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ミニボート、ゴムボートで釣行するには時期が早い 連休後半の釣行には海水温の事前チェックを

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
(提供:イメージマート)

 連休後半中にミニボートやゴムボートで釣りに出航を予定している方が多いと思います。この連休中にすでに釣行ボートによる事故が発生しています。日本列島の場所によってはまだ出航するには時期が早い所もあります。

死亡事故が発生

 新潟県村上市で4日、釣り人2人が海に転落する海難事故が発生しました。4日午前9時過ぎ、村上市の笹川流れで釣り人から「海に転落した人がいる」と消防に通報がありました。新潟海上保安部によりますと、海に転落したのは男性2人で2人は釣りをするためゴムボートで岩場に向かう途中、転覆したと言うことです。1人は自力で岸に上がり、意識はありますが、海上保安部によって救助された男性は病院に運ばれましたが、その後死亡が確認されました。 (NST新潟総合テレビ 5/4(水) 11:10配信

 このほかにも今月2日には、新潟港東区で釣りから戻る途中のミニボートの転覆事故が発生し、2人が救助されています。同様の事故は、新潟ばかりでなく全国で発生しています。コロナ渦での釣りブームの流れなのか、手軽に海に出ることのできるミニボートやゴムボートで海に釣行する人が一昨年あたりから目立つようになったと、操船時に筆者は感じています。

ミニボート・ゴムボート その出航の目安

 ミニボートとは免許や船舶検査が不要な船舶で、船の長さ:3 m未満、推進機関の出力:1.5 kW(約2馬力)未満、プロペラ回転を必要時に直ちに停止可能な機構の装備されたものを指します。

 さらにゴムボートの中には10馬力未満の船外機を搭載して運航される、小型船舶免許や船舶検査の必要なものもあります。でも長さや幅はミニボートとあまり変わりません。

 長さが3 m未満ということは、波のない穏やかな日に運航すべきで、基本は湖や池のような場所が理想ですが、この釣りブームも相まって海岸で運航する人も目立つようになってきました。

 ミニボートやゴムボートの出航の目安は、海上保安庁により次のように公開されています。

波高 0.5 m以下

風速 毎秒4 m以下

 もちろん、強風注意報や波浪注意報が発令されているのであれば出航は見合わせます。ここで波高とは有義波高と呼ばれる数値を使っています。100回に1回は有義波高の1.6倍の高い波が来ますし、1000回に1回は2倍弱の高さの波が確率的にやって来ます。つまり、波高0.5 m以下とはいっても、1 mくらいの波の洗礼は受けることがあります。

 では、波高が0.5 mとか1 mとか、具体的にはどれくらいの波でしょうか。動画1をご覧ください。これは38 ft(長さ12 m弱)のクルーザーヨットで防波堤の内側から外海に出た時の様子です。防波堤の内側では波高0.5 m未満で、外側ではおよそ1 mの波がありました。外海に出てから船首を波向に向けたとたんにヨットがピッチング、すなわち船首と船尾の縦揺れが起こり、突然の動揺に対する同乗者の甲高い声が聞こえます。

動画1 波高およそ1 mの中の航行の様子(筆者撮影)

 ミニボートやゴムボートなら、動画1のような外海の波をくらったらひとたまりもありません。すぐに転覆してしまいます。

 新潟県村上市で4日、釣り人2人が海に転落した海難事故ではどうだったかというと、windyによれば今朝の村上市笹川流れ周辺では、南西の風、風速毎秒11 m、波向は西で波の高さは0.9 m、波の周期は5秒でした。風速も波高もゴムボートの航行には不向きでした。

本当に怖いのは海水温

 ミニボートやゴムボートが転覆しても、救命胴衣を着装していて、さらに転覆して浮いているボートのどこかにつかまっていれば、そうそう命を落とすことはありません。呼吸が確保できるからです。

 先日発生した知床観光船の海難事故でもそうでしたが、本当に怖いのは低い海水温です。どれくらいの海水温が人にどのような作用を起こすかというと、およそ次の通りです。

 水温        作用         備考

0度ー7度  痛み、手が動かない  氷水に手を入れた時の感じ

7度ー17度 生存可能数時間以内  10度あると10分程度泳げる

17度以上 生存可能時間が長くなる 救助が間に合う可能性大

 水温が特に5度を下回ると、身体中に激しい痛みを感じます。手はすぐにかじかんで動かなくなります。動かなければ、救助に来た人の手すら握れなくなります。梯子を上ることもできません。そのため、こういった低温では一度水に浸かれば救命胴衣も救命ラフトも生還には役に立たなくなります。

 水温が7度以上になると痛みは和らぎます。水難学会では過去に水温10度における人間の運動機能について実測したことがあります。例えば10分程度顔上げ平泳ぎで泳ぎ続けることができます。つまり、救命ラフトが近ければそこに泳いで近づき自力で上がることが可能です。ただし、生存可能時間は数時間ですから、海中にいたままでは救助隊が到着するまで命が持つかどうかについてはきわめて厳しい答えが待っています。

 水温が17度を超えると、生存可能時間が飛躍的に長くなっていきます。そのため、例えば救助隊到着まで3時間程度かかったとしても生還する可能性が高くなります。

 新潟県村上市の海難事故ではどうだったかというと、windyによれば笹川流れ付近の海水温は12度でした。これは救命胴衣を着装していたとしても生命維持には極めて厳しい条件だったと言わざるを得ません。

海水温はきちんと調べて釣行へ

 windyで海水温を調べれば、すぐにおおよその海水温がわかります。特にミニボートやゴムボートで釣行に臨むのであれば、落ちても生存可能かどうか、温度の事前チェックはぜひとも行ってください。

 本日5月4日現在では、おおよそ次の通りです。

太平洋側 銚子より南は海水温17度以上

日本海側 九州より南は海水温17度以上

瀬戸内海 全体が17度未満

北海道東沿岸 5度未満

 以上のように、気温は十分に高いにもかかわらず、まだまだ海の中は春先の様相です。海水温が17度を割るような海域でのミニボートやゴムボートでの釣行は、出航の可否も含めて慎重に判断してください。

さいごに

 救命胴衣着装でも命の危険にさらされるのが低い海水温です。水難の世界では「どうやっても助からない」事故があり、それが低い水温での事故なのです。

 緊急通報をする通信手段も重要です。万が一の海中転落では手持ちの(防水)携帯電話で118番(海上保安庁)へ緊急通報を行って救助を求めてください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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