緩いカーブでの正面衝突事故 何故バイクは飛び出したのか!?
走り慣れた道のはずなのに
9月29日夜10時頃、三重県熊野市の国道で大型バイクと軽乗用車が衝突し、バイクに2人乗りしていた姉(22)と弟(21)が死亡し、軽乗用車の女性(59)も重傷を負う痛ましい事故があった。現場はトンネル手前の片側一車線の緩いカーブ。バイクが反対車線に飛び出すかたちで対向してきた軽乗用車と正面衝突したと見られている。
ニュース映像には大きく破損したバイクとともに、フロント部分がぐちゃぐちゃに潰れてフロントガラスが内側にめり込むように壊れた軽自動車が映し出されるなど、事故の衝撃の大きさに戦慄を覚える。
何故このような悲惨な事故が起きてしまったのか……。事故現場はバイクから見ると左の緩いカーブで、ライダーも地元ということから、普段から走り慣れた難しくない道だったと思う。不可解なのは目立ったブレーキ痕が見られないこと。バイクとクルマの破損状態からも、相当な速度で衝突したことは想像できる。こうした状況から、事故の原因を考えてみたい。
仮説1:バイクの速度超過
「スピードの出し過ぎ」によって反対車線に飛び出し対向車と正面衝突、というのが一般的に最も想定しやすい事故原因と思う。ただ、おそらくは走り慣れた道のはずなのに、何故そのときは速度の見積もりを誤ったのか。
大型二輪免許を持っているはずだし、2人乗りするには二輪免許取得から1年以上の経験が必要なため、免許取り立ての初心者ということでもなかったと思うが。姉弟とのタンデムで気分が高揚し、つい威勢よく走ってしまったのか。
1人乗りと2人乗りではバイクの運転特性が大きく変わる場合がある。簡単に言えば、曲がりにくく、止まりにくくなる。また、夜間で速度感覚がいつもと違っていた可能性もある。それにしても、普通に考えれば曲がり切れないような急カーブではない。何か引っかかるものを感じる。
仮説2:よそ見などの不注意
「注意一秒けが一生」という安全標語がある。一瞬でも注意を怠ると一生残るケガを負うことになるという戒めだ。ただ問題なのは、“人間はいくつもの注意を同時にできない”ということ。ある研究によると、人間が同時にこなせる作業は2つまでだそうだ。その2つでさえ実際は満足にできないことは、携帯電話をかけながら運転する危なさが物語っている。
タンデムであればヘルメット越しの会話やインカムでのトークが楽しみではあるが、それにより注意が分散してしまうこともあり得る。同様に一瞬でもカーナビに注意を向けると、走行ラインを外れそうになることは運転者であれば経験済みのはずだ。
また、夜間の事故ということで、過労からの居眠りや突発的な体調不良も考えられないことではない。
仮説3:操作系の不具合
交通事故の中でも車両の整備不良が原因となるものは非常に少なく、いろいろな公的機関の調査でも1%未満であることが多い。ただ、前述したように今回の事故では目立ったブレーキ痕が見当たらないことが不可思議だ。何らかの原因でブレーキが効かなくなった可能性や、アクセルが戻らなかった可能性もゼロではない。
自分の経験でも、中古車でアクセルグリップのゴム製のツバ部分がホルダーと干渉して戻りにくかったことがあった。
バイク屋で聞いた気になる話
実は最近、行きつけのバイクショップで気になる話を聞いた。最新の高級バイクにはクルーズコントロール(電子制御で一定速度を保つ装置)が装備されているが、これを模して速度を一定に保ちやすくする後付けパーツが出ている。スロットルを軽い力で保持できたり半固定にできるもので、一定速度で高速道路を走るときなどは便利である。
ただし、そのショップの話では「パニック時にアクセルを戻しにくかったり、ブレーキをかけようとして逆にスロットルが開いて加速してしまう可能性もあるので気をつけて」ということだった。
また、レーシングパーツとして売られているハイスロットルなどもアクセル操作が過敏になる場合があるなど、特に操作系パーツを選ぶ際には十分な安全を確認していただければと思う。
以上、ここに挙げたのは可能性としての仮説であって、今回の事故の原因を特定するものではないし、誰かを非難するものでもない。私が言いたいのは一瞬で人の命を奪っていく悲惨極まりない事故を無くしたいということだけだ。
交通社会に生きる現代の我々にとって、交通事故は無関係ではいられないし、無関心であってはならないと思う。再発防止のためにも、関係各所にはぜひ原因究明と対策をお願いしたいと切に思うのだ。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。