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祝・リオ五輪! 夏季の開会式演出は、これで3回連続で映画監督。では次の東京は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

8月6日(現地時間、8月5日)、リオデジャネイロ夏季オリンピック大会が開幕した。

開会式では、カエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルの共演、ブラジルを代表するモデル、ジゼルの登場、そしてもちろんカーニバルなど華やかな見せ場を用意しつつ、広島に原爆が投下された時刻に日系ダンサーが出てくるなど平和へのメッセージ、さらに各国の格差問題や地球温暖化問題などをショーとして巧みに見せるなど、あちこちに骨太さが感じられる演出だった。マラカナンスタジアムの真っ白なグラウンドからスタートさせたことで、「いったい何が起こるんだ?」という期待を高める効果は絶大だった。

演出を担当したのは、フェルナンド・メイレレス。映画監督である。

真っ白なグラウンドをスクリーンとして活用したり、スポーツを楽しむ人たちを上空からとらえた映像でつなぐなど、映画作家らしい演出は冴えわたっていた。

メイレレスといえば、代表作は2002年の『シティ・オブ・ゴッド』。リオデジャネイロの子どもたちが犯罪に巻き込まれる過酷な現実を、ドキュメンタリーかと見まがうほどリアルな映像と演技で描き、米国アカデミー賞の監督賞にノミネート。同作で社会派のイメージが強いが、2008年の『ブラインドネス』では、木村佳乃や伊勢谷友介という日本人キャストも起用し、近未来パニック映画を撮るなど、幅広いジャンルを監督している。国際的に見て、ブラジルを代表する映画監督であることは間違いない。

映画監督が、夏季オリンピックの開会式を演出したのは、これで3回連続

2012年のロンドン・オリンピックは、ダニー・ボイルが演出した。

トレインスポッティング』(1996)でその才能を世界に知らしめ、インドを舞台にした『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)で米国アカデミー賞の作品賞や監督賞などを受賞。ボイルが「イギリスを代表する監督か?」と問われたら、映画好きなら「その一人」と答えるだろうが、世界的な知名度からすれば申し分ない。

エリザベス女王とダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドを共演させ、世界に誇るブリティッシュ・ミュージックのアーティストたちを登場させた、ゴージャスかつポップな開会式は、今も記憶に新しい。

そして、その前の2008年、北京オリンピックでは。チャン・イーモウが開会式を演出した。

デビュー作、『紅いコーリャン』(1987)以来、『初恋のきた道』(2000)、高倉健が主演した『単騎、千里を走る』(2005)など代表作は多数。最新作『長城(グレート・ウォール)』は、マット・デイモンを主演に迎え、モンスターとの戦いも描くスペクタクル大作になっている。

通称“鳥の巣”の会場に、巨人が向かう足跡を花火で表現し、アトラクション全体も「豪華絢爛」という表現がふさわしい、スケールと美しさが強調されていた北京の開会式。オリンピック以前にも、紫禁城でオペラを上演するなど、大がかりな演出を得意としてきたイーモウの才気が、アトラクション全体に詰め込まれた。

こうして3回連続で映画監督が総合演出を務めたわけだが、では2020年の東京大会に、ふさわしい人材はいるのだろうか? 冷静に判断すれば、「4回連続で映画監督」の実現は難しそう。

世界的に知られる、存命の日本の巨匠といえば、その筆頭に挙がるのは、宮崎駿だが、アニメーション以外の演出となると現実的に無理だろうし、何より、本人が引き受けないだろう。知名度からいえば、北野武も候補に挙がりそうだが、国を挙げての大プロジェクトにふさわしいかというと、違和感をもつ人も多いかも。「アドバイザー」的な参加なら大いに可能性があるはずだが。

世界の映画祭で名前が知られている日本人監督といえば、河瀬直美黒沢清是枝裕和あたりだが、彼らがイベント的な演出をするとは考えられない。

意外に、最も可能性があるのが、舞台での経験もある、三谷幸喜宮藤官久郎あたりかもしれないが、映画監督とはいえ、過去3回の演出家に比べると世界的ネームバリューは乏しい。

むしろ『シン・ゴジラ』を大成功に導いた、庵野秀明樋口真嗣あたりが協力したら、日本カルチャーをうまく使った一大セレモニーも不可能ではなかったりして……。まぁ極論ですが。

1998年の長野オリンピックでは、劇団四季の浅利慶太が総合演出を任された。そして2020年、蜷川幸雄が元気だったら……というのは、叶わない夢になった。

いずれにせよ、あと4年というカウントダウンは始まったので、すでに裏では交渉が大詰めになっているはず。間もなく、開会式の総合演出家が誰なのか、アナウンスされることだろう。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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