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ワインディングで遭遇する「縦溝」は何のためにある!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

路面に無数の「縦溝」が切られた道。ツーリング先のワインディングなどでたまに出くわすことがありませんか?何となく滑りそうで怖い感じがしますよね。

私も先週末に長野方面にツーリングに出かけたとき、山を越える峠道の途中で「縦溝」に出くわしました。短い区間ならまだしも、高速コーナーが連なるワインディングのほぼ全面に「縦溝」が入っていて、正直なところ不安を感じました。

by [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
by [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons

走っているとタイヤのトレッド面が溝と干渉してウネウネと動いている感じがして、タイヤのグリップ力を信頼できない感じになります。でも一体何のために、こうした「縦溝」が存在しているのでしょうか。

スリップ事故防止のためのグルービング工法

いろいろ調べたところ、これは「グルービング工法」というもので、進行方向と平行に溝を掘る「縦溝」と、直角に溝を掘る「横溝」の2つの方式があることが分かりました。

こうした施工を手掛ける企業で作る日本乾式グルービング施工協会のサイトによると、溝を掘るのは一般道や高速道路などでスリップ事故を未然に防ぐのが目的としています。

具体的には「路面に溝を切り込むことで、路面排水のアップ、ハイドロプレーニングの防止、路面の凍結防止、制動距離の短縮化などに優れたメリットを発揮する」とのこと。また、「カーブでは操縦安定化、直線道路や滑走路などでは雨天時のスリップ防止、交差点手前では制動距離の短縮化」などの効果があり、事故件数の減少に貢献しているとのことです。

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「縦溝」と「横溝」で役割が異なる

タイプ別の効果ですが、「縦溝」は溝へのタイヤの食い込み作用によってすべり抵抗が確保されるため、カーブではタイヤのグリップ力を高めコーナリング時に操縦を安定化したり、直線路では横風への抵抗力をもたせてスリップ事故を防止するとしています。

一方、「横溝」は走行時にタイヤから伝わる音と振動により、居眠り運転の防止や減速を促す際の警告などが目的。交差点・横断歩道・料金所などの手前に施工した場合、雨天時の濡れた路面で制動距離を短縮することができるそうです。

「縦溝」の効果については疑問が…

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▲画像出典元:芦ノ湖スカイライン 公式サイト

たしかに「横溝」に関しては、納得できるものがあります。観光道路などではメロディロードなどの名称で、溝の間隔を調整することでロードノイズを利用した名曲が楽しめる仕組みになっていたりします。

たとえば、芦ノ湖スカイラインでは箱根が舞台となる「新世紀ヱヴァンゲリオン」のオープニング曲「残酷な天使のテーゼ」を奏でるメロディーペーブ(音響道路)が有名ですね。また、特に雨天時などは水捌けを良くして制動距離の短縮なども期待できそうです。

これに対して「縦溝」の効果ですが、たしかに凍結路面の氷膜を分断して氷雪を排除したり、雨天時に路面排水を促進し速やかに乾燥させたり、といった効果はあると思います。

ただ、前述の「カーブでのタイヤのグリップ力の向上」や「コーナリング時の操縦安定化」に関しては、いまひとつ腑に落ちないものがあります。それは何故なのでしょう。

2輪の安全性に寄与しているか

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既にお気付きの方も多いと思いますが、ライダーが感じる縦溝の違和感に関しては、おそらくは2輪と4輪の特性の違いがもたらすものだと思われます。こうしたグルービングのメリットは主に4輪で発揮されるものであって、ややもすると2輪ではデメリットになっている可能性もあります。

バイクのタイヤの接地面積は名刺一枚分とも言われ、クルマに比べると非常に小さいものです。また、タイヤの形状も異なっていて断面がラウンドしています。

バイクがコーナリングする際には、このラウンド(キャンバー)を使ってバンク角を調整しながら旋回していくため、4輪で踏ん張るクルマに比べると路面の変化に弱いと思われます。

グルービングの2輪への影響については、実験などで精査したわけではないので迂闊なことは言えませんが、長年ライダーとして様々な道を走ってきた実体験から感じたことです。

バイクとクルマが共にメリットを得られる工夫を

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グルービング工法は全国の道路で実績のある優れた技術であることは間違いないでしょう。ただ、やはり2輪と4輪では運転特性が大きく異なるため、今後はそのあたりの検証と工夫もお願いしたいところです。

たとえば、個人的なアイデアですが、バイクが走る車線のセンター付近はグルーブ無しにして、クルマのタイヤが通過するであろう車線の両端はグルーブ有りとすれば、2輪と4輪双方が安心して走れるのではないでしょうか。

ライダーにしてみれば、常に自分の車線のセンター付近を走ることを意識させられるため、安全マージンも高まり、はみ出しなどによる事故も結果的に減少するかもしれません。クルマのドライバーにとっても、グルービングがあるせいで前をフラフラと走るバイクに気を揉まずに済むかもしれません。

バイクの場合の安全性や走りやすさも精査しつつ、2輪と4輪の双方にメリットをもたらす方法を探っていきたいものです。

以上、週末のツーリングでふと思ったことです。皆さんはどう考えますか?

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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