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2018新型ソフテイルシリーズで明らかになった新世代ハーレーの狙いとは…

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
ハーレー新型ソフテイルシリーズは新たなベンチマークとなるか!?

ユーザーの理想を形にした歴史的プロジェクト

先日スペインにおいてハーレーダビッドソンの2018モデル、新型「ソフテイル」シリーズの試乗会が開催された。そこで明らかにされた今回のフルモデルチェンジにおける開発の狙いについて、あらためて現地レポートをお届けしたい。

今回の新型ソフテイルの登場は、近年のハーレーにおける歴史上の転換点ともいえる大事件である。なんと、「ダイナ」と「ソフテイル」というハーレーブランドの二大看板を統合して新型ソフテイルシリーズとしてリニューアルしたのだ。

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実は2011年から密かに動いていたプロジェクトで、日本を含む世界中で3千人以上のユーザーにインタビューした結果を踏まえてのことだ。調査の結果、いくつかのグループニーズが表面化したという。そこからはクラシックやレトロといった従来のハーレーのイメージだけでなく、「多用途性を持ったモダンスタイル」や「最先端なアグレッシブさ」なども同時に求められていることが判明。ハーレーユーザーの世代交代が進んでいることも考慮されているらしい。

こうしたニーズに従来モデルを当てはめていったとき、ダイナとソフテイルの枠組みを超えた新たなハーレー像が見えてきたという。それが今回の大手術を行うきっかけとなったわけだ。

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ちなみにソフテイルとは1980年代に登場して以来、ハーレーを支える屋台骨として人気を博してきたモデルである。従来のリヤサスペンションを持たない構造の通称「ハードテイル」に対して、見た目はリジッド風だが実はリヤサスを内蔵したスタイルで登場したことから「ソフトテイル(ソフテイル)」と呼ばれるようになった。

一方のダイナシリーズは新型ソフテイルに統合される形となり、日本でも人気が高かった「ローライダー」なども2本ショックを廃したソフテイルスタイルへとイメチェンされている。

大幅にトルクアップした新設計1868ccVツイン

新型ソフテイルで注目すべきポイントは大きく三つある。

ひとつはエンジンで、新型ソフテイルには昨年登場した新型ツーリングファミリーに搭載された新設計の「ミルウォーキーエイト」が採用されている。そして、排気量によって2タイプ、107ci(1745cc)と114ci(1868cc)が用意された。ちなみに単位のciとはキュービックインチ(立法インチ)のことで、ヤード・ポンド法が一般的な米国で排気量を表すのに用いられることが多い。

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エンジンは伝統の空冷45度Vツインではあるが、4バルブ化とツインプラグ化により吸気効率と燃焼効率をアップするとともにカムシャフトを従来の2本から1本とすることで軽量・コンパクト化を実現。これに合わせて吸排気系も改良されている。

他にも新設計の6速ミッションやアシスト&スリッパ―クラッチ、発電容量を50%増やしたジェネレータ、デュアルカウンターバランサーなどを新たに採用するなど全面的なリファインが施された。

これらの近代化により、最大トルクはそれぞれ145Nm、155Nmと大幅にアップするとともに、より低速域からハーレー独特の力強い3拍子の鼓動とスムーズな回転フィールを両立させることに成功している。

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車体剛性アップと軽量化でハンドリングを向上

二つ目は新型シャーシ。基本的には従来同様スチールダブルクレードルフレームだが、エンジンをリジッドマウントとして剛性メンバーの一部とすることで、シャーシ全体で剛性を34%も向上させている。

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もちろんフレーム自体も強化され、横剛性を上げることでステアリングの応答性とフロントの接地感を高めたという。車重もトータルで15~20%軽量化されるなど、コーナーの旋回フィールが格段に良くなっているそうだ。

また、アンダーチューブ後端部を持ち上げることで、ロードクリアランスを稼いでバンク角を増大させていることも見逃せないポイント。つまり“コーナーを攻められるハーレー“に仕上げられているのだ。

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リヤサスペンションも新設計に。これまでダイナ系はオーソドックスな左右2本ショックが特徴で、一方のソフテイルはハードテイル風に見えるスイングアーム内側の見えない位置にツインショックを装備していた。

それが新型ではよりシンプルかつ軽量な水平方向のシングルショックへと進化。加えてプリロード調整機構も全モデル標準装備としアクセスしやすい構造とするなど、セッティングも変更しやすくなっている。

伝統を継承しつつ現代的に洗練されたデザイン

そして三つ目はデザイン。ハーレーというと古臭いイメージを持っている人もいるかと思うが、新型ソフテイルではスタイリングが大幅に刷新され一気に現代的に。

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誰が見てもハーレーと分かる伝統的なシルエットや鉄をふんだんに使った重厚なデザインはそのままに、ヘッドライト類もLED化されるなどディテールも大幅にアップグレードされている。また、カラーリングも最近のトレンドであるダーク&マット系を多用するなど、若い世代へのアピールも狙ったエクステリアに仕上げられた。

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簡単に言うと、旧ダイナとソフテイルの良いところを組み合わせて現代的にリファインした感じか。まさに新時代のハーレーに相応しいパワフルでスポーティな走りと洗練されたスタイルを手に入れたのだ。

共通プラットフォームと足まわりのアレンジ

ちなみに新型ソフテイルシリーズは全8モデルがリリースされているが、基本的にエンジンは共通で吸排気系のセッティングのみモデル毎に変更されているとか。シャーシも基本的に共通だが、モデルによってキャスター角やスイングアーム幅、リヤショックの設定などが異なる。

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具体的にはキャスター角は3種類で、最も立っているのが走りにこだわった「ファットボブ」の28度で、最も寝ているのがドラッグスタイルの「ブレイクアウト」で34度。それ以外は中間的な30度に設定されるなどモデル毎のキャラクターに合わせた設定になっている。一般的にはキャスター角が立っている(角度が小さい)ほどハンドリングが俊敏になる。

足まわりに関しては、240サイズのワイドタイヤを履く「ブレイクアウト」と「ファットボーイ」がワイドスイングアーム設定で、スポーツ性能の高い「ファットボブ」とツアラー仕様の「ヘリテイジ」がリヤにロングサスを採用している。また、「ファットボブ」のみフロントフォークに最新のカートリッジタイプを装備するなど、実は細かに作り分けられているのだ。

ワインディングでの試乗会は自信の表れだった

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今回は新型ソフテイルシリーズの中の4モデルに試乗することができた。

試乗会のルートはバルセロナ郊外のワインディングが大半を占めていたのだが、日本のワインディングと似た低中速コーナーが連なる景色にやや戸惑いも。ハーレーといえば地平線まで続く道をひたすら真っすぐ走るイメージがあったからだ。「何故ハーレーなのにこんな場所で?」と最初は疑問に思ったが、いざ走り出すとそれは杞憂であったことが分かった。

新型ソフテイルは実に明快な形でハーレー流のダイナミックな走りの楽しさを提示してくれたのだ。100年以上の技術革新の上に積み上げられてきた伝統を持つ、モーターサイクルの大御所はやはり只者ではなかった。

よりスポーティに美しく進化した最新ハーレーの試乗インプレッションは下記を参照してほしい。

【ハーレー 新型ソフテイルシリーズ試乗会 動画+試乗レポート】

■FATBOB 114 コーナリングを心底楽しめる巨大ファイター

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■HERITAGE CLASSIC 114 伝統的スタイルと現代的な走りが魅力

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■BREAKOUT 114 すべてを置き去りにする怒涛のドラッグマシン

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■STREET BOB ハーレー気分を盛り上げてくれる舞台装置

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※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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