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バイクは危ないのか!?「三ない運動」見直しの論の中で考えたこと

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

バイクの危険度とは

先日コラムで書いた 「三ない運動」見直しの記事 を読んだという知人(バイクに乗らない人)から「バイクってそんなに危ない乗り物なの?」とあらたまって聞かれた。

「三ない運動」とは言ってみればバイクの存在を全否定するようなスローガンだから、その知人もバイクってどんだけ危ないんだ、と純粋に思ったわけだ。その裏には“なら何で乗せるの?”という非難めいたニュアンスもあった。

私は答えに窮した。ライダーだったら経験的に分かっているはずだが、乗ったことがない人に危険の意味を伝えるのは難しい。そもそも、その危険度を表す方法はあるのだろうか……。

確率とイメージは異なる

そこでちょっと調べてみたら面白い話があった。統計的にみると飛行機事故で死亡する確率は自動車事故の100分の1以下、さらに海水浴中にサメに食われて死ぬ確率はその100分の1以下らしい。

我々は飛行機が落ちればほぼ全員助からないことを知っているし、サメが襲ってくる恐ろしいシーンを想像してしまうので恐怖が増幅されるが、実際に事故に遭う確率でいえばほとんど皆無に近い。逆に毎日気軽に乗っている自動車では事故率もそれなりに高くなり、それで死亡する確率も飛行機やサメより格段に高い。

つまり、怖いイメージと本当の怖さは異なるということだ。

1万人に1人の死亡事故率

ではバイク事故で死亡する確率はどれほどのものだろうか。あるデータによると、クルマとバイクの事故における死亡率を比べたところバイクは4倍以上の高い数字を示しているそうだ。また、別のデータでは登録台数からみた死傷者数ではクルマ1に対して原付は0.8程度と意外にも低く、自動二輪車は1.5倍程度とそれほど差がなかったという。

ただ、これが死亡率になると原付が1.6倍、自動二輪に至っては7倍になっている。もちろん、これらの数値は統計のとり方によって変わってくるものなので絶対的なものではない。バイク事故自体は実はクルマに比べてもそれほど多くはないが、事故を起こしたときの死亡率はかなり高いというイメージは伝わってくる。バイクという乗り物の特性をよく表した数字だ。

参考までに自動二輪車の保有者における1年間での事故による死者数は1万人に1.2人ということだが、この数字をどう見るかだろう。

余談だが黎明期の宇宙飛行士の死亡率は凄まじいもので、映画「ライトスタッフ」でも描かれていた米国・マーキュリー計画でのテストパイロットの死亡率は20%(5人に1人は生還できなかった)を超えていたのだとか。そう考えると、当時のロケットは最も危険な乗り物だったといえる。ちなみに日本が世界に誇る新幹線の死亡事故率はなんとゼロパーセント! 安全を考えたら新幹線で移動するのがイチバンということだ。

本当の怖さと認識がズレていないか

話は戻って、まあまあ危険なイメージがあるバイクを子供にすすめられるか?という話。

「子供をバイクには乗せたくない」という親も多い。自分も子を持つ親としてその気持ちもよく分かる。葛藤すると思うが、本人が乗りたいというのであれば、よく話を聞いた上でこちらが納得できればGOサインを出すと思う。でも、もし本当の危なさ、怖さを分かっていないのであれば話は別だ。

つまり、本人の認識が冒頭に挙げた本当の確率と明らかにズレているようなら、それを正しく理解できる大人になるまで許すことはできない。大人というのは無論、精神年齢的なことである。だから、40歳だろうが50歳だろうが精神年齢が子供の人には厳しく言う。「今のままだと死んでしまうよ」と。

事故は他人を巻き込む。自己責任だけでは済まされないのだ。

もちろん不可抗力もあるだろう。例えば、歩道を歩いていたら突然後ろからブレーキとアクセルを踏み間違えたクルマに跳ね飛ばされるようなことだ。これは不運としか言いようがない。

それでも、何かできることはあるかもしれない。ちなみに自分の家族には「キキーッ」みたいな異音(急発進の音や人の悲鳴など)が聞こえたら、即振り向きながら逃げる体勢をとれ、と常に言い続けている。

危険を覆い隠すだけではダメだ

話が逸れてしまったが、バイクは危ないのか?という問いに対しての答えはYESである。だが、刃物と同じでモノは使い様である。世の中に危ないものはいくらでもある。それを全部覆い隠してしまっては、長い人生の中でいずれ訪れるであろう様々なリスクに対して適切な対応ができない人間になってしまうだろう。

一生の中でみたらそのほうがよっぽどリスクが高いかもしれない。

お金や健康、家庭や仕事と人間関係、日々の移動手段など……人は皆、リスクを許容し自分なりに折り合いをつけながら生きている。バイクは移動手段でありプレジャーでもあるが、一方で“危険”という感覚を正しく理解し、それをコントロールすることを学ぶための道具としても有効である。そう自分は思っている。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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