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豪雨災害、警報発令前に準備を わたしたちができること

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
避難時のまさかに緊急浮き具の作り方と使い方(画像制作:Yahoo!JAPAN)

 大雨・洪水注意報(警戒レベル2)から警戒レベル3の高齢者等避難、あるいは警戒レベル4の避難指示が出される前に準備するもの、そして避難途中で溺れないようにわたしたちができることは何でしょうか。

警戒レベル2から警戒レベル3

 前線の活動が活発化し、大雨・洪水注意報が発令されたら、すぐに大雨・洪水警報が発令されてもいいように、準備します。特に夜半から明け方にかけて雨がひどくなることがあります。これまでの梅雨の豪雨災害では、就寝中に目を覚まして、すぐに避難を始めなければならないこともありました。

就寝前に準備したいこと

 できれば自宅の2階以上で就寝します。高齢者が同居しているようであれば、高齢者の足腰の状況はどうか考えておきます。歩いて避難が難しいのであれば、警戒レベル3が出されることを考えて、自家用車を使って避難所に移動する準備をしておきます。

 避難所がすぐ近くにあって徒歩で避難するにしても、高齢者も含めてみんなが傘よりはしっかりとした雨合羽をすぐに着られるようにしておきます。

 高齢者向けには、雨に濡れた時のための十分な着替えや体の水分を拭き取るタオルをしっかり準備し、それらを大きめのポリ袋に入れて、ポリ袋ごとリュックサックに詰めておきます。常に大雨の中で避難することを前提にします。冷たい雨で体が濡れると、特に明け方の冷えで避難所にて急速に体力が奪われます。

就寝中

 スマートホンやラジオなどで警戒レベル3に上がったことを知らせる情報を常に聞ける状態にしておきます。避難に必要なリュックサック、避難袋や着替えは枕元に置いておきます。停電に備えて懐中電灯も枕元に置いておきましょう。

 警戒レベル3が発令されたら、余裕をもって高齢者の避難ができるように行動を開始します。この段階では自家用車を使った避難も可能です。ただし、地域によっては避難所の開所が間に合わず、外で待たなければいけない状況もあり得ます。自家用車内で待機することもあり得ます。その場合は、河川から十分に高い場所を待機場所に選びます。

警戒レベル4

 皆が避難行動に移るので、自家用車を使った避難が難しくなります。徒歩避難を選ぶことになります。

持ち物

 避難中にいつ水に襲われるかわからないので、溺水から命を守るために緊急浮き具を携行してください。

 準備するのは厚手の着替えやタオルです。これらを図1(a)に示すようにポリ袋に空気とともに入れてしっかり口をふさぎ、(b)のようにリュックサックに詰めておきます。もちろん、時間に余裕をもってあらかじめ準備してください。避難時にこれをもっていけば、途中の道路で冠水が始まっても、緊急の浮き具になります。 

 さらに、図1(c)の左のようにダウンジャケットのような厚手の上着も、着るために準備しておきます。避難時に着用していれば、いきなり冠水が始まっても、ライフジャケットのように体を水に浮かせてくれます。

図1 大雨に備えて準備しておきたい浮き具。(a) 衣類・タオルをポリ袋に詰める (b) ポリ袋の口をふさいでリュックの中へ (c) 厚手の上着も一緒に、常に手元に準備しておく。(筆者撮影)
図1 大雨に備えて準備しておきたい浮き具。(a) 衣類・タオルをポリ袋に詰める (b) ポリ袋の口をふさいでリュックの中へ (c) 厚手の上着も一緒に、常に手元に準備しておく。(筆者撮影)

歩き方

 避難路には冠水していない道路を選び歩きます。すでに家の周辺が冠水していたら警戒レベル5の緊急安全確保にうつります。自宅や周辺の頑丈な建物の2階以上に垂直に避難します。

 歩き方です。緊急浮き具のリュックサックと避難袋があればそれを体の前後に担ぎます。そして長くて軽い棒を持ちます。杖でも構いません。万が一、足元が冠水してきたらその棒を使って前方の深さを確認しながら歩きます。

 歩いている時に流れが激しくなったら、歩行をやめて近くの少しでも浅い場所に移動します。図2をご覧ください。流れと深さと歩けるかどうかの関係です。

図2 流れの中で歩くことができるか?膝上で危険(画像制作:Yahoo!JAPAN)
図2 流れの中で歩くことができるか?膝上で危険(画像制作:Yahoo!JAPAN)

 大人でも子供でも、膝下までの深さであれば、流れがあっても歩くことができます。歩ける深さは大人だったら40 cmくらいまでで、子供だとそれよりずっと浅くなります。

 水の深さが腰下までくると、流れにのって体が流されてしまいます。そのため、膝下くらいの深さのうちに近くの浅い場所に移動しなければなりません。冠水していない場所まで行くことができれば、目指した避難所にこだわることなくそれ以上の避難は諦めて、垂直避難を選びます。

 坂道ではちょっとした水深でも流されます。ましてや、流れる方向に歩き始めると(坂を下ると)足元がすくわれてしりもちをつき、座った状態でウオータースライダーのように下流に流されます。

 万が一、足のつかない深いところに入り込んだり、流されたりしたら、カバーイラストのように緊急浮き具を使って浮いて救助を待ちます。救命胴衣を予め着ていれば、なお良しです。

突然の市中冠水に注意

 いきなりの冠水の時。そういう時は河川の堤防が決壊などして、川の水が市街地に流れ出す時です。あるいは雨水路などを逆流して河川の水が押し寄せる時、マンホールなどから急に水が噴き出してきて、いっきに道路冠水が進みます。

 決壊する箇所や時間またはどこのマンホールから水があふれるかなど、誰にもわかりません。危なそうな箇所には水防作業のため、人が多く集まります。でもそこが決壊するとは限らないのです。

 決壊箇所付近で秒速5 mくらいの流れだとすれば、決壊箇所から離れていても市中で秒速1 mから2 mくらいの流れが襲来します。そうすると決壊箇所から1 kmくらい離れた場所で早くて500秒すなわち10分以内には水がやってくる計算です。大津波のように市街地が水に襲われると想定してください。警戒レベル4でも避難途中の冠水に最大限の注意を払わなければならない理由はここにあります。

まとめ

 高齢者が同居している場合には、警戒レベル3で余裕をもって避難を始めます。そうすれば可能な限り自家用車を使用できます。警戒レベル4では皆が避難行動に入るので、自家用車では動きが取れなくなる可能性があります。徒歩避難を選択することになります。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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