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PM2.5もフォースの神通力を阻止!?『ローグ・ワン』中国で期待のヒットならず

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ローグ・ワン〜』中国での大ヒットの期待を背負ったドニー・イェン(写真:REX FEATURES/アフロ)

1月6日に中国で公開が始まった『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は、翌週、ジェニファー・ローレンスとクリス・プラット主演のSF作品『パッセンジャーズ』にあっさりと首位を明け渡した。しかもその落ち込み方が急激である。1週目の週末こそ、3270万ドルの成績だったが、2週目の週末は897万ドル。70%も数字を落としたのだ。同作の公開から10日間の累計は5270万ドルとなる。

2016年1月に中国で公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は、公開週末の数字は5360万ドル。『ローグ・ワン』との差は、本シリーズと、サイドストーリーの違いによるものかもしれない。日本でも『ローグ・ワン』の公開週末の数字は、『フォースの覚醒』の52.5%だった。しかし、ディズニーとルーカス・フィルムが、中国での『ローグ・ワン』の数字に期待していたのは事実。もともとスター・ウォーズのファンが少ない中国にとって、今回はファン以外でもすんなり入り込める新しい物語であるうえに、ドニー・イェン、チアン・ウェンという中国系のスターたちをメインキャラクターに起用し、中国での爆発的ヒットを目論んでいた。このあたりの詳細は、猿渡由紀さんの記事を参考にしてほしい。

不運も重なった。

『ローグ・ワン』の公開は1月6日だったが、中国では年明けとともに、PM2.5による濃霧に対して最高レベルの「赤色警報」が出されたのだ。元日の汚染指数は「指標超」という、史上最悪の数字も記録されたという。1月4日には視界が50m以下になり、ハルビンや広州、成都、杭州といった多くの大都市で、私用車の使用が禁止されるなど、市民は外出を控えることを余儀なくされてしまった。そんな状況での映画公開だったのである。

警報の状況がやや落ちついてきた公開2週目に、『ローグ・ワン』の数字に期待がかけられたものの、前述したとおり巻き返しは「夢」で終わった。今後、大きく数字を伸ばすことはないだろうし、早めに上映が打ち切られる可能性もある。旧正月には新たな話題作で劇場が埋め尽くされることになるのだから。

同じくディズニーが配給する最近の作品と比較してみると、中国での公開週末の数字は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が9510万ドル。『ドクター・ストレンジ』が4346万ドルを記録している。この数字からも『スター・ウォーズ』の人気がどの程度か、計り知れるだろう。ちなみに『君の名は。』は、中国での公開週末数字が4100万ドルだった!

世界の映画市場を左右する中国マーケットは、たしかに落ち着きを見せているものの、やはりハリウッドにとってはドル箱。2017年末に公開される『スター・ウォーズ』の第8作で、ディズニーとルーカス・フィルムが中国の観客に向けてどのようなアピールを用意するのか。さらなるアイデアと試練が要求されそうだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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