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宮城県丸森町に住民を水の事故から守る技術が大集結

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
転落防止ポストコーンの設置。右から来る車に危険を知らせる(筆者撮影)

 宮城県丸森町に住民を水の事故から守る技術が集結しました。新技術は何でも実績に乏しいことからなかなか導入が進まないものですが、それをある地域にまとめて展示して、住民や専門家などの意見を傾聴する試みです。

丸森町

 丸森町は宮城県の南端に位置し福島県と隣接しています。町の北部を阿武隈川が流れ、支流である内川と雉子尾川とともに流域一帯が平坦地となっています。

 先日発生した3月16日の福島県沖地震では震源地に近く、きわめて強い揺れに襲われました。その丸森町を訪れると、その被害にも増して令和元年台風19号で甚大な被害を受けた爪痕を目の当たりにします。

 図1は令和元年台風19号の時に降った雨の期間降水量分布図 を示します。丸森町では、赤色で示すようにきわめて強烈な594.5 mmの降水量があったことがわかります。

 この豪雨の影響は東北大学災害科学国際研究所 柴山明寛准教授の調査によると、犠牲者は、丸森地区で8名、筆甫(ひっぽ)地区で1名、耕野地区で1名の計10名でした。10名の犠牲者の内訳は、水害による犠牲者が5名、土砂災害による犠牲者が5名でした。河川被害としては、内川を中心に阿武隈川の支流等の計18箇所で河川堤防の決壊が発生しました。

図1 令和元年台風19号に伴って降った雨の期間降水量分布図 (令和元年 10 月 11 日午後3時~10 月 13 日午前9時) (丸森町資料より転載)
図1 令和元年台風19号に伴って降った雨の期間降水量分布図 (令和元年 10 月 11 日午後3時~10 月 13 日午前9時) (丸森町資料より転載)

水の事故から命を守る新技術の課題

 近年、激しさを増す豪雨災害。日本全国を見渡すと、洪水に伴う冠水などで、溺れて命を落とす住民が後を絶ちません。その一方で、こういった災害や日々の暮らしの中で発生する水の事故を防止するための技術も日進月歩で進んでいます。

 そういった動きの中で課題があります。それは、これまでとは一味異なった新技術の扱いです。新技術は実績が乏しいためなかなか社会実装に結びつきません。頭や実験では「事故防止に効果がありそうないいもの」とわかっていても、それを例えば税金を使って実績なしの状態で、いきなり現場に導入するわけにはいかないのです。

 水難学会では、このような新技術を社会実装につなげるために、自治体と共同で常設展示会のような形で技術実証ができないか模索してきました。その結果、大きな災害を経たことにより防災意識の特に高い丸森町と縁があって、コラボレーションすることになりました。

 丸森町のいくつかの場所に技術を展示して、住民や専門家などの意見を傾聴していきます。

具体の技術について

現場1 丸森大イチョウ付近(字銀杏地内)

 この現場では、むき出しになった用水路の安全対策工事を行いました。図2をご覧ください。施工前の写真では右手に空き地が見えます。令和元年台風19号の洪水災害に伴い、この空き地にあった建物が取り壊されました。本来は建物の陰になっていた用水路が、空き地になった後、むき出しになってしまいました。

図2 丸森町丸森大イチョウ付近の現場(水難学会提供)
図2 丸森町丸森大イチョウ付近の現場(水難学会提供)

 用水路ではよく見かける幅700 mm、深さ700 mm(いずれもおおよそ)の典型的なコンクリート溝です。

 まず中央の施工中の写真に示すように溝の壁面に金具を打ち込みました。その後、ここに転落防止用のネットを16 mの距離に渡り張りました。右の施工後の写真では手前から奥に向かって黒のネットが張られていることがわかります。その奥の方で人がネットの上に乗って、強度を確認している様子が見て取れます。

現場2 丸森小学校付近(字玉貫地内)

 この現場は、典型的な沢の脇の道路になります。かなり急峻な沢で、令和元年台風19号の豪雨の際にはここがあふれ、あふれた水が小学校を通り町役場に達しました。沢の水により削られた様子が、図3左の施工前の写真から見てわかります。

図3 丸森小学校付近の現場(水難学会提供)
図3 丸森小学校付近の現場(水難学会提供)

 写真奥にはガードレールが見えます。このガードレールはカーブミラーの向こうで途切れています。そしてガードレールのない施工予定の箇所には新しそうなコンクリートの表面が見えます。ここの沢の壁面には石が積まれていて、写真中央付近には石が転がり落ちている様子がわかります。おそらく豪雨に伴い石積みの壁面が壊されたのでしょう。

 この現場では反射シート付きのポストコーンを設置してみました。右が施工後の写真となります。ガードレールだと地面下1 mくらい掘って設置となるのですが、ポストコーンだとその必要がありません。

 ではなぜこの現場ではポストコーンの目印が必要かというと、カバー写真にそのヒントがあります。この現場では右から下り坂となって車道がT型に交わるようになっています。右から下ってきた車が夜道や凍結道路でこの沢の存在に気付くのが遅れると、当然ブレーキが遅れることになります。最悪の場合にはそのまま沢に突っ込んでしまうでしょう。そのため、目立つポストコーンを設置することによって沢への転落を未然に防ぐようにしました。

現場3 伊具高校付近(字雁歌地内)

図4 伊具高校付近の施工前の現場(筆者撮影)
図4 伊具高校付近の施工前の現場(筆者撮影)

 図4は宮城県伊具高校裏の道路の様子を示します。人が3人立っていますが、この足元には深さ1 m近い側溝があります。でも写真を撮影したところからはわからず、ぎりぎりまで近づかないと側溝に気が付きません。ここは高校生の通学路にもなっていますので、特に暗くなってからの転落事故の危険があります。

図5 伊具高校裏の道路の現場(水難学会提供)
図5 伊具高校裏の道路の現場(水難学会提供)

 図5の左に施工前の様子を側溝と共に示します。暗い時間に自転車で側溝脇を通る時に危険を知らせる目印がほしい所です。そこで中央の施工後の写真に示すようにポストコーンに続いてその奥に並べてあるように蓄光体を施工しました。

 右の写真は夜間に蓄光体が光っている様子を示します。この写真は中央の施工後写真の奥から手前に向かってカメラを向けて撮影しています。緑色の発光が写真の奥に向かって並んでいる様子がわかります。

 太陽からの光をエネルギーとして蓄えて、夜間には緑色などの決まった色の光を出すのが蓄光体です。図5右の製品は12時間後でも十分な視認性を確保できる10 mCd(ミリカンデラ)で発光します。最大の特徴は、水の中でも電源なしに十分な輝度で光り続けることです。

 筆者は、長年アルミネート系の蓄光材料の研究を行ってきています。蓄光材料の開発では輝度や長時間発光性能の向上も重要ですが、湿気に対して強いことが求められます。だいたいここで躓くのが蓄光材料の研究だとも言えます。そういったことからも、今回施工した蓄光体が雨風に負けずいつまでも光続け、高校生らの安全を見守ってくれることを願っています。

さいごに

 住民の皆様のご意見やご感想を聞きながら、水の事故から命を守ることを目標にこれらをさらに良い技術にしていきたいと思います。

 新しいアイデアを含んだ技術というのは、常に社会実装の手前で足踏みするものです。今回の丸森町とのコラボレーションがモデルとなり、新技術の社会実装が加速できる仕組みが各地に広がると嬉しく思います。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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