MotoGP最終戦でKTMが3位表彰台 ウェットレースでの強さの秘訣に迫る
見応え十分だったマルケスとの攻防
11月18日、スペインのリカルド・トルモで開催されたMotoGP最終戦バレンシアGPにおいて、Red Bull KTMから参戦中のポル・エスパルガロが3位を獲得。KTMとしてMotoGP参戦以来初の表彰台を獲得した。
今シーズンで最も激しい雨天となったレースウィーク。予選でもトップからコンマ2秒落ちと好調だったエスパルガロは、今シーズン最高位となる6番グリッドからの決勝スタート。1周目から攻めるエスパルガロはスタート直後から先頭を行くスズキのリンス、ドゥカティのドヴィツィオーゾ、ホンダのマルケスに続いて4位に付けると、さらに2周目にはマルケスをパスして3番手に浮上。リンスが快調に飛ばして後続との差を広げていく中、序盤はマルケスと抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げるなど、最強の王者と互角に渡り合う姿は圧巻だった。
エスパルガロとKTMにとっての初表彰台
その後、エスパルガロは2コーナーで痛恨の転倒を喫するが諦めることなくマシンを起こしてレースに復帰。ますます激しさを増す雨の中、マルケスを含め決勝24台中8台が転倒するという波乱の展開となり、レースディレクターの判断により14周目で赤旗中断。
雨が弱まるのを待って残り14周で再スタートした後半戦では、8番グリッドからエスパルガロが果敢にアタックし4番手に躍進。今季初優勝を狙ってプッシュするロッシの転倒により3位に上がると、後ろから迫るペドロサを振り切ってそのままフィニッシュ。
エスパルガロにとっては、MotoGPクラス参戦から5シーズン目で初の表彰台を地元スペインで獲得。さらにKTMにとっても、2016年にワイルドカードで初参戦してから数え38グランプリでの初表彰台となった。
ゴール後のラップでヘルメットのバイザーを上げて目頭を押さえ続けたエスパルガロは、パルクフェルメに戻ると、同じくMotoGP参戦中の兄、アレイシと号泣しながら抱擁。「KTMで表彰台を獲得できたことを本当に誇りに思う。KTMは世界最高のマシンだ、ほんとに嬉しい。今でも信じられないよ!」と喜びを爆発させた。
また、KTMのMotoGPプロジェクト発足当初からRC16とともに戦ったブラッドリー・スミスも、2年間で最高位となる8位でフィニッシュ。年間ランキングについてはエスパルガロが14位、スミスは18位で終えた。
パワーより扱いやすさで勝負か
ここで今回のKTM躍進の理由を考えてみたい。リカルド・トレモはMotoGP開催コースとしてはコンパクトなレイアウトで、直線も短くコーナーが多いのが特徴。故にパワーやトップスピードで差が出にくく、ライダーのスキルが問われるコースとなっている。
ことさら、ウェットコンディションではパワー勝負に持ち込めないため、パワーで劣ってもむしろ扱いやすい出力特性であることが有利になるようだ。そのことがKTMに有利に働いたことが考えられる。レースの映像を見ていても、マルケスが派手なスライドでラインを外していく一方で、エスパルガロは着実に安定した旋回ラインを刻んでいた。
ライディングスタイルの違いもあると思う。エスパルガロは、マルケスのように進入時にインサイドのステップから足を外したりしないオーソドックスな乗り方だ。ドライであればスリックタイヤの強烈なグリップ力でタイヤを路面に擦りつけてスライドに持ち込めるのかもしれないが、水膜の張ったハードウェット路面ではレインタイヤでも限度がある。多くのマシンがスロットルの開けしなに、あるいは閉じた瞬間に後輪から滑って転倒しているように見えた。
しなやかな鉄フレームが生むコントロール性
RC16はドライだとややハンドリングが重そうな印象だったが、ウェットではその大らかさが逆に乗りやすさにつながっていたのかもしれない。直線が短く、ドゥカティやホンダが持ち前のパワーを生かしきれないコースレイアウトに加え、ハードウェットと言う最悪のコンディションがKTMに味方をした可能性はある。
コーナーではマシンもスライドしながら曲がっているのだが、KTMはその動きが穏やかに見えた。つまり、コントロールしやすいのではないか。KTMのRC16はフレームにスチール鋼管を使っていて、しなやかな車体剛性が持ち味と言われている。「それは狙って作っている」と2016年に開催されたRC16のプレス発表会でもアナウンスされていた。深読みすると、それは17連覇中のダカールラリーをはじめとするオフロードレースで培ったテクノロジーも還元されているのでは、と思わせるマシン挙動だった。
ライダーはパワーやハンドリングに関しても過渡特性が穏やかなほうが扱いやすいと感じるものだ。逆に急にパワーが出たり、急にスライドが始まったりするマシンはいくら速くても疲れるしミスが出やすい。極端に言えば、オフロード走行では常に滑ったり暴れまくるマシンを御しながら走っているわけで、その意味でKTMは長丁場のラリーで磨かれたコントロール性の高い車体パッケージ作りに精通していると仮説できるわけだ。
それだけではない。ラスト5ラップのホームストレートでは、エスパルガロのRC16が全チームのうち唯一300km/hオーバーを記録するなど、ウェットとは言えトップスピードの高さも見せつけた。V4エンジンパワーの向上とともにウェットでのトラクション性能の良さを物語っていると言えよう。
ライダーの実力差は紙一重
もちろん、ライダーの実力も高い。エスパルガロは27歳にしてGP界のベテランであり、2010年にはMoto3で年間3位、Moto2では2013年に年間タイトルを獲得してMotoGPに上がってきている。
また2015年、2016年の鈴鹿8耐では中須賀やスミス等と組んで2年連続優勝するなど、安定感と速さを兼ね備えたライダーだ。今回のマルケスとの序盤の攻防を見ていても、このレベルになるとライダーの実力差はほんの紙一重なのだと実感させられた。
Moto3、Moto2も勝利で飾る
またこの日、Moto3では若干15歳の新人ジャン・オンジュがKTM RC250 GPを駆り、デビューレースで初優勝という快挙を達成。Moto2でも来季からMotoGPクラスへのステップアップが決まっているRed Bull KTM Ajoのミゲル・オリベイラが勝利し、年間チーム優勝にも貢献するなど今シーズンのKTMの活躍に華を添えた。これは来年に向けての大きな成果だといえよう。
KTM以外ではLCR Honda IDEMITSUの中上貴晶が6位入賞しインディペンデントチームのトップを獲得。ホンダひと筋に18年間WGPの各クラスでトップライダーとして活躍し続けたレプソル・ホンダのダニ・ペドロサの引退レースとなるなど、最終戦を飾るに相応しい内容となった。2019シーズンのMotoGPを楽しみにしたい。
※本文は筆者自身が加筆修正しています。