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爆発的勢いが欲しい夏映画。後半の期待は『スパイダーマン』か『打ち上げ花火』か。その仕上がりは?

斉藤博昭映画ジャーナリスト

一年の興行成績を大きく左右する、夏公開の大作群。その半分以上が公開され、この夏の全体的な状況が見えてきた。

現在の2トップは『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』と『怪盗グルーのミニオン大脱走』だろうか。

現在、『パイレーツ』が58億円、『怪盗グルー』が31億円だが、前者は6週目、後者は3週目での数字なので、かなり数字は接近するかもしれない。その他の作品は、それなりに順当か、あるいはやや物足りない数字と言えそう。日本映画では現在、『銀魂』の27億円がトップ。先週末に公開され、この夏の目玉になりそうな2本の土日2日間の成績は、『トランスフォーマー 最後の騎士王』が3億2826万円、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』が1億6600万円と、想定内の範囲にとどまったという感じ。サプライズなヒットには至らないかもしれない。

昨年の『シン・ゴジラ』(82.5億円)や『君の名は。』(249億円)、一昨年の『ジュラシック・ワールド』(95.3億円)、その前の『STAND BY ME ドラえもん』(83.8億円)のような爆発的大ヒット作は、もしかしたら今年の夏は出てこないのか……。そんな寂しい予測を覆してくれそうな、夏後半の2作がある。その仕上がりがメチャクチャ評判の高いアクション大作と、大きなポテンシャルを秘めたアニメだ。

スパイダーマン:ホームカミング

今度のスパイダーマン、とにかく評価が高い。もともとスパイダーマン映画は他のマーヴェルヒーロー作品に比べ、日本でも大ヒットを記録している。

2002年『スパイダーマン』 75億円

2004年『スパイダーマン2』 67億円

2007年『スパイダーマン3』 71.2億円

2012年『アメイジング・スパイダーマン』 31.6億円

2014年『アメイジング・スパイダーマン2』 31.4億円

後半の「アメイジング」で数字は落ちているものの、1作目→2作目での落ちはゼロに近い。ある意味、安定した成績である。

そして今回、新たなスパイダーマンの登場である。正直、「またか」と思ってしまう人もいるだろう。しかし「またか」で観るのを止めたらもったいないほど『スパイダーマン:ホームカミング』には楽しさと、さわやかな感動が待ち受けている。

親友のネッドを好演するのは、映画初出演となるジェイコブ・パタロン
親友のネッドを好演するのは、映画初出演となるジェイコブ・パタロン

今回のピーター・パーカーは15歳の高校生という設定。演じるのは現在21歳のトム・ホランドで、これまでのスパイダーマン俳優に比べ、格段に若い。すでに昨年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に登場しているトム・ホランドのスパイダーマンだが、とにかく「アベンジャーズ」の正式メンバーになりたくて、必死&独自のヒーロー活動を行う姿がとことん健気。近所のパトロールで自転車泥棒を捕まえ、困っている老人は道案内。それを父のように見守り、飴とムチで鍛えるトニー・スターク(アイアンマン)との関係も共感度大だ。何よりこの作品、青春映画として上質なのがポイント。先輩女子に打ち明ける想いや、オタクな親友との共闘関係など、ピーター・パーカーの成長ストーリーとして観続けていると、ラストの彼の決断にハートがわしづかみされるのは間違いない。アクション映画で、ここまで爽やかな後味がもたらされるのは珍しい。

こうした作品評価が広まれば、今回の『スパイダーマン:ホームカミング』も、トビー・マグワイア×サム・ライミ監督の3部作くらいの成績を目指せると思うが、どうだろう。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

企画・プロデュース(川村元気)、宣伝プロデューサーとも『君の名は。』と同じなので、またもや予想外のヒットの期待を託されている。

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原作は1993年、岩井俊二が監督・脚本を手がけた同名ドラマ。その2年後、彼は『Love Letter』で大ブレイクしたわけで、このドラマは「伝説化」された。今回のアニメ版は、オリジナルと基本の設定は同じ。「もしも、あのとき」という、中学生(オリジナルは小学生)の夏休みの一日が描かれる。主人公・典道と、親の再婚で突然の転校が決まった同級生・なずなの淡い恋の行方が、オリジナルの45分から2倍の90分になったことで、「もしも」のパターンが複雑化をみせる。キーアイテムの花火も、アニメになってファンタジックな美しさを提供し……と、映画的な広がりが実感できるのだ。

もともと岩井俊二のドラマで、なずな役の奥菜恵が撮影時は13歳で、典道役の山崎裕太が12歳だったが、改めて観直しても奥菜がずいぶん年上に見える。自分より早く大人になった女子に対する強烈な憧れが感じられた。

今回のアニメ版では、男子から女子への気持ちが、さり気なく、ちょっぴりきわどいカットも盛り込みながら描写されていく。なずなが過剰なまでに美しく、エロティックに見える瞬間が何度も用意されているのだ。その一方で、オリジナルには少なかった、なずなのロマンチックな幻想もアニメならではの表現で展開される。脚本は『モテキ』『バクマン。』の大根仁で、総監督は『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之。両者の嗜好が、岩井俊二の“青い”時代と見事にミックスされたのは間違いない。

終わりゆく「夏」の寂しさが全編に満ちあふれている……
終わりゆく「夏」の寂しさが全編に満ちあふれている……

しかし、『君の名は。』に比べると、夏の一日という限定された空間。世界観としては、よりパーソナルなので、『打ち上げ花火〜』が社会現象を起こす作品になる可能性は低いかもしれない。

とはいえ、昨年の今頃、誰一人として『君の名は。』の特大ヒットは予想していなかった。『スパイダーマン:ホームカミング』とともに、作品の魅力が拡散されたうえで、大ヒットへの道が開けばいいのだが……。

スパイダーマン:ホームカミング

8月11日(金・祝)、全国ロードショー

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(c) Marvel Studios2017. (c) CTMG. All Rights Reserved.

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

8月18日(金)、全国ロードショー

配給:東宝

(c) 2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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