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避難をためらう魔の時間 洪水からどのように自分の命を守るか 

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
長岡市内信濃川長生橋の様子。全長851 mの橋下まで水が迫った(水難学会撮影)

 台風19号の被災者の皆様にお見舞い申し上げます。今回の台風で降った大雨により、新潟県長岡市内でも冠水しました。筆者は10月16日に浸水被害を受けたAさんのお宅を訪問し、聞き取り調査を行いました。調査を通じて、避難をためらう魔の時間の存在が明らかになりました。魔の時間をどのように切り抜け、洪水から自分の命を守ったらよいでしょうか。

 10月13日、上流で降った雨により、市内を流れる信濃川の水位が上昇、信濃川に注ぐ太田川の水位も上昇、さらにその支流の浄土川が越水しました。図1で説明すると、堤防がない浄土川と太田川の間にある今井地区の住宅地が冠水、100軒以上の家が浸水しました。

図1 (a)浸水被害のあった今井地区とその周辺、(b)洪水後の浄土川。矢印は流れの方向。(筆者撮影、地図はYAHOO!地図より転載)
図1 (a)浸水被害のあった今井地区とその周辺、(b)洪水後の浄土川。矢印は流れの方向。(筆者撮影、地図はYAHOO!地図より転載)

参考 洪水リスクこれから本番 流域の長い河川は特に注意 (13日14:30追加版)

魔の時間

1.就寝時間:寝ている間に状況が一変した。夜中に避難所に行けば迷惑かと思った。

2.雨が止んだ時:台風が太平洋に抜け急速に天気が回復した。もう洪水はこないと思った。

3.排水作業が進んだ時:浸水地域の排水が進み水深が一時減少に転じた。もう大丈夫だと思った。

4.1階の洪水対策を始めた時:畳上げや電化製品の2階避難に集中していたら、急に浸水が進んだ。

Aさん宅で何があったのか

10月12日 午後7時 時間雨量 13.5 mm  

台風接近に伴い、雨が一時強くなった。避難するほどのことはない。まだ洪水は起きていない。前回の洪水の教訓からしばらく起きて警戒することにした。

10月13日 午前2時 時間雨量 2.5 mm  

雨は少々降っていたが、周辺では特に差し迫った危機はなかった。これから避難するにしても深夜で先に避難して就寝している人の迷惑になるかもしれないし、以前の経験から長野県で大雨が降ってから、千曲川・信濃川を経てここまで水がくるまでに半日程度かかるので、時間的余裕があると思った。この時点で冠水はなかった。2階で就寝することにした。

10月13日 午前6時半 時間雨量 0.5 mm  

朝起きると、雨はほぼ止んでいた。しかしながら、すでに道路は冠水していた。水位は玄関の高さ、すなわち水深30 cmくらいになっていた。この時点で避難はあきらめた。浄土川が越水しているようで、家屋の西側ならびに北側から水が流れ込んでいた。近所の目撃者によると、越水に先立ち道路のマンホールから水があふれたようだ。しばらくすると、太田川へのポンプ排水の効果が効き始めた。水位が下降し始めた。雨は小降りだった。

10時13日 午前9時 時間雨量 0.0 mm

朝食を済ませ、外の様子を見たところ、水位はむしろ増えていた。玄関から水の浸入が始まったため、家電製品を2階などに避難させて、1階の畳をはがし、テーブルなどの上にあげ始めた。夫婦2人で行ったので、時間がかかった。雨は小降りだった。

10月13日 午後0時 時間雨量 0.0 mm

床上浸水。1階の床面から15 cm程度に達した。この時点で地面からの水位は1 mを優に超えた。外への避難はできない状況だった。ブレーカーが落ちた。1階の部屋の壁のコンセントの高さまでは水位は達していなかったので、なぜかわからなかった。(筆者注:床下の水没した換気扇で漏電が起こっていて、このためにブレーカーが落ちたことが、水がひいてから判明)

10月13日 午後2時 時間雨量 0.0 mm

天気は晴れで、青空が出てきた。それにもかかわらず浸水は最大となった。その後、急速に水が引き始めた。

信濃川そして上流の千曲川では何があったか

 10月13日に筆者は国道117号を利用して、新潟県から長野県へと車を進めました。調査は長野県飯山市JR飯山線信濃平駅付近の千曲川から始めました。ここでは千曲川の水位があがり、筆者が立った足元の堤防に接するくらいまで水が広がり、向こう岸の田畑を冠水させて、幅2.5 kmほどのダム湖のようでした。ここで、下流域へ流れていく川の水量を調整しているように感じました。

 今回は長野県内で多くの箇所が水没し、悲しい思いをされている方々が多い中で、長野県内のこのような工夫が下流の洪水を軽減しているのを目の当たりにした思いでした。

 図2に長野県から新潟県までの千曲川・信濃川沿いの地図を示します。調査を行った飯山市の上流に中野市があります。中野市より上流では平野となり、大きな洪水の発生した長野市に続きます。一方、下流域では飯山市に至るまでの間、河川は山と山の間の狭い地域を曲がりくねりながら、飯山市へ続きます。

図2 千曲川と信濃川の位置関係と中野市と長岡市での水位変化。日時数値はそれぞれ左右の縦軸位置を示す。(国土交通省データより筆者作成、地図はYAHOO!地図より転載)
図2 千曲川と信濃川の位置関係と中野市と長岡市での水位変化。日時数値はそれぞれ左右の縦軸位置を示す。(国土交通省データより筆者作成、地図はYAHOO!地図より転載)

 中野市での千曲川の水位変化を国土交通省のデータを用いて表し、図2に挿入しました。これを見ると、10月12日15時頃から水位が上がり始め、避難判断水位(9.1 m)に達したのが12日23時から24時の間で、最高水位に達したのは13日午前3時から4時の間でした。

 一方、もうひとつの挿入データは中野市から下流へ50 kmほど下った新潟県長岡市の信濃川での水位データです。長岡市内では新潟県内の大雨の影響で12日21時には水位上昇が始まっていました。13日午前2時には避難判断水位(23 m)を超えました。午前3時から4時にかけては、通常より6 mほど水位が高い状態で一定値となり、このときから信濃川につながる太田川、そして太田川につながる浄土川の排水が困難になり、浄土川の越水につながったと思われます。その数時間後の6時半頃には、Aさんのお宅にて玄関先が冠水しました。

 午前8時までは長岡市信濃川の水位は高止まりしていたので、ポンプによる排水が奏功し、Aさんのお宅前ではいったん水が引いたように見えました。そして、9時から17時にかけて長野県内の大雨で増水した分が襲来したようで、水位がさらに上昇し、このときAさんのお宅でも床上浸水となりました。中野市から長岡市に水が襲来するのに、およそ9時間の時間差があったことになります。

長岡市での洪水から、基本的な避難行動を検証する

1.就寝時間:冠水なしなら夜中でも躊躇せず避難する。避難所ばかりでなく、高台に向かうことも検討する。

2.雨が止んだ時:特に流域の長い大きな河川では、上流とは時間差で洪水が発生する。だから、冠水する前に避難、そして状況が安定するまで避難所から自宅に戻らない。

3.排水作業が進んだ時:あくまでの応急処置だから、状況が安定するまで避難所から自宅に戻らない。

4.1階の洪水対策を始めた時:急な増水に注意するため、必要最小限の作業にとどめる。

お知らせ (10月18日 13:45変更)

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水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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