MotoGPに見る乗り方の変化はバイクの進化なのか、それとも・・・
MotoGPを見ていて最近疑問に思うことのひとつ。それはライディングフォームの変化である。
かつてはオーソドックスなハングオフだった
かつて、世界最高峰のロードレースがWGP500だった頃、トップライダーは皆、腰をイン側に大きく落としたハングオフフォームをとっていたが、頭の位置は比較的車体のセンター付近に置いてあることが多かった。
80年代~90年代にかけて活躍したレジェンドライダーであるケニー・ロバーツやフレディ・スペンサー、ウェイン・レイニーやケビン・シュワンツなどメーカーは違えどもコーナリングフォームとしてのその基本形は同じだった。特にホンダのNSR500とともに前人未踏の5連覇の偉業を成し遂げたミック・ドゥーハンなどはリーンアウトと呼べるほど極端に上体を起こして、むしろアウト側に頭を持っていくフォームが印象的だった。
彼らはトラコンなどの電子デバイスがほとんどなかった時代に、神業的なスライドコントロールの技術によって、ピーキーな2スト大排気量マシンを乗りこなしていた。これは驚くべきことだ。
MotoGP時代になって現れた「ヒジ擦り」
時代は下って、2002年に始まったMotoGPではマシンが4スト990ccとなり、同時にEFIやトラコンなどの電子制御も投入されていった。結果は初年度から従来の500ccを突き放す性能の差を見せつけてホンダのRC211Vが圧勝。そのMotoGP初代王者に輝いたのがバレンティーノ・ロッシである。
ロッシは前年に2スト500ccでもチャンピオンを獲得するなど、両方の時代のマシンを知る数少ない現役トップライダーだ。最近の走りを見ているとマルク・マルケスやホルヘ・ロレンソなどの他のMotoGPライダーと同様にコーナーのイン側に大きく頭を落とした、いわゆる“ヒジ擦りフォーム”になっているが、以前500cc時代は割とオーソドックススタイルだった。
それを考えると、やはりマシンの進化に合わせて乗り方が変化する中で、それがフォームとして表現されていると考えるべきだろう。
マシンコントロールは難しくなる!?
そこで疑問なのが、何故最近のMotoGPでは“ヒジ擦りフォーム”が主流になっているか、ということ。
トラコンの精度がアップして、コーナリング中にアクセルをガバ開けできるようになったとか、タイヤの性能向上によりこれ以上バンクさせることができないとか、ヒザを出す隙間もないため仕方なく頭を入れているなどの説をよく聞く。
ただ、なんとなく釈然としないものがある。ライダーとしての自分の感覚としても、ファッションとしての“ヒジ擦りフォーム”にはトライできたとしても、マシンをコントロールするという意味では難しいと思うからだ。
マシン開発の方向性がそうさせたのか
先日、かつて全日本ロードレース選手権で年間チャンピオンを獲得した経験があり、メーカーの開発ライダーとして長い経験を持つ方と話をする機会を得たので、渡りに船とばかりにその疑問をぶつけてみた。
その方によると、“ヒジ擦りフォーム”は現代のマシン開発の方向性がそのような乗り方を強いているのではないかとも。つまり、エンジンパワーや電子制御を偏重する傾向の中で、“曲がらないマシン”になっているのでは、という説だ。その証拠があの“ヒジ擦りフォーム”であって、上体からぶら下がってフロントをこじって曲がるような乗り方になるから結果的にフロントからの転倒が多くなっているという。
たしかに最近はではかつてのWGP500のようなハイサイドは滅多になくなった代わりに、フロントから転倒する例が多くなった気がする。現に昨シーズンのMotoGP王者で現役最強の呼び声も高いマルク・マルケスでもフロントからコケるシーンを多く目にした。
最先端マシンの限界を超えるためか
たしかにあれだけ頭をイン側に入れていたら、もしフロントが滑ったときにとてもリカバリーできそうにないと思う。それはオフロード走行をイメージすれば分かるが、常に前後タイヤとも滑る可能性がある中では上体をイン側に入れたフォームは正立しない。だからラリーやエンデューロなどのオフロード走行では、ややリーンアウト的な中立的なフォームになっていることが多い。
ということは、現代のMotoGPライダーはフロントタイヤの絶対的なグリップを信じてマシンに体を預けているのか、あるいはそこまでしないと曲がれないマシンなのか、それとも、最先端マシンの限界を超えて性能を引き出すための秘策なのか……。
バイクライディングはマシンとライダーによる微妙なバランスの上に成り立つものだ。“ヒジ擦りフォーム”にも言葉では簡単に表現しきれない奥深い何かがありそうだ。その辺りも含めて、今シーズンのMotoGPの開幕を楽しみにしたい。