濁流ニモマケズ 日本一の大河を氾濫から守る改修事業

濁流の中敢行される大河津分水路第二床固改築工事(筆者撮影)

 なか2シーズンを空けての大雪となった新潟。すでに雪解けが進み大量の水が濁流となって信濃川を駆け下りています。その雪解け濁流に負けずに敢行されている、日本一の大河の河口改修事業を見学しました。

越後山脈の雪解け

 今シーズンは、なか2シーズンを空けての大雪でした。特に12月中旬から1月中旬にかけては、さすがの雪国の人でも「つらい」と口にするほどの豪雪を経験しました。

 図1は新潟県湯沢町にある越後中里駅の上流にあたる魚野川の様子です。中央には横方向に延びるJR上越線の下り線、越後湯沢駅方面に向かう橋梁が見えています。その後方に連なって見えるのが越後山脈です。群馬県の水上駅からの普通列車に乗車すると、越後山脈の下を通る新清水トンネルを抜けて新潟県に入り、そして土樽駅を通過して、この橋梁を渡ることになります。

 今年は豪雪だったところに、このところ温暖な日々が続いたために、相当な速さで雪解けが進んでいます。山肌も河原も最深3 m以上の雪に埋もれて真っ白だったのが、この3週間ほどで積雪が数十cm程度となり、ご覧の通り地肌がむき出し、風景はいつもより早い春を迎えています。

 1 mの積雪が20 cmの水深に当たるとすれば、3 mの積雪は60 cmの水深と一緒です。越後山脈の面積は琵琶湖と肩を並べるほど広いですから、越後山脈の雪解けは琵琶湖の水位が60 cmいっきに減るほどのインパクトがあります。今年のように異様なスピードで雪解けが進むと、魚野川・信濃川の流域にあたる越後平野に大洪水が発生するのではないかと妄想したくなります。

図1 JR上越線越後中里駅付近の魚野川の3月末の様子(筆者撮影)
図1 JR上越線越後中里駅付近の魚野川の3月末の様子(筆者撮影)

河口ではインパクトがある雪解け水

 実際に筆者が住む越後平野では雪解けによって洪水になることはありませんでした。しかしながら、信濃川をさらに下り、新潟県燕市から分岐する大河津分水路では、雪解け水がかなりインパクトのある水量になって流れていました。

 図2は、大河津分水路の河口に架かる野積橋から上流200 mほどにある第二床固(だいにとこがため)付近の水の流れの様子です。水路の流れが左から右に向かって相当な量となっていることがわかります。でもわかるとはいっても、読者の皆さんにはそのスケール感がピンと来なくて、写真だけでは実感が伴わないのではないでしょうか。

図2 大河津分水路の河口付近にある第二床固付近の4月初めの水量の様子(筆者撮影)
図2 大河津分水路の河口付近にある第二床固付近の4月初めの水量の様子(筆者撮影)

 床固とは、河床を安定させるために河川を横断して設ける低いダム状の工作物のことです。床固によって川の水面の勾配を緩やかにすることで、自然の力で掘られてしまう河床を下げない役目を果します。

 図3は渇水期の第二床固の様子です。秋サケの漁のシーズンに撮影しました。サケを捕獲するために、人々が投網をしている様子が写っています。写真の中央を横切るように白く写っている水の流れが床固本体の落差の部分です。高低差が4 mあります。川の中にて漁をしている人と比べるとかなりの高さが実感できると思います。図2で言えば、左側の白濁が見えていない部分に相当します。

 図3にて、床固の下流にあって、尖がっている構造物がバッフルピアと呼ばれる減勢工です。これは床固を下った水の勢いを弱めます。このバッフルピアの高さでさえ漁をしている人の背丈を優に超えています。図2では、左側の白濁が始まっている所にバッフルピアが隠れています。この様子と実際のバッフルピアを比較するだけで、図2の様子は相当な水量であることが実感できるのではないでしょうか。

図3 渇水期の第二床固。秋サケ漁をおこなっている人たちの背丈からもその大きさが実感できる(筆者撮影)
図3 渇水期の第二床固。秋サケ漁をおこなっている人たちの背丈からもその大きさが実感できる(筆者撮影)

 図4は平成16年7月新潟・福島豪雨の時に撮影した第二床固の濁流の様子です。流石に集中豪雨ともなると、それなりの勢いで雨水が海に向かって流されていきます。バッフルピアのある場所で濁流が盛り上がっているのがわかるでしょうか。その上流側の水面の高さは、図2のそれよりも数m上にあります。今回の雪解け水ではここまでの濁流にはならなかったものの、それなりの水量であり、インパクトを感じました。

図4 平成16年7月新潟・福島豪雨の際の雨水が集中した第二床固(筆者撮影)
図4 平成16年7月新潟・福島豪雨の際の雨水が集中した第二床固(筆者撮影)

濁流の中敢行されている河口改修工事

 この濁流の中で行われている工事があります。大河津分水路「令和の大改修」事業です。平成27年から始まり、完了は令和14年の予定の国の大工事です。

 主に第二床固改築、山地部掘削、野積橋架替からなります。このうち、第二床固改築工事と山地部掘削の工事に関しては図5の写真に写っています。写真手前で重機が集まっている箇所が第二床固改築工区です。写真右上では山が削られている様子がわかりますが、ここが掘削工事を行っている工区です。

図5 下流の野積橋から見た工事現場の様子(筆者撮影)
図5 下流の野積橋から見た工事現場の様子(筆者撮影)

 図5の写真中央に茶色の縦じまが見て取れるかと思います。これは巨大な中空パイプ(鋼管矢板)が立てられた状態で、横方向につながれている様子です。この鋼管矢板の列が巨大な壁を作り、上流からきた濁流をせき止めて、そして写真の右方向へ流れを逃がしていきます。

 鋼管矢板の列の内側、つまり図5の写真では中央付近のクレーン車があるあたりの下、ここで新しい床固を作る工事を行っています。この工区で鋼殻(こうかく)ケーソンと呼ばれる高さ11.5 mの大きな鋼鉄の箱を川に沈めてます。遠く九州や四国で製作したケーソンを海上輸送し、ここで据付作業を行っています。現在までに3個が据え付けされ、今後更に6個が据え付けられます。しっかりした箱に囲まれた中の作業とは言え、濁流の中の作業は危険と隣り合わせ。作業に従事する皆様に心から敬意を払いたいと思います。

 なぜ第二床固の改築が必要になるかというと、図6に示すように大河津分水路の河口付近の川幅を拡張するからです。写真では水路の幅方向の上側を100 m削ります。これが図5に写っていた山地部掘削工事の結果となります。このように水路幅が拡張されれば、豪雨による濁流の水位を下げて、これまで以上に海に送ることができます。長野県内の洪水対策と合わせれば、千曲川・信濃川流域全体の洪水のリスクを減らすことができます。ただ、そのためには川の底がしっかりしていないと水路そのものが濁流で掘られてしまいます。それを防ぐ役割をもつのが、新しい床固ということです。

図6 工事の完成予想模型。工事現場付近にあるにとこみえ~る館に展示されている(筆者撮影)
図6 工事の完成予想模型。工事現場付近にあるにとこみえ~る館に展示されている(筆者撮影)

まとめ

 千曲川・信濃川流域の洪水軽減を目指すとは言え、完成は令和14年。完成までの間に被害をもたらすような豪雨災害がないことを祈りつつ、そしてこの大河津分水路河口で作業する皆様にも危険が及ぶことがないように願っております。

 コロナ禍が収まったら、ぜひ読者の皆様にもその目でご覧いただきたい大工事でもあります。