水をエンジン内部に噴射して冷却する画期的システム「ウォーター インジェクション」をボッシュが発表!
世界的な自動車関連機器サプライヤーとして知られるドイツ・ボッシュ社が「ウォーターインジェクション システム」を発表した。
これは従来型エンジンによる、燃料(ガソリン)を使った冷却方式を“水”で代替する画期的な技術である。
駆動力を取り出す以外に「冷却」にも活用される燃料
ボッシュのリリースによると、最新型の自動車エンジンでも燃料の約5分の1が駆動以外に使用されている。
昨今のほぼすべてのガソリンエンジンは、補助的に燃料を噴射して過熱を防ぐシステムを導入しており、高回転域におけるエンジンの冷却のために使われているという。
これは、燃料(ガソリンなど)の気化熱によって、エンジンブロックや燃焼室自体を冷やすことが目的で、この物理的原理をさらに有効に推し進めたのが「ウォーター インジェクション システム」である。
「水冷エンジン」の冷却水とは異なる!?
水冷エンジンは、エンジン内部に水(クーラント)がウォータージャケットと言われる専用の通路を循環することで、エンジンブロックを冷やす役目を担っている。実際に燃料が爆発する燃焼室内は高温に晒され、温度も一番高くなる部分だが、冷却水が直接燃焼室内に入り込むことはなく、あくまで金属壁面を通して冷却が行われる。
燃焼室を直接冷却することは、ピストンやシリンダーへのダメージを抑えるという意味でも重要で、一般的には燃料が気化することでその役目を担ってきた。
ガソリンの代わりに「水」を気化させて冷却する仕組み
仕組みとしては、燃料に着火する直前に霧状の「水」をインテークマニフォールド内に噴射し、その気化熱により冷却を行うというもの。
加速時や高速走行時などに燃料に水を加えて噴射することで、冷却に使用されていた燃料を節約し、燃費を最大13%向上(新燃費基準のWLTCで4%向上)させることができる。
この技術により、特に3気筒や4気筒のコンパクトなダウンサイジングエンジンでも、燃費を向上することが可能だとか。
また、燃費だけでなく出力とトルクにも貢献。エンジンの効率化によりターボエンジンのパワーもさらに上がり、もともと高出力・高トルクのスポーツカーでも、さらにパワーを上乗せできるという。
ちなみに一番気になるところだが、噴射された水はエンジンで燃焼が行われる前にすべて蒸発して、排出ガスと一緒に排出されるため錆などの問題はない。
すでに4輪では実用化・量産が行われている技術
実はこの技術はすでに直列6気筒ターボエンジン搭載の「BMW M4 GTS」などに導入されていて、搭載されるボッシュ製ユニットにより圧倒的なパワーと高回転域での優れた燃費性能を実現している。今回の発表により、これを量産モデルへも普及したい考えだ。
システムの要となる水については、100km走行毎に必要な量は数百ミリリットルということでウォータータンクもコンパクトに収められるし、蒸留水の補充も数千km毎で十分とメンテナンス性にも優れている。また、たとえウォータータンクが空になっても、燃費とトルクが落ちるだけでエンジンにはまったく問題ないそうだ。
効率面だけで考えれば、シリンダー内に直接水を噴射する方式も考えられるが、ボッシュとしては低コストと技術的メリットを両立させたポート噴射式を採用しているとのこと。これにより、量産化と幅広いセグメントへの対応が可能とのことだ。
量産市販車で実用化された「意義」
レースの世界や航空機エンジンでも水噴射冷却の技術は以前から存在したが、今回のボッシュの「ウォーター インジェクション システム」は、これをコストダウンしつつ量産市販車で実用化した意義は大きいと思う。
まずは4輪プロダクトから普及していくと思われるが、いずれはモーターサイクルへの応用も考えられないことはない。
ただ、2輪の場合、ターボなどの過給機の採用はごく一部のモデルに限られているし、元々が低燃費ということもあって燃費についても4輪ユーザーほどシビアでない等々、2輪における水噴射冷却の技術的な優先度としては低いのかもしれない。
しかしながら、テクノロジーは常に進化するものである。近い将来、2輪への画期的な応用もあるかもしれない。
最近ではEVや電子デバイスなどの新しいモノに目を奪われがちだが、150年以上の歴史を持つ内燃機関のさらなる可能性を期待させるニュースとして注目される。