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アユ釣りの水難事故 9月は川の深みに注意したい

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
夏から秋にかけての味覚アユ(写真:アフロ)

 アユ釣りのシーズンです。美味しいアユの話題で盛り上がる中、その一方で毎日のように死亡事故のニュースを聞きます。水難事故のリスクを減らしてアユ釣りを堪能するために、9月は川の深みに注意しましょう。

 この3年間のアユ釣り中の事故に関するニュース記事の調査結果について、下方の参考欄に示します。釣り道具を追って流された、バランスを崩して流された、急病を起こしたようだ、いろいろな原因が記事中に散見されました。犠牲者は全て男性で、多くが高齢者です。

秋田県内ではアユ釣り中の水難事故が相次いでいて、死者は今シーズン4人目です。(TBSニュース 9/2(木) 13:51配信)

 これは、「アユ釣りに川に来ていた80歳の男性が川の浅瀬に倒れているのが見つかり死亡が確認された」というニュースの末尾のコメントです。9月に入って気候がよくなり、これからもアユ釣りの水難事故は続くことが予想されます。

アユ釣りの基礎知識

 アユ釣りをしたことがない読者がこのニュースを理解するための手助けとして、アユ釣りに関する基礎知識を少しだけ説明します。

 アユ釣りの格好は、ウェーダー(注1)を履いて、滑りにくい靴底で足元を固め、上半身にはベストを着ます。最近はベスト型の救命胴衣の着装が薦められています。

 この格好で川の中に入り、主に友釣りで「野鮎が縄張りをもつポイントにオトリを送り込み、アタックを仕掛けたアユに針がかかる」のを待ちます。

釣りポイントは水難事故の危険ポイントでもある

 図1をご覧ください。やはり川の水の流れの中に足を入れないと、よい釣りポイントは確保できそうもありません。

 アユの釣り人の皆さんなら、この川のどのあたりを釣りポイントに選ぶでしょうか。図1にて釣り人の位置を確認すると、写真中央付近に見られるような、水が少し白くなり流れが速くなっている瀬の部分は避けて、どちらかというと上流側の瀬の直前あたりに多くの釣り人が集まっています。

図1 清流の中でアユ釣りを楽しむ釣り人たち
図1 清流の中でアユ釣りを楽しむ釣り人たち写真:tamu1500/イメージマート

 水底の石についた付着藻類をエサとするアユだからこそ、釣りのポイントは新鮮な付着藻類が育つ流れの良いところで、狙いは水深でいうと人の太腿から胸くらいでしょうか。

 また、瀬の前後に川底が深くなっている淵があると釣りのポイントとしては最高の部類。図1の中で釣り人が多く集まっているポイントがきっとそれでしょう。瀬の中にも時々存在する深み「掘れ込み」などもポイントとして狙われます。

 これらのポイントに近づくために、入水せざるを得ないわけです。アユの釣り人にとって「急に深くなる川底は魅力的」なのですが、「急な深み」は一般的に川の水難事故のきっかけであることも知られています。ここが、アユ釣りの怖さでもあります。

川の深さの危険性

どれくらいの深さまで流されないか

 一般的な川底は丸みを帯びた石で足元がぐらついたり、付着藻類などによって滑りやすくなっていたりしています。

 ここで流速毎秒1 mの川で滑って転倒したとします。しりもちをつくことのできる程度の深さであれば、そうそう流されることはありません。その場で立ち上がることが容易です。ところがしりもちがつけないほどの深さだと、すぐに流され始めます。一度流されると立ちあがることは難しいですし、水中の岩につかまろうと思ってもつかまることができません。その様子は次の動画1で見ることができます。

動画1 流速毎秒1 m弱の川に流されてしまったら、岩などにつかまったり、自力で立ち上がったりすることは難しくなる(筆者撮影 1分35秒)

 しりもちをつくことのできる深さとは、一般的な家庭の浴槽を思い出してください。あのくらいの深さです。だいたい水深が膝の高さくらいになります。

 流れのあるところでは、大人の膝までがしりもちをついても安全に立ち上がれる深さであり、言ってみれば青信号です。膝から腰までは注意信号。場合によっては流されてしまいます。腰から上の深さは赤信号です。確実に流されますので、救助されるか、浅いところに流れ着くかするまでは上陸することができません。

急な深みの危険性

 動画2は過去に釣り人が溺れた現場で撮影されました。砂洲と呼ばれる、砂地の浅いところが続いています。そこを歩いていくと砂洲の先端で水深が急に深くなります。戻ろうと振り返った瞬間に戻れずに深みにはまりました。

動画2 事故が繰り返される白石川での溺水原因 。緑色は流れを可視化するための蛍光剤(筆者撮影 31秒)

 急な深みの怖いところは、このように深みに向かって歩いても何の危険も感じないのに、戻ろうと振り返った瞬間に溺れてしまうことです。詳細は、「川が「おいで、おいで」と手招きする だから水難事故は繰り返す その原因を専門家が解説」を参考にしてください。

 8月中に大雨に見舞われた地域では、増水によって川の深さの分布が変わっています。穏やかな9月の気候にだまされることなく、釣りのポイントを決める前に、いつもに比べて急な川の深みの位置が変わっていないか、慎重に見極めてください。

しりもちがつかなかったらどうすればよいか → 背浮き

 転倒してしりもちがつけないほどの水深であれば、背浮きになって流れます。背浮きとは背中を下にして仰向けの体位で水面に浮くことです。

 履いているウェーダーには空気が溜まっています。この浮力で足が沈まなくて済みます。息を深く吸い込み、肺に空気をためます。こうすることにより、ウェーダーの浮力と肺の浮力がバランスして、顔が水中に沈む心配はなくなります。呼吸する時には、できるだけ素早く行います。そして「助けてくれ」などと声は出しません。肺の空気が抜けて浮力のバランスが崩れる場合があります。

 もちろん、ウェーダーのベルトがしっかりしめてあることが前提です。さらに救命胴衣を着装していれば呼吸は楽になりますし、「助けてくれ」と声を出すことができます。ただし、立ち上がろうと思っても容易に立ち上がることはできません。ウェーダーの中の空気の浮力は強力ですから。

 そして、救助隊が来て救助されるか、浅い場所に流れ着いて自力で起き上がるか、それまでは流れ続けることになります。

周囲の釣り人はどうすればよいか → 119番通報

 流された釣り人を見かけたら、周囲の人は現場から携帯電話で迷わず119番に通報して救助隊を呼んでください。

 背浮きで救助を待つ人を見かけても、水の中を追いかけてはダメです。水の中では流された人にどうやっても追いつくことができません。そもそも自分のロッドを流されて追いかけて溺れる人がいるくらいです。流された人を追いかけてもダメなことはよくおわかりになると思います。

 流れが穏やかで時間的に余裕がある場合には、提灯ペットボトルで救助を試みます。釣り糸の先端を500 cc程度の空のペットボトルの中に入れてフタをしめてください。これで提灯ペットボトルの完成です。

 動画3をご覧ください。リール付きのロッドなので、アユ釣りのロッドとは異なりますが、原理は同じです。提灯ペットボトルを浮いている人に向かって投げます。浮いている人がうまくキャッチできたら、ゆっくりと釣り糸を引きながら岸に近づけます。そして膝下くらいの水深になったら立ち上がるように声をかけます。

動画3 釣り具を利用した救助法(筆者撮影 25秒)

さいごに

 自分の命を守るために、アユ釣り中にはぜひ救命胴衣を着装してください。呼吸が確保されている間は、生還のチャンスを待つことができます。

 海には、漁師を海の事故から守るためにライフジャケット着用推進員がいます。浜のかあちゃんがとうちゃんに、「あんたライフジャケットつけて仕事しなきゃダメだよ」と呼びかける役目です。

 この推進員は、アユ釣りでは自宅に残る家族の役割とも言えます。ぜひ「救命胴衣を着てアユ釣りを楽しんでね」と声がけしていただけばと思います。

注1 ウェーダーとは、胴長のこと。胸の高さ、腰の高さ、太腿の高さまで様々な深さでの浸水を防ぐ。水を通さない素材で作られており、多くは長靴が一体化している。入れる水深は、ウェーダーの丈の半分までとされている。

参考 2019年7月1日から2021年8月31日までに発生したアユ釣り中の水難事故の犠牲者の一覧。全て男性で、高齢者が多い。一覧の作成には新聞記事情報検索を利用した。全ての事故が新聞等に掲載されるわけではないし、アユ釣り中と記載されていない釣りの事故はここには含まれないことに注意。

2021年

8月31日 秋田県北秋田市 76歳 男性

8月30日 大分県日田市 68歳 男性

8月30日 福井県永平寺町 73歳 男性

8月29日 岐阜県白川町 60歳代 男性

8月28日 岐阜県郡上市 60歳 男性

8月28日 高知県安田町 55歳 男性

8月24日 秋田県鹿角町 65歳 男性

8月4日 奈良県天川村 78歳 男性

8月3日 新潟県村上市 82歳 男性

8月2日 神奈川県厚木市 78歳 男性

8月1日 山梨県上野原市 79歳 男性

7月30日 富山県富山市 64歳 男性

7月23日 秋田県鹿角市 74歳 男性

7月19日 愛知県新城市 70歳代 男性

2020年

9月30日 茨城県大子町 79歳 男性

9月23日 岐阜県本巣市 49歳 男性

9月16日 岐阜県郡上市 74歳 男性

8月25日 富山県砺波市 73歳 男性

8月22日 神奈川県厚木市 82歳 男性

8月16日 福井県福井市 68歳 男性

8月16日 福井県福井市 73歳 男性

8月16日 福井県永平寺町 79歳 男性

8月1日 栃木県那珂川町 56歳 男性

7月31日 高知県四万十市 64歳 男性

7月30日 新潟県南魚沼市 74歳 男性

7月19日 高知県高知市 80歳 男性

7月5日 山形県最上町 69歳 男性

2019年

9月27日 富山県富山市 75歳 男性

9月17日 岐阜県郡上市 66歳 男性

9月13日 高知県四万十市 73歳 男性

9月12日 福井県永平寺町 72歳 男性

9月11日 岐阜県飛騨市 67歳 男性

9月4日 栃木県大田原市 68歳 男性

8月29日 栃木県那珂川町 68歳 男性

8月27日 栃木県那珂川町 ? 男性

8月26日 山口県岩国市 53歳 男性

8月23日 大分県大分市 55歳 男性

8月17日 埼玉県寄居町 67歳 男性

8月14日 富山県砺波市 75歳 男性

8月11日 徳島県三好市 59歳 男性

8月10日 和歌山県白浜町 63歳 男性

8月6日 茨城県日立市 77歳 男性

8月5日 山梨県大月市 69歳 男性

8月5日 岐阜県下呂市 68歳 男性

8月1日 岐阜県郡上市 ? 男性

8月1日 広島県三次市 80歳 男性

7月30日 山梨県大月市 61歳 男性

7月25日 福井県永平寺町 72歳 男性

7月24日 富山県富山市 74歳 男性

7月21日 栃木県那須烏山市 56歳 男性

7月7日 宮城県気仙沼市 80歳 男性

7月2日 宮城県柴田町 71歳 男性

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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