鵜呑み社会の盲点 ライフジャケットの浮力は大丈夫か?

常時入水着用に変わってきたライフジャケットの用途(筆者撮影)

 「自社では検査を行っていなかった。」“「24時間以上浮く」ライフジャケット 20秒で沈む ネットで販売 都が注意喚起”(FNNニュース12/19(木) 0:59配信)、などとしてリリースされた一連の報道は、鵜呑み社会(注1)の盲点をついています。 

 冒頭の言葉は、このライフジャケットを販売した業者が発したようです。実態はそうかもしれません。しかしながら、記事中に表記されている特定国が問題ではありません。人の言うことを鵜呑みにしてしまった点が問題です。救命胴衣の型式承認と同等の浮力があるように、鵜呑みのまま取扱説明書に記載し、それを消費者が鵜呑みのまま信じて使うという構図が顕在化したのです。

 さて、ライフジャケットの問題は、一般にも普及が進むにつれて、さらに大きなことを孕みつつあるのです。鵜呑みを続けていると、そのうち逆に水に呑まれかねません。

【参考】ライフジャケットは、十分な性能、正しい着用方法、想定される使用方法であなたの命を守ります

利用目的が変わってきている

 本来ライフジャケットは、船舶から万が一落水した時に身を守る救命具でした。それが近年では、入水して遊ぶ時に常時着用する救命具としても期待されています。一言で言えば、利用目的が違ってきているのです。

 万が一の時に利用するのであれば、ライフジャケットは常時乾燥状態に置かれていること、直射日光が当たらないことが想定されます。ところが常時入水着用ともなると、それが常に濡れている状態に置かれ、直射日光にさらされることになります。

 ライフジャケットの素材は、樹脂などの化成品からなります。すなわち、化成品一般で言えば、水に弱いもの、透過させるもの、日光に含まれる紫外線に弱いもの、高温に弱いものがあるのは当たりまえで、程度の大小はあるにしても、経年変化は避けられません。

 万が一の時に利用するのと、常時入水着用とでは、素材選択の前提や製品の寿命に対する考え方が大きく異なることになります。

ここにも鵜呑みが

 「運輸省小型船舶安全規則に定める小児用5 kg/24時間以上の性能を備えています」と取扱説明書に表記した点が、今回の問題となっています。正確には、小型船舶用救命胴衣の型式承認、「いわゆる桜マークの基準に沿った」製品だと(確認せずに)言いたかったのでしょう。

 図1に示す桜マーク。型式承認試験及び検定への合格の印。想定しているのは、船舶から万が一落水した時に利用する救命具としての利用です。ところが近年、ライフジャケットがレジャー用途に急拡大していて、「桜マークはボート用」とか「水遊びには桜マークはいらない」とか、いろいろな解釈が広まり、その結果、今回のような製品が出回っても、だれもその危険性に気が付かずに月日が経つような状況になりました。

図1 桜マークの例。丸印で示している。(筆者撮影)
図1 桜マークの例。丸印で示している。(筆者撮影)

 果たして、桜マークは常時入水着用のレジャーを想定しているのでしょうか。答えは、想定していません。実は、基準の改定が利用用途の急拡大に追い付いていなくて、社会としては、とりあえず桜マークなどの基準を鵜呑みにせざるを得ないのが現状です。

 平成27年に日本小型船舶検査機構から「レジャーで使用する個人用の浮力補助具に関する業界の性能基準策定支援事業に関する調査研究報告書」が発行されて、レジャー用には桜マークに変わる性能の鑑定が必要だということになりました。そして、平成28年から性能鑑定を受けたレジャー用ライフジャケットの出荷が開始されました。これは、国内で製造販売されている製品を中心にCSマークとして見ることができます。

 だいぶ実態に近づいたとは言え、CSマークも常時入水着用を主たる目的にしているわけではありません。今後研究開発が進めば、常時入水着用を主たる目的にした基準が新たに策定されるかもしれません。

ライフジャケットは劣化するのか

 常時入水着用で心配になるのは、常に水に浸かり、直射日光が当たる使用条件で、半永久に性能を維持できるのかどうか、です。こんなこと、現在販売されているライフジャケットすべてにおいて、誰も知りません。

 インターネット検索では、日本船舶品質管理平成6年度の報告書が見つかり、それによれば、水に入ることなく陸上作業で常時着装していても浮力などの性能の経年劣化はあるとしています。

 また日本小型船舶検査機構が平成21年度に公開した調査研究報告書では、膨脹式(注2)に限っていますが、経年劣化はあること、日光があたる場所に保管した場合、救命胴衣の劣化が速いことを明らかにしています。

 一般的には、時間が経つにつれ見た目でボロボロになっていくので、その点では劣化すると認識されている程度です。材料工学の観点からすると、ライフジャケット内部の樹脂浮力体の性能劣化に関しては数値化して注目してほしいところです。

ライフジャケットの浮力は常に一定か

 ライフジャケットの浮力性能は、鉄片を淡水中で吊るして24時間沈まないことで確認します。子供用ライフジャケットの浮力性能試験をする時の鉄片の重さは次の通りです。

 子供の体重      鉄片の重さ

 40 kg以上       7.5 kg

 15 kg以上40 kg未満    5 kg

 15 kg未満         4 kg 

 これらは、あくまでも落水して浮いて救助を待つための救命具としての一つの基準となる性能です。(注3)

 実際に使用すると経年劣化で浮力が落ちたり、乾燥状態でゆっくり沈めた時と、水中で激しくふったりした直後とで、浮力が大きく変わったりするのも事実です。製造されてからの時間や使用状況も考えて、常時入水着用を想定した時にも桜マーク等をそのまま基準にしてよいのか、社会として考えなければならない時期に来ています。浮力をきちんと数値化して、経年変化や使用状況に応じた浮力を数字で比較できるようにしなければなりません。

 数字だけを鵜呑みして誤解することもあります。例えば輸入品を自社で検査するにしても、桜マークの基準に記載の「鉄片」とは異なる他の素材を代用してはダメです。「同じ重さだったらなんでもいいじゃないか」と言っても、素材によって水中での浮力が異なりますから、仮に同じ重さのアルミニウムを吊るしたら、もっと浮力の少ないライフジャケットでも合格となってしまいます。

まとめとしての提言

 用途が急拡大した今、東京都がネット通販などで販売されている子ども用ライフジャケットの品質を鵜呑みにせずに調査したら、冒頭のような結果が出てしまい、社会がびっくりしました。

 わかりやすさでは「鉄片を吊るす」でよろしいのですが、常時入水着用に拡大する中、ライフジャケットの浮力性能評価は直接的かつ連続的な数値測定法に舵をきる必要があります。そして、より精度の高い浮力データ等でしっかりと規定し、万が一の落水利用を想定した製品か、常時入水着用を想定した製品か、輸入品を含めて、消費者が安心して選び、使用できるような社会にしなければなりません。

注1 言われたままの性能を確認せず製品を販売し、消費者も性能を疑うことなく購入する社会。筆者はこれを本稿にて「鵜呑み社会」と呼びます。

注2 落水時にガスで浮力体が膨らむライフジャケット。素材の力で浮く一般的なライフジャケットは固型式です。

注3 人間の体の密度は真水とほぼ同じなので、5 kgの浮力があれば子供の顔面・頭部を水面上に出すことができます。逆に0 kgの浮力で浮くか沈むかの境界となります。なので、1 kgの浮力の違いは人命をも脅かす違いになります。