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ライダーを悩ませる「右コーナーの苦手意識」 その究極の解決策とは

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

8割のライダーは右コーナーが苦手!?

ライダーには右コーナーが苦手な人が多く、特にビギナーほどその傾向が強いようです。

先日もスクールの受講生が尋ねてきました。「左コーナーはほぼ自分のイメージどおりのライン取りとフォームができていると思うのですが、右コーナーはどうもうまくいかないんです。どうしてなんですかね?」というものでした。

その彼だけでなく、練習で右コーナーと左コーナーを交互に走ってもらうと、大概は右コーナーのほうがぎこちなく、ライン取りもフォームもできていない場合が多く見受けられます。受講生を集めて聞いてみると、だいたい7~8割は右コーナーに苦手意識を持っているようですね。

原因はいろいろ考えられる

写真/山家健一  ライダー/佐川健太郎
写真/山家健一 ライダー/佐川健太郎

「ライダーは右コーナーが苦手」というテーマは今に始まったものではなく、これまでも2輪専門誌などで幾度もその原因と対策などが論じられてきました。苦手意識の主な原因としては以下のことが挙げられるようです。

【バイク操作にまつわるもの】

●アクセル、ブレーキレバー、ブレーキペダルなどの操作系が右側に集中している。

●ハンドルが右に切れるので右腕が窮屈になりアクセルやブレーキ操作がしづらくなる。

●ハングオフなどの攻めのフォームではブレーキペダルを踏みづらい。

【交通環境によるもの】

●日本は左側通行なので右コーナーは曲がりにくい。

(右コーナーはガードレールが近く、路面が逆バンクになるなど精神的プレッシャー大)

【生活習慣によるもの】

●「左回りの法則」スーパーやコンビニなどはだいたい左回りの導線を採用している。

●運動場のトラックや野球のベースなど人は左回りに慣れている。

【身体の構造によるもの】

●軸足(体重を支えやすい足)が左足の人が多い。

●心臓が体の左寄りにある。

等々、聞いたことがあったり、自分でも思い当たるフシがあるはずです。中でもバイク独特の操作系や日本の交通環境による説には納得できるものがあります。

やりづらさを受け入れ工夫する

では、苦手意識を克服するためにはどうしたらよいのでしょうか。操作系に関しては「やりずらいこと」を受け入れた上で、それを「どう工夫すれば改善できるか」を考えるといいでしょう。

たとえば、右コーナーでは「スロットルグリップを斜めに持つ」ことで右腕に余裕が生まれてスロットルを開けやすくなりますし、フロントブレーキも「人差し指と中指の2本がけ」を習慣化することで繊細なコントロールがしやすくなります。

またブレーキペダルも「ステップの踏み変え」を意識することでステップワークとペダル操作が分離され、だいぶ操作しやすくなるはずです。

意識を変えることで訪れる安心感

写真/KTM  ライダー/佐川健太郎
写真/KTM ライダー/佐川健太郎

交通環境に関しては変えようがないので、自分の意識を変えるしかないですね。たとえば、右コーナーが怖いのであれば「安心して曲がれる速度まで落とす」のが基本。その上で、目線をただ遠くに送るだけでなく「遠くから近くへ」と手繰り寄せることでコーナーの全体像が掴みやすくなり、ライン取りも安定してくるはずです。

また、右コーナーは逆バンクに見えますが、実際には路面全体にカント(傾斜)が付けられていることがほとんど。首都高なども普段はなかなか気が付きませんが、渋滞で止まるとコーナーには曲がりやすくなるようにかなりの傾斜がつけられていることが分かるはずです。

つまり、視覚的に感じることと現実は必ずしも一致しないということ。だからといって無謀に飛ばすのは論外ですが、意識を変えることでより安心して落ち着いてコーナーに入っていけるでしょう。

左手ブレーキで勝ちまくったドゥーハン

苦手意識を劇的に変えるもうひとつの可能性もあります。最近のMotoGPや鈴鹿8耐などを見ていると、右コーナーでも進入時に足をステップから外してバランスをとっているライダーが多くいることに気付きます。これはリヤブレーキを使っていないわけではありません。サムブレーキシステムといって、左手元に親指で操作するタイプのリヤブレーキ用レバーを装備しているのです。

かつて90年代にWGP500ccクラスで5年連続チャンピオンを獲得したミック・ドゥーハンはレース中の大怪我によって右足が不自由になりましたが、その後サムブレーキを駆使して圧倒的な強さで勝ちまくりました。

というように、このシステム自体は新しいものではないですが、最近のレース界のライディングスタイルの変化によって再び注目されているようです。

テクノロジーによって苦手が解消されるかも

写真/竹内三幸  ライダー/佐川健太郎
写真/竹内三幸 ライダー/佐川健太郎

考えてみれば、今や量産市販車でもクイックシフターが普通に採用されるようになり、発進と停止するとき以外ではクラッチ操作も必要なくなってきています。そうなると左手はヒマになるわけで、今後は左手で操作するタイプのリヤブレーキが採用されてもおかしくはないはずです。むしろ、テクノロジーの進化に応じてモーターサイクルの操作系も変化していくべきかもしれません。

それで、多くのライダーの悩みの種である「右コーナーの苦手意識」が改善されるのであれば、そんな良いことはないと思うのですがいかがでしょうか。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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