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何故起きたのか!? 大型バイクと軽自動車の衝突炎上事故について

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

田園風景の中で突然起こった凄惨な事故

5月29日(日)午前8時半頃、群馬県太田市の国道50号で、軽自動車と大型バイクが衝突する事故が発生。新聞報道などによると、軽自動車は炎上し、車内に同乗していた女性3人とバイクを運転していた男性と合わせて4人が死亡。交通事故によって、また尊い命が失われた。クルマの3人は30代の母親と高校生の娘、その祖母だったという。バイクの男性は49歳の会社員とのこと。

詳しい事故の経緯は調査中とのことだが、情報を総合すると以下のような状況だったらしい。

現場は信号機がない見通しの良い交差点で、中央分離帯の切れ目から軽自動車が右折しようとしたところ、直進してきた大型バイクと衝突、その直後に2台とも炎上したという。

詳しい事故原因を調査中とのことだが、目撃者の証言では「バイクは相当な速度を出していた」らしい。現場に残された約20メートルのブレーキ痕もそれを裏付けている。また、目撃者の話ではバイクは国産の大型スポーツモデルとのこと。事故現場の無残な写真からも、ある程度は車種も特定できるはずだ。

見通しのよい片側2車線の道路で何故?

現場近くは直線で見通しも良いため、速度を出している車両も多いそうだ。私も何回か国道50号をバイクで走ったことがあるが、渡良瀬川と並行して走る交通量もそれほど多くなく気持ちのいい道だ。

軽井沢方面から下道で前橋、佐野を抜けて水戸方面までつながる利便性もあり、ツーリングライダーもよく利用することで知られる。もしかしたら日曜の朝ということで、亡くなったライダーもツーリングに出かける途中だったのかもしれない。

そんなのどかな田園風景の中で突然起こった、信じられないような事故。一家3人とライダー1人の命を一瞬で奪い去った事故の恨み、悲しさを一体どこに向ければいいというのだ・・・・・・。

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現場の様子から考えられる事故の状況

話を戻して、事故現場の様子だが、中央分離帯には生垣があり、双方から見えにくかった可能性はある。また、一番近い信号のある交差点までは数百メートルあるため、地元の人はここを右折して近道する例も少なくないようだ。

このように、道路の構造上の問題、あるいはロケーション的な要因もあるにはあるが、やはり根源的な問題とすべきは、双方の「前方不注意」とバイクの「速度の出し過ぎ」に尽きるのではないか。

事故の経緯だけ聞けば、よくありがちな「右直事故」で片づけられよう。そうであれば、過失割合としては当然クルマに非があることになる。だが、直進してくるバイクが制限速度はおろか日常ではありえない速度だったとしたら、クルマのドライバーを非難することができるだろうか。

報道によれば、死亡した3人の家族は事故現場からすぐ近くの自宅で一緒に暮らしていたそうだ。きっと土地勘もあり、よくその道路を利用していたに違いない。であれば、右折待ちのときに直進してくる車両の速度感にも慣れていたと思える。ただ、それが運悪く尋常でない速度で接近してくるバイクであり、距離と到達時間の目測を誤ったとしても不思議ではない。

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これは憶測でしかないが、いろいろな現場写真と映像を見た限り、バイクは相当な速度で衝突したとしか思えない。衝突現場から10m近く飛ばされて、横倒しになった黒コゲの軽自動車は左側のドアが内側にめり込み、車体が「くの字」にひしゃげるほど大破している。

一方のバイクはメインフレームが引きちぎれ、もはや原型をとどめていない。そもそも、軽自動車が横転するほどの衝撃だ。大型バイクとはいえ、その運動エネルギーを作り出す速度がどれほどのものだったかは推して知るべし。その領域では、最新のABSも電子制御もエアバッグさえも役には立たないだろう。

「自制心」を失ったその先に

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今回の事故は、「右折するクルマが悪い」とか「先方不注意のせいだ」などの杓子定規な批判では到底済まされない、重すぎる現実があることを示している。

そして、スピードの魔力の先には、取り返しのつかない悲惨な不幸が待っていることを伝えている。

自制心を失ったときに地獄の窯が口を開ける。我々に残された教訓である。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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