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エボラ、デング…。地球の未来はウイルスが支配するのか。しかし、その前に…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『猿の惑星:新世紀(ライジング)』 9月19日(金)全国ロードショー

ウイルスの蔓延、新薬開発のリアリティ

今年もエボラ出血熱、デング熱と、人類に脅威を与えるウイルス関連のニュースが続く。すでに日常と化したこの状態に、遠い将来、地球を支配するのは、進化したウイルスではないか‥などと考えるのは、あながち非現実的でもないかもしれない。実際に、その脅威が切迫して感じられているようで、ウイルスの蔓延によって人類が危機に陥る映画が、ここ数年、後を断たない。

というわけで、すでに日本でも先行上映が始まった『猿の惑星:新世紀(ライジング)』も、ウイルスによる地球レベルのパニックから始まる。

わずか10年で全世界に広まるウイルス。やや急なスピードかとも思われるが、感染力が強く、抗体が見つからなければ、この拡大はありえるだろう。実際に、今年の7月、ウィスコンシン大学マディソン校教授で東大医学研究所教授の河岡義裕氏が、ヒトの免疫を完全に回避するインフルエンザのウイルスを生成させることに成功…なんてニュースも流れた。もしこのような強力なウイルスが盗まれ、テロなどに使われたら、まさに人類滅亡へのカウントダウンは始まってしまうかもしれない。

もし人類が残りわずかになったとき、地球を支配するのは何か? その回答のひとつが、新たな『猿の惑星』シリーズと言っていい。人間にいちばん近い種のひとつ、チンパンジーが、人間のアルツハイマー用の新薬を投与されたことで、急速な知能の進化を遂げたというのが前作の物語。これもやや突飛なアイデアであるが、ありえなくもない!? 実際にチンパンジーのサイン・ランゲージ(手話のような身振り手振り)能力は証明されており、訓練すれば人間との意思疎通も可能とのこと。

ウイルス、新薬開発など、現実的な要素を絡めたことで、一見、荒唐無稽な世界が、激しいまでのリアリティを伴ってくる。そこに、このシリーズの魅力がある。

と書きつつも、この『猿の惑星:新世紀(ライジング)』の最大の「リアル」は、猿たちの映像であることに間違いない。パフォーマンス・キャプチャーの、ひとつの到達点になっているのだ。

さらに精度を増した「猿演技」の理由は?

俳優の肉体の動きから細かい表情までをデータ化し、CGキャラクターに変換するパフォーマンス・キャプチャーは、これまでも『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや、『キング・コング』、『アバター』、日本映画でも年末公開の話題作『寄生獣』など多様なキャラクターを創造しているが、その多くが、「現実にはいない」存在。あるいは『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』のようなアニメ作品だった。しかし『猿の惑星』では、現実に存在するチンパンジーやオランウータンのためにキャプチャーが使われている。その結果、プロセスを知らない人にとっては、本物の猿が演技しているとしか思えない映像に仕上がった。

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その異様な感覚は、前作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』でもすでに引き起こされていたが、この続編が画期的なのは、屋外の撮影でパフォーマンス・キャプチャーを使っている点だ。専用のスタジオで撮影が行われていた、これまでのパフォーマンス・キャプチャーとは異なり、今回は実際にバンクーバーの森の中などで、俳優たちが猿の動き&演技をして、それをそのまま3Dでキャプチャーすることに成功した。『ホビット』シリーズでも一部、ロケによるキャプチャーが採用されているが、ここまで大規模なチャレンジは史上初である。

実際の背景があれば、俳優たちの「猿演技」も当然、生々しくなるわけで、この点を、パフォーマンス・キャプチャーの第一人者で、本シリーズの主人公シーザーを演じたアンディ・サーキスに、映画完成前にインタビューしたので、ここに紹介したい。

『ロード・オブ・ザ・リング』でゴラムを演じたときは、まず屋外のロケで、イライジャ・ウッドやショーン・アスティンと演技をする。その後に、キャプチャー用の小さなスタジオに行って、同じ演技を繰り返さなければならなかった。今回は、大きな野外のロケーションでキャプチャー撮影できるようになったから、その繰り返しが不要なんだ。

僕らはカメラにパルスを送るライブ・マーカーの付いたスーツを着て、たとえば森の中の決められた場所で演技をする。実写映画のようにね。現場には、80台から100台ぐらいのモーション・キャプチャー・カメラが、木の中とか、岩の陰とかに隠されて置かれている。それらはとても小型カメラで、演じる僕らにはそれらがまったく気にならない。

ただ、頭には以前のようにカメラを付けており、それがちょっと煩わしいけど、数年したら頭のカメラも不要になるんじゃないかな。キャプチャー技術は作品ごとに進化し、どんどん自然な芝居ができるようになっている

森のコミュニティで暮らす、2000 頭もの猿。

その1頭1頭が、木々の湿気で毛がうっすら濡れている。

信じられないレベルに達している映像は、アンディ・サーキスを中心とした「猿キャスト」に、最適な環境が与えられたことで完成形になった。

その映像にウイルスのリアリティを感じながら向き合うことで、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』は、恐るべき映画として迫ってくる。

(c) 2014 Twentieth Century Fox

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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