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恋するゾンビ映画

斉藤博昭映画ジャーナリスト

愛すべき、斬新な純愛ストーリーの誕生

しばらく前から、気になって気になって仕方がなかった作品を観た。この秋、日本で公開される『ウォーム・ボディーズ』だ。

2月の全米公開で大ヒットしたこの映画は、ゾンビと人間のラブストーリー。

ゾンビ映画といえば、1970年代末のジョージ・A・ロメロ監督による、その名も『ゾンビ』によって日本でもゾンビという用語が定着して以来、最近の「バイオハザード」シリーズあたりまで、数多くの作品が製作され、ひとつのジャンルを形成したと言ってもいい。21世紀に入ってからは『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ゾンビランド』といった、“笑える”ゾンビ映画が人気を呼んだ。こうしてありとあらゆるパターンが量産されているなか、ゾンビと人間の純愛を謳う『ウォーム・ボディーズ』は「新しいゾンビ映画」という香りがプンプン漂っていたのだ。

基本的にこれ、「トワイライト」シリーズや『ハンガ−・ゲーム』の路線を狙ったティーンエイジャー向けの作品。だからツッコミどころを挙げればキリがないけれど、一貫して愛の物語という基本設定がブレないのがいい! 舞台は、感染していない人間とゾンビが隔離されて生活している社会。ゾンビたちは空港を占拠して生活しているが、基本的に行動がスローでそんなに怖くない。でも空腹になったら人間に噛みつきたくなるので、当然、人間社会に近づこうとする。そんなこんなで主人公の青年ゾンビくんは、非感染者の人間の少女と出会い、彼女を自分の隠れ家に監禁してしまい…というのが冒頭の展開。ゾンビくんが生活するのは小さめの旅客機で、アナログのレコード盤をコレクションしてたりして、なんだかオタク青年の部屋のようなのが笑える。そう、つまりこの主人公は、好きな女子がいても声さえかけられない、小心者男子の象徴なんである。それこそが、ゾンビに共感させる大きなポイントなのだ。

オペラ座の怪人+ロミオとジュリエット

好きな女の子を自分の隠れ家に連れ去る設定は『オペラ座の怪人』であり、その後の物語は、結ばれてはいけない男女の「ロミオとジュリエット」そのもの。要するに、ベタな展開。このベタな流れに身を任せれば、ゾンビくんの純愛行動にぐんぐん共感は増していくというワケ。この“ロミジュリ”志向は最後まで徹底しており、「ロミオとジュリエット」をモチーフに作られた『ウエスト・サイド物語』にオマージュを捧げるなど、高等テクなシーンもある。ガンズ・アンド・ローゼズなどの曲の使われ方も、いい意味で軽くて爽快! 一方でグロい描写もしっかり盛り込まれているので、コアなゾンビ映画ファンもそこそこ満足できるのでは?

ブラピのアクション大作も!

そして、この『ウォーム・ボディーズ』の前に日本で公開されるのが、ブラッド・ピット主演の『ワールド・ウォーZ』(8月10日公開)。この「Z」が何を表現しているかは説明不要として、こちらはシビアなアクション超大作。『ワールド・ウォーZ』の宣伝ビジュアルには、こんなお遊びも…。

ワールド・ウォーZ
ワールド・ウォーZ

猫ゾンビが本編に登場するかどうかは別として、今年の夏から秋にかけては、両極端のゾンビ映画を楽しめる、ってことで!

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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