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【元MotoGP王者が交通事故で死亡】 自転車のリスクについて今一度考え直そう

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

スーパーバイク世界選手権参戦中の元MotoGP王者、ニッキー・ヘイデン選手が自転車事故により亡くなった。

ヘイデン選手は、イタリアで開催された第5戦後に、同国リミニ近郊で自転車トレーニング中、自動車との接触事故に遭い、地元の病院に緊急搬送されたとのこと。

多発外傷や脳の損傷と診断され、その後、集中治療室において医師団による懸命の治療が続けられていたが、現地時間5月22日夜に死亡が確認された。

享年35歳だった。

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先週初めにバイク業界を沈黙させた悲しいニュースだが、我々はその事故から教訓として学び、前に進まなければならない。きっと彼もそれを望んでいるはずだ。

どこにでもある十字路で起きた事故

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事故の詳細についてだが、海外の情報などによると事故現場はリミニ郊外の十字路で、側道から自転車で進入してきたヘイデン選手と、その左方向から進行してきた乗用車が衝突。運転者は30歳のイタリア人男性との情報もある。

事故の様子は交差点近くの監視カメラに録画されていて、地元警察によるとヘイデン選手が一時停止を怠った可能性もあるとのこと。

ネットに掲載されていた現場の写真を見ると、どこにでもある長閑な田舎道。

片側一車線のやや太い道を、自転車に乗ったヘイデン選手は横切ろうとしたようだ。フレームの折れたロードレーサー(競技用自転車)や、割れて大きく凹んだ乗用車のフロントガラスが事故の衝撃を物語っている。

国内でも発生している同様の事故

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奇しくも今週初め、21日朝に日本でも同様の事故が発生している。

埼玉県川口市の市道で乗用車と自転車が出合い頭に衝突し、自転車を運転していた会社員男性(44)が頭を強く打ち亡くなっている。

このケースも直進の乗用車と左方から来た自転車による衝突で、自転車側の道路には一時停止線があったとのこと。地元警察署によると、現場は信号機のない交差点で、植え込みのため見通しが悪かったという。

自転車は止まれずダメージも大きい

筆者も、トレーニング用にロードレーサーに乗るので、その特性を理解しているつもりだが、自転車は自分の足で漕ぐため、特に発進・加速で大きな労力を使うので、なるべく止まらずに交差点を通過したいという心理が働く。

特にトレーニングなどで心拍数を上げているときはなおさらだ。また、ロードレーサーは一般の人が考えている以上にスピードが出る。

特に下り坂では50km/h以上の速度が簡単に出てしまう。その一方で止まるのは苦手で、貧弱なブレーキと細いタイヤで急停止することはまず無理だ。

そして、一旦事故に見舞われれば、何のプロテクターもエアバッグも装備せず、裸同然の人間はあまりに脆弱な存在となる。

自転車ユーザー側のマナーにも問題がある

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自分はクルマやバイクにも乗るので、それぞれの運転者の気持ちがよく分かるが、クルマやバイクから見ると自転車はとても危険に見える。

耳にイヤホン姿で信号無視して、側道から飛び出してくる中高生や、一方通行を逆走するお年寄り、子供を乗せてフラフラと車道を横切る主婦。そして、全身をサイクルウエアで固めて走行するロードレーサー……。

最近では、自転車に対する取り締まりも強化されているが、それでも一部の自転車に乗るユーザーのマナーはけっして良いとは言えない。

自転車事故の割合はバイクを上回る

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近年は啓蒙活動などの効果もあり、自転車による事故件数は交通事故全体件数と同様に減少傾向にある。

また、自転車による死亡事故も減少しているのだが、一方で交通死亡事故全体に占める割合としてはここ10年ほど横ばいの状態が続いている。

ちなみに、交通事故における死亡者数の割合は警察庁発表の平成26年のデータによると、「自転車」乗車中が13.1%と「自動二輪車」乗車中の10.7%を上回っている(「原付」乗車中は6.2%)。

免許もいらず、誰でも気軽に乗れる自転車は、一方で潜在的にリスクの高い乗り物であることがデータからも読み取れる。

二輪の世界チャンピオンでも避けきれなかった自転車による事故の教訓は、公道を利用する我々全員が重く受け止めるべきだろう。

ヘイデン選手とご家族、関係者の方々には心よりお悔やみ申し上げたい。

Nicky Hayden

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ニッキー・ヘイデン選手は米国・ケンタッキー州出身で、兄弟もプロライダーというモータースポーツ一家に生まれ、幼少期からレース活動に親しみ、1999年に全米選手権のAMAのスーパースポーツクラス(600cc)でチャンピオンを獲得。

2002年には同スーパーバイククラスで史上最年少チャンピオンを獲得するなど才能を発揮。2003年からはホンダ・ワークスチームから世界最高峰のMotoGPクラスに挑戦し、2006年には年間チャンピオンを獲得した。

2016年からはスーパーバイク世界選手権へ舞台を移し、昨年の鈴鹿8耐にも日本のチームから参戦するなど活躍。

親しみやすいキャラクターで国内にも多くのファンを持つヘイデン選手は、輝かしい実績と豊富な経験を持ったベテランライダーとして今後も活躍が期待されていた。

故人のご冥福をお祈りいたします。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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