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プールの水難事故は当たり前? 溺れる身長と水深、事故を防ぐためには

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
プールでは子供と一緒に遊びたい(写真:Fujifotos/アフロ)

 遊泳用プールでの水難事故の犠牲者の3分の1は子供です。溺れる場所では学校プールよりもレジャープールが目立ちます。溺れた箇所の水深は浅い場合もあれば深い場合もあります。一緒に遊ぶ時に保護者や監視者は何に気を付ければいいのでしょうか。

プールの水難事故の内訳

 警察庁の令和2年における水難の概況によれば、2016年から2020年までの5年間にプールで溺れて亡くなった人の数は全年齢で21人、中学生以下の子供で7人です。犠牲者の3分の1は子供であることがわかります。水難の全ての犠牲者のうち子供が占める割合はせいぜい3%から4%ですから、プールでの水難事故は子供にとって危険性が高いと言えます。

 プールを大別すると、学校プールとレジャープールとに分けられます。子供にとってそのプールに馴染みがあるのか、ないのか、この分け方がとても重要な意味を持ちます。

 学校プールならシーズン中に回数を重ねて入りますし、入水の仕方を先生からきちんと教わります。だから水の深さの感覚がしっかり身についています。一方、レジャープールでは初めて入場する場合が多く、子供にとって水の深さの感覚がないことが多いと考えてよいです。

 2016年から2020年までの5年間にプールで溺れた子供の数(総数16人)を分けると次の通りです。なお、これらはメディア記事検索をした結果に基づき、しかも一命をとりとめた人を含みます。

学校プール(保育園、幼稚園を含む) 5人

レジャープール(競技用を含む)   11人

 学校プールの内訳は、授業中が3人、プール開放中が2人です。一方、レジャープールの内訳は、遊園地等が7人、競技用などの公営が4人です。

監督者の役割

 遊泳する子供を監督する人(監督者)は、授業中なら教員、学校プール開放中なら保護者です。レジャープールなら子供と一緒に遊泳する保護者と場内の監視員が監督者となります。

 子供が安全にプールで遊泳できるよう、泳ぎや遊びを教えるために入水する者と陸上から監視する者が役割をもって監督しなければなりません。このバランスが重要なのです。

 でもしばしば、現場にいる教員全員がプールに入って指導することがあります。監視者不在の状態です。一方、プール開放時なら保護者が全員プールサイドで監視しているということもあります。プールに入る人が誰もいません。バランスが崩れた状態です。

 子供と一緒に入水する大人も必要だし、陸上で監視する大人も必要だし、このバランスのとり方がプール管理の基本なのですが、皆さんの学校ではいかがでしょうか。

 レジャープールでは、保護者が子供に付き添って一緒に遊び、それを陸上から監視する者がいて、初めて遊泳の安全が担保されます。逆に保護者が子供に付き添っていなかったり、「いればよい」監視員が全く監視業務教育を受けずに座っていたりすると、これが事故を誘発しかねません。

プールで事故が発生して当たり前ですか?

 プール開放シーズン前の保護者研修会によく講師で参加します。開口一番に聞く質問が「プールって事故が当然発生するものだと思う方、手を挙げてください」です。ほぼ参加者全員が手を挙げます。「当然発生する事故ですから、皆さんのお子さんが溺れても文句はないですね」と切り返すと「それは違う!」の大合唱となります。

 プールでは水難事故が発生してはいけないのです。でも「水難事故を防ぐことができるのか」迷いがあるために、保護者の皆さんはついつい「当然発生する」に一票を投じてしまうのです。ところがわが子が溺れたら、「絶対におかしい」と思うことでしょう。「おかしい」と思っても何がおかしいのかどうしてもわかりません。だから前述のようなやり取りになってしまいます。

プールの事故の具体例

 プールでの水難事故は、そのほとんどが入場・入水直後に発生します。

 「走り飛込みしたら深かった。」「スタート飛込みしたら浅くて頭を打った。」その人の身長と水深の相対で事故が起こるため、安全な水深など、ほんとうは存在しません。

 次に例を示します。メディア検索で得られた2016年から2020年までの5年間にプールで溺れた子供の年齢・性別と溺れた箇所の深さの一覧です。★マークは身長に比べて、背が立たなかったと考えられる水深につけました。

 1歳男児 水深50 cm★

 3歳男児 水深100 cm★

 4歳女児 水深70-95 cm★?

 4歳男児 水深100 cm★

 4歳男児 水深120 cm★

 4歳男児 水深130-150 cm★

 5歳女児 水深 63 cm

 5歳女児 水深100 cm★

 6歳女児 水深120 cm★

 6歳女児 水深130 cm★

 6歳男児 水深145 cm★

 7歳男児 水深80 cm

 8歳男児 水深60 cm

 8歳男児 水深80 cm

 8歳女児 水深150 cm★

 8歳女児 水深200 cm★

 このように一覧で見ると、事故にあうのは子供と言っても8歳までです。小学3年までです。そして明らかに背が立たないプールに入水した事故と「背が立つのでは?」と思われるプールで発生した事故とに分けられることがわかります。

深いプールでの事故

 背が立たないプールで溺れる時は、一般的に走り飛込みなどでプールの深さを確認していなかった場合です。しかもそういう時に限って保護者が近くにいません。なぜかというと、更衣室で保護者が小さな子供の世話をして時間がかかっている間に、少し大きな子供が「先に行っているね」と言い残し、更衣室を飛び出すからです。初めて入ったレジャープールによくみられる事故です。

 更衣室の出入り口すぐのプールが危ないのです。「入水直後に水難事故が発生する。」このことをよくわかっているプールでは、更衣室の出口に最も近い箇所に監視タワーを設置し、そこに最も信頼のおける監視員を配置します。そして子供のプールへの走り飛込みを未然に防いでくれます。

図1 更衣室の出入り口(本文とは関係ありません、筆者撮影)
図1 更衣室の出入り口(本文とは関係ありません、筆者撮影)

 では、なぜ深いのに飛び込んでしまうのでしょうか。それは「プールは深い」という常識が8歳くらいまでの子供には薄いからです。子供にとって初めて行くプールも幼稚園のプールも同じです。「プールって浅い」と思い込んでいます。そして、見た目も浅いのです。

 見た目も浅い。これは光の屈折による錯覚が原因です。図2の左側は大人の目線で見た時のプールの見え方です。一方、右側は5歳児くらいの目線で見た時のプールの見え方です。明らかに子供の目線の方が奥の方でプールの底が浮き上がっているように見えます。

図2 プールの錯覚例。左:大人の目線、右:子供の目線(筆者撮影)
図2 プールの錯覚例。左:大人の目線、右:子供の目線(筆者撮影)

 動画1でも錯覚を確認することができます。まず、大人の目線で潜水している人を見てみましょう。続いて、徐々に目線を低くして子供の目線まで落としてみました。確かに潜水している人が浮いてきているような気がします。最後に、潜水している人が自力で浮上しました。でも、ほとんど垂直方向に動かずに浮上しているように見えます。これでも水深1.1 mの水底から浮き出てきているのです。「人の動きそのものからも深さを感じない。」これがプールの錯覚です。

動画1 プールの錯覚例(筆者撮影、17秒)

 プールサイドには、一緒に遊泳すべき保護者が子供とともに出る。絶対に守りたいことです。

浅いプールでの水難

 身長に比較して水深が浅く、背が立つようなプールでは何が起こって溺れることになったのでしょうか。このような水難が起こる際には、現場に共通した特徴があります。それは、同じような背丈の子供たちが一緒に入って水泳の練習をしていたり、遊んでいたりしていることです。

 どのようなプロセスを経て溺れることになったのか、原因については、事情があって不特定多数に公開できません。ここでは記述を割愛します。ご希望があれば、保育園・幼稚園・学校の教育関係者のみにきちんとした形で対面形式で別の機会にお話しします。

 原因がよくわからなくても、水深が浅く、背が立つようなプールでの溺水は防ぐことができます。それは、「監督を常時途切れることなく行うこと」です。たくさんの子供たちがプールの中で遊んでいる時に、トイレに一人の子供を連れていくために、監督者がプールの中の子供たちから離れてはダメです。また、プール終了の片づけをするために、プールの中の子供たちを放って残しておいてはいけません。

 自宅のビニールプールで子供を遊ばせるときにも、子供たちのそばを絶対に離れてはいけません。「お兄ちゃんが一緒に遊んでいるから大丈夫」はもってのほかです。プールの中にいる子供が複数になるほど、「こんな浅いプールでなぜ溺れるの?」という水難に発展します。

まとめ 

 遊泳用プールでの水難事故を起こさないようにするために、保護者は「子供と一緒に水の中で遊ぶ」ことを、監視者は「監視の時間的隙間を作らない」ことを徹底してください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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