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中高年の大型バイク事故が続出 なぜ曲がり切れないのか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
写真はイメージです。(写真:アフロ)

最近、中高年ライダーによる事故が再び目立っている。

2日午後、石川県の県道で大型バイクが転倒し50代男性が死亡。現場は緩やかなカーブで友人とツーリング中だった模様。警察では男性はカーブを曲がり切れずに転倒したとみて事故の原因を調べている。

同じく2日午後、長野県駒ケ根市の県道で大型バイク2台が絡む事故があった。現場は左カーブで66歳の男性がガードレールに衝突し路外に飛び出し死亡、すぐ後ろを走行していた50歳の男性も転倒して重傷に。警察によると、男性は仲間10数名とツーリング中で、カーブを曲がり切れずに衝突したものと見ている。

55歳を境に事故が増える

自工会がまとめた「2019年度二輪車市場動向調査」によると、2019年の二輪新規購入者の平均年齢は54.7歳に達するなど年々高齢化が進んでいる。バイク事故と高齢化には関連がありそうだ。

米国で年齢別の事故発生件数を調べた興味深いデータがある※注1。これによると20代前半に事故発生率が一度ピークを迎え、その後55歳ぐらいで底を打つものの、60歳を過ぎると加速度的に事故が増えていく。職業ドライバーであるバス運転手でもほぼ同様の傾向を示しているという。

若者は運転技術の未熟さや過信による事故が多く、その後経験を積むにつれ事故も減っていくが、それ以上に加齢による衰えが大きくなると事故が増えるという構図が見えてくる。これらは4輪の調査がベースではあるが、事故と年齢の関連性という意味では2輪にも参考になると言えるだろう。

※注1 出典:「交通心理学」蓮花一己/向井希宏 著

無理して大型に乗る必要などない

加齢による衰え。これは人間だれにも訪れる不可避な生理現象だ。昨日までできたことができなくなる日が、だれにでもやってくる。だから、受け入れるしかない。衰えつつある自分を正しく理解した上で、楽しく安全に乗り続けられるように努力することが大事だ。

今まで普通に曲がっていたコーナーが急にコワくなったら、衰えのサインかもしれない。たとえば、乗りやすいバイクに変えるというのも一案だ。今まで高性能な1000ccクラスの大排気量車に乗っていたのならば、600ccクラスにスケールダウンするとか、さらに軽量コンパクトな250ccクラスで操る楽しさを再発見するのもいいだろう。

歳をとれば食べる量も減る。無理してデカいバイクに乗り続ける必要などないのだ。

「円の中心を見る」を習慣にする

自分が主宰するスクールでよく見る光景がある。初心者ほどコーナーで前だけを見ている傾向があるのだが、一方で中高年ライダーはベテランでも顔を向けられなくなってくる。身体の柔軟性が衰え、顏を向けるのが億劫になってくるのが原因と思う。

「バイクは目線の方に進む」という不文律があるが、特にコーナーでは曲がっている先の先まで目線を持っていかないと、曲がり切れなくなる。速度が上がればなおさらだ。

「速度を控えましょう」というのは当然として、先を見るためにはどうしたら良いのか……。「先を見て!」だけではなかなか分かってもらえないので、スクールでは具体的な方法として「円の中心を見る」ようにアドバイスしている。

低速でパイロンの周りをグルグルと円旋回してもらいつつ、常に円の中心を見るトレーニングだ。これをやるとライダーは真横に顏を向ける感じになるが、それはつまり90度先まで目線を送ることになる。曲がり込んだコーナーであれば出口を見るぐらい大袈裟でいい。

体で覚えることで、自然とコーナーの先へ顏を向ける習慣が身に付く。歳をとるほど学習効果も衰えるので、それこそ何度も何度もやってほしいのだ。

「速いが偉い」は願い下げ

また、事故例を見ていると、仲間とのツーリング先で発生しているケースが目立つ。一人なら無理しないところを、集団で走っているとつい周囲のペースに呑まれてしまったり、離されまいと普段は出さないスピードで付いていこうとしてしまったり……。

バイクは勝負ではなく趣味のはず、ツーリングは競争ではなく楽しみのはずだ。ライダーは常に自制心が試されている。

また、ツーリングリーダーの責任も重い。これまでバイクショップ主催のツーリングに何度か参加させていただいたことがあるが、残念なことに先導するスタッフがこれ見よがしにぶっ飛ばすケースも多かった。バイクのプロであり、皆を安全に家に帰すことが使命のはずなのに、自ら事故の原因を作ってどうするのだ。

参加する皆さんも、ツーリングリーダーの資質をしっかりと見極めてほしい。「速いが偉い」的な雰囲気が漂っていたら「お先へどうぞ」とはっきり固辞していい。そこでもし「速さ自慢」をする人たちがいたら、その人のためにやんわりと諭してあげてほしい。「せっかくの景色をもう少しゆったり楽しみましょうよ」と。

ということで、この夏休み、ツーリング計画を立てている方も多いと思いますが、どうか無事に笑顔で過ごしていただければ幸いです。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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