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トリシティ155に乗って感じた 3輪バイクの可能性とは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
YAMAHA TRICITY 155 ABS

発売から約一か月が経ち、各メディアでも試乗記事などが掲載され始めたトリシティ155。

ヤマハが今、肝入りで開発を進めている3輪スクーターの真価について、あらためて考察してみたい。

キーワードは「安心感」

トリシティ155は数年前に発売された125に続くLMWの第二弾である。LMWとはリーニング・マルチ・ホイールの略で、ヤマハが名付けたリーン(傾斜)して旋回する3輪以上の車両のこと。

トリシティも通常のバイクと同じように車体を傾けて曲がっていくが、違うのはフロント2輪であること。

自分自身、トリシティ155には今年になってからすでに数回試乗させていただいた。その印象を端的に伝える言葉として、“安心感”というキーワードが頭に浮かんだ。

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いつか転ぶかもしれない恐怖

バイクに乗ったことがある人なら分かると思うが、クルマと決定的に異なるのは「いつか転ぶかもしれない」という不安があることだ。

4輪で踏ん張るクルマの場合、よほど無謀な運転でもしない限り転倒することはまず考えられない。少なくとも運転中にそうした意識はないはずだ。それがバイクの場合、多かれ少なかれ常にスリップダウンへの恐怖を心の片隅に抱えながら走っている。

特に冬場でタイヤが冷えているときや、マンホールや横断歩道の白線など滑りやすい路面、路肩に散らばる砂利などに出くわすと一気に緊張感のボルテージが高まっていく。実際にそれで転倒してしまった経験がある人ならなおさらだろう。

3輪ならではの圧倒的な接地感

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話を戻してトリシティだが、実際に乗ってみて、そうしたバイクに特有の「転倒恐怖症」をかなり軽減することができると感じた。

直線でもどっしりとした安定感があり、路面にできた深いワダチを跨ぐときにも挙動が乱れることがなく、高速道路でもトンネル出口や高架橋などでヒヤッとさせられる横風に対しても強い。

と、いろいろメリットはあるのだが、やはり特筆すべきはコーナリングでの安心感だろう。

一般的なフィーリングとして、通常のバイクだとコーナーに向けて車体を倒し込んでいく瞬間が最も緊張する。前輪から滑って転ぶネガティブイメージが頭をもたげるからだ。

それがトリシティの場合、フロント2輪で踏ん張ってくれるため、まず破綻する気がしない。カチッとした剛性感を伴ったその圧倒的な接地感は、どんなハイグリップタイヤと高性能サスペンションを持ったモーターサイクルをも凌駕するものだ。

「パラレログラムリンク」と「片持ちテレスコピックサスペンション」

それを可能にしたのが、「パラレログラムリンク」と「片持ちテレスコピックサスペンション」という機構。

難しい話は置いておくとして、リーン中でも左右2本ずつのサスペンションがそれぞれ独立した動きで路面を捉え続けることができる。例えば、左右どちらかの片輪がギャップに乗ったとしても、あるいは滑ったとしてももう片輪がカバーしてくれる。

つまり、保険をかけた状態で走れるわけだ。

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コーナリング中でも普通にブレーキ

それはブレーキングでも同じで、前後連動ブレーキによって3輪に分担して制動力を伝えるため非常に強力かつ安定している。加えてABSも装備されているため、思い切ってフルブレーキングしてもまず何も起こらない。

試しにコーナリング中に車体を寝かし込んだ状態から強くブレーキをかけてみたが、車体が起き上がろうとする力を感じながら急減速するだけで実に安定している。通常のバイクであれば前輪が切れ込んで転倒しているはずだ。

もちろん、物理の法則から外れるようなムチャな真似はできないが、確実に言えるのは“より安心で安定した乗り物”ということだ。

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何事もなく段差を乗り越える

もうひとつ、感心したのは走破性の高さだ。たとえば、コンビニの駐車場に入るときなど、歩道の5cm程度の段差を乗り越えなければならない場合があるだろう。通常のバイクであれば、段差に対してなるべく前輪を直角に当てて滑りにくくしたいところだ。

ところがトリシティなら、何も考えずに斜めに入っていけるし、段差を超えるときの衝撃もほとんど感じない。

長年乗り続けたバイクの感覚に慣れた身としては、ちょっと拍子抜けしてしまうほどだ。

「転ぶ恐怖」からの解放という功績

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3輪バイクは他にも様々な種類がある。他メーカーでもリーンして曲がるタイプの3輪スクーターを発売しているし、ハーレーの「トライク」に代表されるリヤ2輪タイプや逆にフロント2輪を採用した「リバース型トライク」などもある。

見た目も操縦特性もそれぞれ個性的で楽しいし、趣味の乗り物としてはバラエティに富んでいて素晴らしいことだと思う。

その中でもトリシティは、通常のバイクに極めて近い乗り味やサイズ感そのままに、安心感と安全性を格段に高めたモデルとして注目に値すると思う。

世の中にはバイクに乗ってみたいけれど、ちょっと怖い感じがしてなかなか一歩を踏み出せない人たちが想像以上に多くいる気がする。

その意味でもしかしたら、多くの潜在的ユーザーをバイクから遠ざけていた“転ぶ恐怖”をだいぶ取り去ったことが、トリシティの最大の功績ではないかと思うのだ。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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