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スペインGPで右腕骨折のマルケス その後の回復ぶりが超人すぎる!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
出典:Webikeバイクニュース ※記事内画像出典元:motogp.com

MotoGP第3戦アンダルシアGPは開けてみればクアルタラロの2連勝、そしてロッシの久々の表彰台獲得と話題も多かったが、一方で王者マルケス不在のレースということで、やや盛り上がりに欠けたことは否めない。

怒涛の追い上げからのハイサイド

マルク・マルケス(レプソル・ホンダ)は前週に行われた第2戦スペインGPにおいてハイサイドにより転倒。右上腕骨折により今回のレースは見送ることになった。その日、決勝レース序盤でトップに立ったマルケスだが、痛恨のミスで16番手にまでポジションを下げると怒涛の追い上げで残り4ラップで3番手にアップ。さらに2番手を走るビニャーレス(ヤマハ)に迫ろうとしていた。

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motogp.comにアップされているクラッシュ映像などを見ると、右から左へと切り返した直後の高速の左コーナーでリヤタイヤが縁石に触れたように見えた途端、グリップを失って滑り出しハイサイド。その反動で宙高く放り出されたマルケスは放物線を描いて落下し、路面に激突。転がりながらエスケープゾーンへとアウトしていく……はずだった。

運が悪かったのはグラベルに出たところでマシンと絡んでしまったことだ。映像で確認すると、滑走するマシンの前輪とマルケスの右腕が当たって、一瞬だが路面との間に挟まっているようにも見える。右腕をだらんと垂れたまま、うずくまって動けないマルケス。深刻なダメージを負っていることは明らかだった。

最大26Gの衝撃がマルケスを襲った

motogp.comで公開されているアルパインスターズ(マルケスにレザースーツを供給)のデータによると、インパクトの瞬間、最大で約25.98Gの衝撃がマルケスを襲ったことを示している。これは重力加速度の約26倍という値で、昨年10月に開催された第15戦タイGPで転倒した際の26.14Gに迫るものらしい。

ちなみに戦闘機の急旋回が8G、時速40キロでクルマがコンクリート壁に激突した場合の衝撃が30G程度というから、ほぼそれに匹敵する凄まじいものだ。

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レザースーツに内蔵されたエアバックはマルケスが車体から放り出された直後に膨張を開始し、約1秒後に路面に叩きつけられた時点で衝撃を吸収。そのさらに1秒後に滑走中のマシンと接触したときに最大Gの衝撃を受けていることが分かる。

アクシデントに「たられば」はないが、もしマシンとの接触がなければ、いつもどおりマルケスはすぐに立ち上がってピンピンしていたはずだ。逆に言えば頭部や胸部などに当たらなかったのが不幸中の幸いと言えるだろう。

手術成功、なんと4日後の予選にトライ

マルケスの一日も早い復活を期待したいと結びたいところだが、それを許さないのがマルケスの凄いところ。近況レポートによれば、マルケスは事故2日後に手術を行い、その直後からトレーニングを開始。なんとその4日後には第3戦アンダルシアGPの予選にトライしている。

GPライダークラスになると鎖骨を折ったぐらいでは走るライダーも多いが、マルケスは上腕骨でしかもスロットルやブレーキ操作をする右腕だ。映像では何事も無かったようにマシンに跨り、コーナーに向けて進入スライドしている様子も。

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結局は練習走行中に「肘が落ちた気がした」とコメントし、やむなく欠場することを決断したが、なんとも凄まじい勝利への執念。そして、超人的な回復力と類まれな精神力の持ち主なのだろう。動画では苦痛に表情ひとつ変えることなく、腕立て伏せを20回もこなす様子が映し出されている。

思わず「それ、おかしいだろ!」と突っ込みを入れたくなるほどのタフネスぶりだ。ちなみに2013年に最高峰クラスに昇格して以来、マルケスが負傷により欠場するのは今回が初である。

メンタルの強さが最大の武器

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やはり、MotoGPライダーは普通じゃない。インタビューなどで彼らが語る中でよく使うdeterminationという言葉がある。「決断力」とか「意志の強さ」という意味だ。レースはマシンの性能やライダーのテクニックだけで勝敗が決まるほど単純ではない。もしかしたら、メンタルの強さがマルケスの最大の武器なのかも。

最高峰のモータースポーツで戦う彼らの、アスリートとしての内面を見ていくこともまたMotoGPの醍醐味だ。

ということで、重ねてマルケスの復活を楽しみにしたい!

※記事内画像出典元:motogp.com

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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