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【譲り合い、自分で考える】ラウンドアバウト(環状交差点)が象徴するものとは…

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
欧州でよく見られるラウンドアバウトは機能性と美しさを兼ね備えている

最近、日本でも徐々に導入が進んでいる「ラウンドアバウト」。日本では環状交差点とも呼ばれているが、最近の新聞に気になる記事があった。欧州などでは、信号がないサークル状の交差点をよく目にすることがある。4叉路や5叉路、それ以上の場合もある。

譲り合いの精神で安全に効率よく

ラウンドアバウトに進入してきた車やバイクは、その中をぐるぐる回りながら、自分の行きたい方向へと出ていく。一見、無秩序のようだがちゃんとルールがあり、たとえば中を回っているクルマに優先権があり、入ってくるクルマは譲らなくてはならない。

また、交差点内のクルマが流れていなければサークルの中に入ることはできず、逆に安全が確認できれば一時停止せずに進入することもできる。

信号などでカッチリと規制しなくても、お互い譲り合いの精神の中でうまく調和しながら、安全に効率よく運転しているわけだ。

海外を旅すると、街中や郊外でもごく普通に見る光景だ。ラウンドアバウトでは信号がない分、相手を思いやる気持ちや、次にどうなるかを想像する力も必然的に求められる。先頃、バイクの試乗会で出張したオーストラリアでもラウンドアバウトは至る所にあり、実に機能的でスムーズな交通の流れを実感したものだ。

新聞記事によると、ラウンドアバウトの発祥は英国で、その歴史は意外にも新しく1960年代に考案されたとか。すでに都市化が進み、交通渋滞に苦慮した中で生み出された知恵なのだそうだ。

日本では一般化されていないラウンドアバウト

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その頃の日本はというと、まだクルマ社会の黎明期。東京オリンピックに沸き、東京に最初の首都高がようやく開通した頃だ。

そこから半世紀が経つが、日本ではまだまだラウンドアバウトは一般化されていない。

70年代には日本でもすで交通戦争、交通渋滞の慢性化が社会問題になっていたにもかかわらず、十字路式の交差点のまま今日までやってきてしまった。つまり、改善を怠ってきたわけだ。

信号は絶対という妄信 「右直事故」の悲劇

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信号機で規制された十字路式の交差点は、いかにも統制がとれていて、安全そうな感じがする。

青は進んでよいのだから、堂々と迷いもなく自信をもって交差点を突っ切ろうとする。でも、信号に統制されるほうの人間は完璧ではない。そこで起こるのが、典型的な「右直事故」だ。

「右直事故」では特に二輪が犠牲になることが多い。

右折待ちのクルマは「渋滞が途切れた隙に急いで曲がってしまおう」とか「対向車が譲ってくれているから有難く……」などと思いがちだが、その陰には二輪がいることをすっかり忘れている。

ライダーのほうも青信号なのだから、と安心してあるいは慢心してすり抜けをし、交差点を突っ切ろうとする。両者の誤解が悲惨な結果を招く。信号という機械、それによって統制されている交差点自体が“自分で考える力“をスポイルしているとも考えられる。信号は絶対という妄信が招く悲劇と言えよう。

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良い仕組みやルールを安全向上や効率化に生かしたい

ちなみに海外では鉄道の踏切で一時停止する習慣はない。

日本では、コンピュータ制御の遮断機があって、1時間に1本しか通らない踏切でも、延々と列をなして一時停止をしている。それは極端としても、踏切渋滞でのイライラは日常的な光景となっている。

真面目な日本人気質の象徴のような話だが、実際のところ一時停止しても踏切に入るまでは電車が来ているかどうかは見えないケースがほとんどではないか。それでは本末転倒というもの。話は逸れたが、これも一考の余地ありではないだろうか。

ラウンドアバウトが完全無欠ということではない。

ただ、良いものは良いということで、世界に広く目を向けていろいろな知恵や工夫を吸収しつつ、自分たちの安全向上や効率化に生かすことも必要だろう。我が国はそのあたりの柔軟性やスピード感がまだまだ足りない気がする。

夕方の交通ラッシュで殺気立つ交差点でふと思った。

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※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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