溺死の多い国、日本 水難学に関する国際会議で何がわかったか

水難学に関する国際会議にてアサンカ氏(スリランカ)による講演の様子(筆者撮影)

 わが国は、世界の中でも群を抜いて溺死が多い国です。実際に、世界保健機構(WHO)が2014年に発行した溺水に関する報告書によれば、2011年の1年間に8,999人が溺水で命を落としました。この数字はロシアの年間溺死者数である11,981人(2010年)に次ぎます。

 溺水はある一定の確率で発生しますので、人口の多い先進国で溺死者数が多くなります。従ってわが国の溺死者数もそれなりに多くなりますが、わが国特有の理由もあります。一方、新興国には人口の割にWHOの溺水に関する報告書に現れてこない溺死者数があるようです。有体に言えば、実態とかけ離れている国があります。それぞれ特有の問題を抱えているようで、各国毎に実情を聞いてみなければ真実はわかりません。各国特有の問題は、溺死を撲滅するうえでの大きな障害となっています。

 11月21日から24日にかけて、マレーシアのコタキナバルにおいて、東南アジア5か国と日本が一堂に会した「水難学に関する国際会議」が開催されました。図1にコタキナバルと参加各国の位置関係を地図上に示します。この会議に各国から保健省職員や防災関係者が集まり、溺水に関する各国の現状とその対策について報告しあい、それに基づいて統計上の問題点と目指すべき点について意見が交わされました。

図1 水難学に関する国際会議参加国(楕円)とコナキタバル(赤丸)の位置関係(YAHOO!地図を改変して筆者作成)
図1 水難学に関する国際会議参加国(楕円)とコナキタバル(赤丸)の位置関係(YAHOO!地図を改変して筆者作成)

わが国の現状

 WHOの溺水に関する報告書では、IDC10分類(参考参照)のW65-W74不慮の溺死及び溺水による溺死者に分類された溺死者数を各国毎に比較しています。わが国では、そのもとになるデータが厚生労働省が報告している人口動態統計として公表されています。2017年におけるわが国のW65-W74の溺死者数は総数で8,163人でした。内訳は次の通りです。数字は死者数を示します。

 

  • W65 浴槽内での溺死及び溺水 6052
  • W66 浴槽への転落による溺死及び溺水 39
  • W67 水泳プール内での溺死及び溺水 3
  • W68 水泳プールへの転落による溺死及び溺水 0
  • W69 自然の水域内での溺死及び溺水 676
  • W70 自然の水域への転落による溺死及び溺水 159
  • W73 その他の明示された溺死及び溺水 371
  • W74 詳細不明の溺死及び溺水 863

 水難学に関する国際会議にて東南アジア各国から報告のあったデータには、以下の項目が含まれている恐れがあります。そのため、わが国の死者数を参考に記します。

  • V90 溺死又は溺水を生じた船舶事故 23
  • V92 船舶事故を伴わない,水上交通機関の関係した溺死及び溺水 46
  • X34.1 津波による受傷者 0
  • X38 洪水による受傷者 0
  • X71 溺死及び溺水による故意の自傷及び自殺 560

 W65とW66によれば、わが国では、多くの溺水が浴槽で発生していることがわかります。ここには浴槽にて溺水を伴わず急病で死亡した事故は含まれていません。これがわが国特有の問題になります。

 W67とW68によれば、昨今、監視体制が行き届いている水泳プールでの溺死はごくわずかです。W69とW70の部分が警察庁の水難の概況に現れてくる部分です。点検作業中に液体タンクに落ちるなどするW73や溺死に至る詳細が不明な溺水W74は、自然水域での溺死者数に比べて、実は相当な数になることもわかります。

 船舶の絡んだ溺水であるV90やV92も小型漁船を中心に発生しています。現場はどちらかというと、港内です。W65-W74あるいはV90やV92は毎年同じくらいの数で推移する一方、自然災害であるX34.1津波やX38洪水により命を落とす人は、年によって大きく変動します。例えば2011年の東日本大震災や今年の台風による洪水による被災者により、ここの部分の数字が大きくなります。溺水死が年によっては大きな社会問題になるのはそのためです。

各国の現状

 今回の会議では、2017年の各国のデータを持ち寄りました。その結果、まず、データの内容が統一されておらず、各国の比較は単純にできないことがわかりました。

 比較的しっかりと統計がとられているタイでは、W65-W74に分類された溺死者数は4,000人ほど(2017年)です。自然水域での溺死がほとんどを占めます。そして全体の溺死者のうち、14歳までの子供の占める割合はおおよそ1/3です。男女比率は男性3に対して女性がほぼ1です。

 フィリピンでは、2013年のデータまでしかそろっておらず、溺死者はおおよそ3,200人。自然災害による溺死は除いてあり、自然水域での溺死がほとんどを締めます。タイでも、フィリピンでも特徴としては、14歳までの子供と、15歳から65歳までの大人がほとんどを占めて、前者と後者の人数は半々であることです。いずれも子供の溺水がたいへん多く、そして男性の占める割合が高いです。

 マレーシアとインドネシアのデータは、2014年のWHOの溺水に関する報告書には掲載されておらず、今回の会議で初めて実情がわかりました。

 マレーシアでは、2017年に300人強の人が溺死して、事故発生場所では川が半分を占めます。ただ、このデータはマレーシア消防救助局の報告によるもので、WHOの勧告による分類データになっておらず、早急に入手するよう要請しました。ただ、わが国のようにインターネットで簡単に入手できないようです。

 インドネシアでは、国家捜索救助庁が溺水に関する統計をとっています。そのため大規模海難事故など、救援に出動した事案に関する数しか得ていません。2017年には、船の事故による死者・行方不明者が約400人、災害による死者・行方不明者が約300人、その他の溺水による死者・行方不明者が約760人でした。

 スリランカでは、近年になり病院と警察が協力し、それぞれのデータを突合しています。それまではそれぞれが持つデータに大きな乖離がありました。年間の溺死者数は670人ほどで、男性が多く、海で亡くなる人が一番多いのです。井戸に落ちて亡くなる人が年間100人ほどで、スリランカでは特有の問題となっています。

参加国の特徴

 わが国では、浴槽で高齢者が亡くなる溺水が圧倒的に多く、14歳までの子供の溺死者数は65人(2017年)で、全体の溺死者数の1%未満となります。また、浴槽の溺水で亡くなる人の男女比がほぼ1対1なので、わが国の溺死全体でも男女比率はほぼ同じになります。14歳までの子供の犠牲者が少ないこと、男女比がほぼ1対1であること、この2点が東南アジア各国とは大きく異なるところです。

 東南アジアの参加国には、たくさんの島々からなる国が多く、溺水で亡くなる人のすべてを把握するのは難しいという発言がありました。インドネシアでは、それに加えて2億7000万人もの人口を抱えており、しばらくは実態が把握できそうにありません。

 スリランカでは、溺れたことを警察や病院に届けなければ、数字として統計に上がることがなく、実態としてその数はまだ多いと想定されています。常夏のスリランカでも入浴中の溺水は頻発しています。気温が28℃くらいになると子供が寒がるため、そういう日はバスタブにお湯を張って子供を入浴させます。親が目を離したすきにバスタブの底で足を滑らせ、浴槽の中で溺れる事故が頻発しています。また、事故か自殺もわからない溺死がこの統計に入っているので、さらに複雑化しています。

 各国とも、津波や洪水などの大規模災害が発生すれば、それによる犠牲者の数が多くなります。ただ、わが国と同様に毎年発生するわけではありません。そしてそれらは、時によってはW65-W74不慮の溺死及び溺水による溺死者を大きく超えることがあります。

まとめ

 わが国特有の浴槽での溺死。そして東南アジアにおいて頻発する子供の溺死。さらにその実態をまだ把握できていない実情。各国の実態に合わせてどのような対策をしたらよいのか。対策の一つとして、一人ひとりが自分で命を守る行動を習う必要があるようです。水難学に関する国際会議では、その方策についても議論しました。次のニュースで引き続いて報告します。

参考

 ICDとは、疾病及び関連保健問題の国際統計分類のこと。疾病、傷害及び死因の統計を国際比較するためWHOから勧告された統計分類です。