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新東名制限速度 110km/hへの引き上げがバイクに与える影響とは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

将来的には120km/hへの引き上げも

11月1日より新東名高速道路の最高速度が110km/hに引き上げられた。といっても、新静岡IC―森掛川ICの上下線約50kmの区間のみでの試行だ。対象は普通自動車やバスなどで、トラックなどの大型貨物車は現行の80km/hに据え置くということだ。

また、東北自動車道の花巻南IC―盛岡南ICでも年度内にも引き上げが試行される見通しだとか。1年以上の試行を続け、結果が良好であれば120km/hへの引き上げや対象区間の拡大を検討するとしている。

これを機に高速道路の「高速化」が進められる可能性が広がってきたということだが、果たしてバイクに与える影響はあるのだろうか。

最高速度の改定は実に半世紀ぶり

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高速道路の最高速度の引き上げは1963年に高速道路が開通して以来というから、実に半世紀ぶりである。

そう聞くと、ずいぶん時間がかかったものだと思う一方で、クルマやバイクの性能が今よりもだいぶ低かったそんな昔に100km/h巡行を許した日本政府も、思い切ったことをしたものだと感心する。

高度成長時代、新幹線開通、東京オリンピック開催など世界に戦後日本の近代化をアピールしたい時期でもあり、日本全体に背伸びしたい気分があったのだろう。今回の「高速化」は数年後に迫った2度目のオリンピック景気とも重なって見える。

出すも出さないも結局はライダーの判断

もとい、半世紀前のバイクと言えば、例えば当時国産で最速と言われたカワサキのW1でさえ、排気量650ccの空冷並列2気筒OHVで最高出力も50ps程度。ドラムブレーキに細いチューブタイヤで、当然ABSもトラコンもなければカウリングさえない。今のバイクと比べれば動力性能や安全性でも大きく劣る当時のバイクでの100km/hという速度は、現代に置き換えれば110km/hを優に超える“速度感”だったに違いないし、それを操るライダーのメンタリティもきっとずっとタフだったに違いない。

もちろん、100km/hというのは制限速度であって、それ以下の速度で走ってもいい。ちなみに高速道路の「最低速度」は通常50km/hに決められているので、その間で自分が安全と思える速度で走れば良かったわけだ。

最高速度が110km/hに引き上げられたとしてもそれは同じで、それを出す権利はあるが義務はない。結局はハンドルを握る運転者の判断にゆだねられるわけだ。

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設計速度が元々120km/hの新東名

私も新東名の試行区間は良く走るので知っているつもりだが、片側3車線でカーブもほとんどなく見通しも良いなど、スピードアップしても何ら問題も感じない安全な区間と言える。

新東名は元々が設計速度120km/hを想定した作りになっていて、現代の高性能バイクであれば実際その速度で巡行していてもまったく問題はないと思える。ちなみに交通先進国の欧州などの高速道路は最高速度が120km~130kmに設定されている場合が多く、新東名はそれらと比べても見劣りしない安全性と機能を備えていると言っていいだろう。

危惧したいのは小排気量クラス

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ただ問題もある。例えば、80km/h規制の大型トラックなどとの速度差が益々広がることになり、その中での混走は当然ながら危険度が高まる。

特に危惧しているのが小排気量モデルだ。法律的には125cc超であれば高速道路を走れるが、最近日本でも増えてきている150ccクラスでは現実的には100km/h巡行がぎりぎり可能なレベルと言っていい。

これが110km/hになると動力性能の限界近くで走り続けることになり、大きな速度差の中での危険回避などはさらに難しくなる。強風や悪天候、道路の構造などによっては、より大きな排気量のモデルにも影響を及ぼすだろう。速度が上がれば当然、制動距離も長く必要になるし、その分早めの認知・判断が求められるようになる。そう考えると、現実的に「高速化」できる道路と区間は限られたものになるはずだ。たかが10km/hされど10km/hなのだ。

それが分かっているなら、先の話のように何もムリする必要はないと考えるだろう。だが、そうできないのが人間の悲しい性で、多くのライダーはついつい限界に近づいてしまいがちだ。

人間は限界で走りたがる生き物

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交通心理学の世界では有名な「リスク・ホメオスタシス理論」というものがある。これは、”人は行動に伴うリスクが、受容できるリスクと同水準になるような行動を常に選択する”というもので、よく引き合いに出されるのがABSの話。

ABSはたしかに安全性を高め、重大事故による死亡者数の低減に貢献しているが、一方でその安全性を過信して速度を上げたり無謀な走りをしたりする人も増えるので、結局事故は減らないという考え方だ。

つまり、高い速度で安全に走れる道路や高性能なバイクを作っても、その分スピードを上げてリスクを自分で引き上げてしまうということ。法規的に110km/hが許されるならば、そこまで到達したいと思うのが人の心だ。

バイクだけ割を食う羽目にならないように

ともあれ、今回の規制緩和は時代にフィットした施策だとは思うので、ぜひ前向きに進めていっていただきたい。

ただ、最高速度引き上げに伴う取締り強化も当然あるだろうし、もし試行期間に2輪の事故が増えればバイクだけ据え置きになってしまいかねない。

軽自動車と一緒に走っていてもバイクだけが捕まるという悪夢。そうならないためにも、自制心を持って大人のライディングを心掛けてほしいと思う。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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