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【東京モーターショー2017】カワサキの新型Z900RSを眺めつつ希代の名車「Z1」に思いを馳せる

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
KAWASAKI Z900RS

今週から「東京モーターショー2017」が始まった。各メーカーから様々な新しいモデルやコンセプトが提示されているが、その中でもひと際注目を集めているのがカワサキの「Z900RS」だろう。往年の名車、Z1をオマージュした最新モデルだ。

実は先日、日本を代表する「Z」マイスターと呼ばれる方々と話をする機会があった。Zで長年レース活動をしたり、Z系カスタムの潮流を作ってきた匠たちだ。「Z」とは言わずと知れたカワサキの往年の名車、Z1(900RS)を始祖とするZシリーズである。新世代のZを語るには、まずZ1を知る必要があるだろう。

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すべてを包括したカワサキの最高傑作機

Z1は、当時世界最速と言われたホンダ・CB750Fourをすべての面で上回ることを目標に、当時では珍しかった空冷直列4気筒DOHCエンジンを搭載するなど最先端の技術が投入されたスポーツモデルとして1972年に登場した。

北米市場をターゲットに開発コードは「ニューヨークステーキ」と呼ばれるなど、まさにヨダレが出そうな豪華で高性能な最高級マシンとして、足かけ5年の歳月をかけて完成させた川崎重工の傑作機である。

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▲1972年登場のKAWASAKI Z1(900RS)

最高出力82馬力、ゼロヨン加速12秒、最高速度210km/h以上というスペックはもちろん当時の世界トップレベル。Z1は言わばその時代のスーパースポーツであり、最速マシンであり、ラグジュアリーツアラーでもあったのだ。

結果、世界中で爆発的なセールスを記録し、レースでも黎明期のAMAスーパーバイク選手権や鈴鹿8耐でもその速さを実証。

その後はZ1000やローソン・レプリカで知られるZ1000R、そしてZ1100GP、GPZ1100へと排気量を拡大しつつ進化熟成。現在まで続く熱狂的なZファンを育てるなど、ビッグバイクのカワサキの礎を築いた。

「オーバークオリティ」と言われた品質の高さ

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さて、「Z」マイスターの方々との話に戻そう。Zを知り尽くした彼ら皆が口を揃える言葉がある。「オーバークオリティ」。

川崎重工は創業以来、航空機や潜水艦を作ってきた会社だ。こうした製品は万が一にも故障があってはならない。それと同じ基準で2輪製品としては過剰な品質で作られているから頑丈で壊れないし、エンジンのボアアップなど過激なチューニングにもよく耐える。

考えてみれば、そうだ。未だにテイスト・オブ・ツクバなどの旧車レースでも現役で走り続けているし、しかも現代のスーパースポーツ並みのタイムで走ってしまう。もちろん高度なチューニングを施されてはいるが、私の知る限り他にそんなモデルは存在しない。

現代のバイクとは異なるスポーツマインド

もうひとつ、マイスターたちが語ってやまないのが“乗り味”について。走っていてZ1ほど楽しいバイクはないと言う。私もZ1に乗ったことがあり、かつて旧Z系モデルを所有していたことがあるので分かるつもりだが、なんとも素晴らしい乗り味なのだ。

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その正体は何か。空冷直4エンジンの重いクランクがゴロゴロと回る感覚や、ダブルオーバーヘッドカムが猛烈に仕事を開始する高回転域の伸びやかな加速感。

ときに暴れ馬のようによれる鉄フレームをいなしながら乗りこなす野性味だったり、大径ホイールがぶんぶん回ることで得られる安定感と細いタイヤから伝わってくるダイレクトな接地感など、現代のバイクとは異質のスポーツマインドがZにはあった。

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次元は低いかもしれないが、今のバイクよりも操っている実感は濃厚で、上手く乗りこなすにはライダーの腕が求められたし、ライダーがマシンと協調して走らせてやる必要があった。

その意味でも乗馬により近い感覚だったかもしれない。そこが面白かったのだ。今でも旧Z系モデルはプレミアムが付くほどの高値で取り引きされているが、乗ってみればその理由も分かるというものだ。

自分は懐古主義者ではないが、その時代に創られたモーターサイクルの最高傑作の一台というのは紛れもない事実。そのヒストリーに人は魅了されるのだ。

新世代Zは語り継がれる名車になれるか

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そして今回の「東京モーターショー2017」でもZ900RSに熱い視線が注がれている。「タイムレスZ」をコンセプトに40年の時を経て、Z1が持っていた「操る悦び」を最新技術で再現したという。

開発ベースになっているのは、欧州で人気のストリートファイター的なスタイリングが特徴の現行Z900である。ただ、名前が同じでもその尖がったデザインには違和感を覚えた旧Z世代もいたかもしれない。かく言う私もそのひとりだ。

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▲Z900RSのベースとなった現行Z900

それが今回、誰が見ても往年のZ1を彷彿させるデザインと風格が与えられている。エンジンにはカワサキ伝統の並列4気筒が搭載され、低中速回転域でのトルクを重視した特性でパワーと扱いやすさを高い次元で両立。Z1からインスピレーションを受けたティアドロップフューエルタンクやエンジンカバーをはじめ、テールカウル、ホイール、ボルト類に至るまでこだわりが随所に盛り込まれている。エンジンは水冷化され、倒立フォークにシングルショックが与えられるなど現代的になっているが、それがレトロスポーツとどう化学反応を起こすか。

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前述のZマイスター達にも聞いてみたが、新世代Zに大いに期待している様子だった。長く語り継がれる名車になれるか否かは、ユーザーの受け入れ方にかかっている。Zファンのひとりとしても温かく見守っていきたい。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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