』の撮影も行われており、スタッフの中には、オデッセイのTシャツ姿もいたりする。
200メートル四方もある巨大なセットで建造された格納庫は、宇宙船と宇宙空間を出入りする扉も備え、重機も並んでいる。実際に動く重機を確認しながら、リドリー・スコットはスタッフにさまざまな指示を与えていた。
見学している取材陣の前に、突然、現れたのはエイリアンの頭部を持ったスタッフだった。
今回の主要キャラクターである「ネオモーフ」だ。オリジナルの『エイリアン』に登場した「ゼノモーフ」に進化する前の段階のネオモーフだが、あの長い頭部は、ほぼ同じデザインである。
驚くことに、その頭部は人形劇のパペットのように手動式である。スタッフが操り棒も駆使しながら、口を開き、その中からもうひとつの口が出てくるなど、すべて手動のリモコンによってリアルに動く。もちろん実際に撮影で使われているのである。
この頭部が象徴するように、大量に出現するネオモーフは、スーツアクターが、いわゆる「着ぐるみ」で演じているシーンも多い。ネオモーフ役には、スリムな体型の俳優がキャスティングされたという。
彼らが複雑な頭部を装着するのには25分を要するそうだ。
血みどろの人体は恐ろしくリアル
さらに衝撃的なのは、体内に寄生したエイリアンが外に出てくる、『エイリアン』シリーズではおなじみの描写も、実際のモデルが作られて撮影されていたこと。人体のモデルを突き破り、血の中から頭部を見せる「チェストバスター」や、突き破られた人間の死体や肉体の一部といったモデルが、美術チームのスペースにゴロゴロと転がっている。すでに撮影済みのモデルとはいえ、かなり不気味な光景である。現代の映画なので、もちろんCGも多用されているが、基本はこうしたアナログのモデルというのが、オタク心を刺激しまくるのだ。
格納庫のセットは、細かい迷路のような宇宙船内のセットへとつづいていた。船内の多数のモニターには、さまざまなデータの映像が流れていたりと、ブリッジからブリッジへと移動するうちに、本当に宇宙船の中を歩いている感覚に陥っていく。
飛行士たちの衣装も精巧に作られていた。ブーツの底にはマグネットが付けられ、船内を歩行する際は足裏が「接着」する感覚を導く効果があった。腕に装着した小型モニターも実際に稼働する。そしてヘルメットには、なんと2000個のLEDライトが付いているとの説明。この2000という数は、やや大げさにしても、『プロメテウス』『オデッセイ』を進化させたというヘルメットのデザインはクールそのものだ。長い航海のためのスリープスーツ(パジャマ)は、メッシュの素材で快適さが重視されている。
こうしてセットを見学している間も、リドリー・スコット監督はつねに動き回り、スタッフにあれこれ指示を出し続けている。現在79歳(この撮影現場訪問時は78歳)のリドリーは、衰えを感じさせないどころか、ますます元気になっている印象もある。撮影の合間にリドリーはこんな話をしてくれた。
「オリジナルの『エイリアン』の美術は、H・R・ギーガーによるチューブを駆使した機械的(メカニカル)な要素も濃厚だったが、今回はギーガーのデザインを受け継ぎつつ、より“生っぽい進化(ナチュラル・エボリューション)”を目指したよ」。
リドリーが話す「生っぽい進化」が、あちこちで体感できる『エイリアン:コヴェナント』。アナログな不気味さも、ぜひスクリーンで味わってほしい。
『エイリアン:コヴェナント』
9月15日(金)、全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
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